サイケデリックMVのお祭りだ!Deee-Liteは必須だが、Röyksoppも外せない(オススメMV #143)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の143回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は、サイケデリックMVの特集をお送りします。
以前、「勝手に命名シリーズ」と称していくつか特集をお送りしていましたが、今回もそのひとつとも言えますので、「サイケデリックMVと勝手に命名」というタイトルにしても良かったですね。
さて、今回紹介するMVはその名の通り「サイケデリックなMV」ですが、新旧取り混ぜながら6つも紹介しますので、最後まで楽しんでご覧ください。
まず最初に紹介するサイケデリックMVは、私の中で「サイケデリックMVの最高峰」と勝手に認定しているMVとなります。
ディー・ライトの「Groove Is in the Heart」です。どうそ!
1990年リリースとは思えない、今でも斬新かつ新鮮な映像のMVです。
楽曲とのマッチングも最高で、まさしくGroove感満載ですね。
ディー・ライト(Deee-Lite)は1989年結成のUSのダンスミュージック・グループで、1990年半ばに既に解散してしまっていますが、1990年にリリースした1stアルバム「World Clique」がダンスミュージック界に衝撃を与えた今でも語り継がれるグループとなります。
そして、その1stアルバムからのリードシングルとしてリリースされたのが、この「Groove Is in the Heart」となります。
「Groove Is in the Heart」のMVは、今でも「あっ、この映像表現、『Groove Is in the Heart』をリスペクトしているな!」というMVが多数リリースされているほど、新たな表現にチャレンジし、それが成功したMVとなります。
MVだけではなく楽曲としても素晴らしく、ぜひ楽曲だけでも聴いてもらえれば、その素晴らしさに気付いていただけるはずです。(この楽曲が1990年リリース?と驚かれると思います)
ちなみに、この「Groove Is in the Heart」のMVについては、本連載で一度紹介しており、そちらでも詳しく解説していますので、ご興味ある方は以前の回もご覧ください。(テイ・トウワさんと中野裕之さんも紹介しているオススメの以前の回はコチラ⇒「ダンス系洋楽MVの三連発」)
ディー・ライトの話は尽きないので、そろそろ次のMVに参りましょう。
続いての「サイケデリックMV」は、コチラも以前の回で紹介したMVとなります。(どうしてもイケてるMVはこすってしまいます...)
ロイクソップの「Never Ever ft. Susanne Sundfør」です。
上のディー・ライトのMVとはまた違う、新たな種類のサイケデリックMVと言えるギミック満載の名作MVです。
ロイクソップのポップな楽曲とスザンヌ・サンドフォーの歌声、そしてサイケデリックな映像の三位一体が異次元の高揚感を生み出しています。
ロイクソップ(Röyksopp)はノルウェーのエレクトロデュオで、私のお気に入りのアーティストでもあります。(本連載でも過去に6回も登場しているので、お気に入りの程が分かります)
一番オススメの回は、ロイクソップがカリンと組んでリリースした名曲であり名作MVでもある「What Else Is There ?」を紹介している回ですので、ご興味ある方はぜひご覧ください。(オススメ回はコチラ⇒「現実と紙一重の向こう側。ロイクソップとカリンの紡ぐ調べは我々をどこに誘うのか」)
「Never Ever」はシングルと2016年にリリースされた楽曲です。
アルバムには未収録なのですが、ロイクソップはアルバムという形態に縛られていては単体の楽曲のクオリティを高めることが難しいとして、2014年にリリースした5thアルバム「The Inevitable End」を最後に既存のアルバムという形態でのリリースはやめると宣言し、その言葉の通り2016年に名曲とも言える「Never Ever」をリリースしたワケです。
実は「Never Ever」は、楽曲はお気に入りであるものの、映像の色使いの印象付けが強すぎてMVとしてはじっくり観ることが無くあまりリピートすることの無いMVでした。
しかし、先月本連載で少し紹介した際に久しぶりにじっくり観てみたところ、「あれっ、このMVめちゃくちゃスゴイ! ディー・ライトの『Groove Is in the Heart』と双璧を成すサイケデリックMVだ!」と改めて気づき、今回のサイケデリックMVの特集と相成った次第です。
(ちなみに、先月の「Never Ever」を紹介した回はコチラ⇒「絶対スザンヌサンドフォーに違いない!」)
では、「Never Ever」のMVを詳しくみてみましょう。
まず目に入るのがドアップの女性の顔ですが、お化粧をしていないであろうそのお顔にはそばかすが顔全体にたくさんあるものの、不思議と嫌悪感や違和感がなく、すんなりと受け入れることができます。(この点はのちほど詳細に解説します)
そして、そのドアップの顔を中心に極彩色(ごくさいしき)の様々な模様が変化しながら表示されるという、なかなか無い構図となっています。
この極彩色のインパクトが強いため、楽曲としてはお気に入りだったもののMVとしては再見することがほとんどなかったのですが、あらためてじっくり見てみると、真ん中のお顔の彩度や明度が低いため、画面全体のインパクトとしてはそれほどないことに(今更ながら)気づかされます。
ここからが本題です。
この「Never Ever」のMVの特徴は、極彩色の模様だけではありません。
様々なメッセージやギミックが組み合わされた技ありMVなのです。
順番に見ていきましょう。
まず最初に、引いた状態から女性の顔全体を映していた映像の視点が、途中何度か女性の口の中にズームインするというか、映画「ミクロの決死圏」のようにミニチュア化して女性の口(くち)の中に入り込んだような映像となり、その口(くち)の中においても極彩色の模様が変化しながら表示されるという徹底したサイケデリック映像となっています。
口(くち)の中の映像も、口蓋垂(いわゆる「のどちんこ」ですね)がくっきり表現されており、ポップに見えるものの結構生々しかったりします。
ここでネタをばらしてしまいますが、このMVは今のSNSにみられる(MVでも同様ですが)中身を隠して見栄えだけをよくする風潮のアンチテーゼとして、中身をさらけ出し、かつカッコ悪い映像にすることを意識してつくられているのです。
なんとこのMVの監督はロイクソップ自身が務めており、ロイクソップからのメッセージにその旨の内容が書かれています。
そのメッセージを見てからMVを再度観てみると様々な気付きがあります。
まず最初のそばかすだらけの女性の顔も、お化粧をせず素(す)のままで出演されていますが(もしかしたら、あえてそばかすを描いているのかもしれませんが)全く嫌な印象を受けませんし、同様に口(くち)の中の映像についても生々しさが嫌悪感につながらず違和感なく観ることができます。
ロイクソップの「きれいな映像ではなく敢えて生々しい表現をする」という狙いが成功していることが分かり、かつ顔の外側ではなく口(くち)の中を映像として利用することで内面をさらけ出すというメッセージにもつながっていると思われます。
ちなみに、ドアップ顔の女性ですが、歌っているスザンヌ・サンドフォーではなさそうで、MVにクレジットされているロジー・プレストン(Rosie Preston)という女性のようですが、情報がなく真偽のほどは不明です。
また、様々なギミック(仕掛け)も、敢えてカッコ悪い表現が多いのですが、これも同様に「いい味」となり、プラス効果となっているのです。
例えば、ロイクソップのひとり、トルビョルン・ブラントンが上下真っ青なスーツを着てちょっと(いや、だいぶ)ダサいダンスを踊る様(さま)は、映画「パルプ・フィクション」でのジョン・トラボルタの伝説のダンスにも引けを取らない程のインパクトを与えてくれます。
ヘンテコな衣装を纏(まと)うのは、これまたロイクソップのひとり、スヴェイン・ベルゲですし、他の出演者はやる気が無さげでこれまたいい味を出してくれています。
もちろん、ヘンな被り物をしたDJはダフト・パンク好きなふたりからのメッセージかと思われます。
出演者の登場や退場の仕方も凝っていて、動きが止まって画面から消えていく演出は、以前この連載でも紹介したインエクセスの名作MV「Need You Tonight」にリスペクトされているようにも思えます。(インエクセスを紹介した以前の回はコチラ⇒「INXSと書いてインエクセスと読む」)
と色々書いていますが、「Never Ever」のMVの素晴らしさに気付き、じっくり視聴し分析できたのは1ヶ月前の連載がきっかけですので、この連載をしていてよかったと痛感している次第です。
ロイクソップの話がだいぶ長くなってしまったので、このあとの4つのサイケデリックMVについては、テンポよく紹介していきましょう。
3つ目のサイケデリックMVは、もう少し新しいMVとなります。
コンフィデンス・マンの「Out the Window」です。
これまたインパクトのあるサイケデリックMVです。
洗練度はイマイチですが、それを補って余りあるパワフルな映像がしっかり我々の脳裏に爪痕の残してくれます。
コンフィデンス・マン(Confidence Man)は、オーストラリアで2016年に結成された比較的新しいバンドです。
この「Out the Window」は、2018年にリリースされた1stアルバムから同年にシングルカットされた楽曲ですが、この1stアルバムのタイトルがすごくて「Confident Music for Confident People」といい、直訳すると「自信がある人のための、自信のある音楽」となり、結構尖ったタイトルだなーと思ったりします。
ちなみに、今まで2枚のアルバムをリリースしていますが、1stアルバムより2022年にリリースした2ndアルバム「Tilt」のほうがいいので、この「Out the Window」のMVを観られて楽曲がイマイチだな...と思った方がおられたら、ぜひ2ndアルバムを聴いてみていただければと思います。(といっても私自身、コンフィデンス・マンの楽曲をあまり聴くことが無いというのが正直なところです)
MV自体はサイケデリックというよりもポップな映像が中心ですが、十分目がチカチカする映像で、サイケデリックMV認定は間違いありません。
比較的最近のMVだけあって、映像としては洗練されてるのが今風です。
MVの話からそれますが、楽曲のメロディラインがゆらゆら帝国の「空洞です」のメロディラインを思い起こさせ、このMVを見るたびに「空洞です」が頭の中で流れてしまいます。
そんなにメロディラインが似ているわけでもないので、よほど「空洞です」に頭の中が形式化されてしまっているように思われ、「空洞です」恐るべし!と思う今日この頃です。(ちゃんと聴き比べると似ていないのですが、なぜだかMVで視聴すると似ていると思うんですよね...)
続いて4つ目のサイケデリックMVは、またまた古めのMV。
テクノトロニックの「Pump Up The Jam」です。
目がチカチカするほどの映像ですが、色々な映像素材を組み合わせた、いわば「サンプリング映像」とも呼べる背景映像で、観ていて飽きません。
しかし、このMVは観たあとは目がショボショボすること確実ですね。
テクノトロニック(Technotronic)はベルギーの音楽ユニットで、1987年に結成し、この「Pump Up The Jam」は1989年リリースの同じタイトルのアルバムからのファーストシングルとして同年にリリースされています。
既に2002年に解散しているのですが、ファーストシングルの「Pump Up The Jam」が一番ヒットした楽曲という事実は、少し悲しいですが、よくある話でもあります。(実は私もテクノトロニックとのお付き合いは、このMVだけというのが正直なところです)
今回色々調べる中で分かったのですが、ボーカルを務めているのは「Ya Kid K」(ヤ・キッド・Kでしょうか?)というラッパーなのですが、MVには全く出ておらず、MVの映像で歌いながら踊っているのは全然関係ないモデルさんで、Ya Kid Kには無断でキャスティングして揉めたようです。
その事実を知ったうえでMVを観るとなぜかテンションが下がってしまい、そもそもそんなに繰り返し観るMVでもなかったため、もしかしたら次に観るのは数年先になりそうな予感です...
MVとしては、カット割りがやたらと細かく、光の点滅のような箇所も多いため、その手の映像が苦手な方は避けたほうがいいぐらいです。
もうちょっとワンカットが長かったら、MVのクオリティも上がったのではないかと思わずにはおれません。残念です...
そして、5つ目のサイケデリックMVは更に古くなります。
ネナ・チェリーの「Buffalo Stance」です。
このMVはイイ!
カット割りも映像の照度や明度のバランスも優れたMVです。
そして何より素晴らしい楽曲であり、その楽曲と映像とのマッチングもイイという超オススメのMVとなります。
ネナ・チェリー(Neneh Cherry)はスウェーデンのアーティストで、1980年に活動を開始し、1988年にこの「Buffalo Stance」でメジャーデビューを果たしたのですが、上のテクノトリック同様に1stシングルが今まで最もヒットした楽曲となっており、チョット悲しい感じもします。
しかし、ネナ・チェリーは今でも活動を続けており、様々なアーティストとコラボもしているので、うれしい限りですね。
この「Buffalo Stance」は、何より楽曲がいいですね。
そして、MVとしても素晴らしく、やたらに細かくカットを刻むのではなく、ワンカットをある程度の長さにしていることも大きな特徴です。
カットを細かくすると躍動感やスピード感が出やすく、印象付けもしやすいのですが、MVの質は確実に低下してしまいます。
では、カット割りを細かくせずに躍動感やスピード感を出し、かつ印象付けもするにはどうすればよいのか?
それがMV監督の腕の見せ所なのです。
つまり、「Buffalo Stance」のMV監督は「イイ仕事をしている」のです。
ちなみに、MV監督はジョン・メイバリー(John Maybury)が務めているのですが、ペット・ショップ・ボーイズの有名なMV「West End Girls」のディレクションをした方でもあります。
正直私との相性はイマイチなのですが、この「Buffalo Stance」だけは唯一相性のいいMVとなっています。
なお、この「Buffalo Stance」は、楽曲自体大好きですし、MVも内容自体はお気に入りなのですが、終わり方はイマイチ好きになれません。
ネナ・チェリーが歌っている映像が枠だけ残しながら、楽曲のボリュームにあわせて徐々に小さくなっていく...というキテレツな終わり方です。
これなら普通にフェードアウトしてくれるほうが良いのに...と残念無念ですが、まあ仕方ないですね。
今回紹介する6つのMVの中では、2つ目に紹介したロイクソップの「Never Ever」のエンディングが一番イイですね。
MVのテーマでもある内面を象徴した口(くち)の中からカメラが外に出て、顔全体を映したところで楽曲も終わる...という素晴らしいエンディングです。脱帽です。
ちなみに、私が一番お気に入りのエンディングはファルコの「Rock Me Amadeus」で、以前本連載でも紹介しているので、ご興味ある方はご覧ください。(過去のファルコの回はコチラ⇒「比するものがないこのラップは何なんだ!」)
最後、6つ目のサイケデリックMVは邦楽のMVとなります。
Superflyの「How Do I Survive?」です。どうぞ!
サイケデリックというよりはファンキーなMVですが、何よりボーカルの越智志帆さんがめちゃくちゃカッコイイですね。
楽曲も素晴らしく、印象付けの強い映像にもかかわらず楽曲のほうが強いのは、それだけ楽曲の完成度が高い証(あかし)です。
Superfly(スーパーフライ)は、2004年から活動している日本のグループで、実質的にボーカルの越智志帆さんのひとりプロジェクトとなっているようです。
2007年に1stシングルをリリースしてメジャーデビューを果たし、2008年にリリースした4thシングル「愛をこめて花束を」がビックヒットとなり、トップスターの仲間入りをしました。
そして、この「How Do I Survive?」は2008年リリースの6thシングルなのですが、私とこの楽曲との出会いはテレビCMです。
それは、モード学園のCMなのですが、モード学園のテレビCMはたまに「これスゲー!」というのがあり、その中のひとつがこの「How Do I Survive?」が採用されているCMとなります。
なお、テレビCMの中には優れた作品とも言えるものも多数あり、私はVHSのビデオテープにCM集として録画しコレクションしているのですが、もちろんその中にこのモード学園のCMも含まれています。
しかし、今やYouTube等で簡単に観れるため、ありがたいような残念なような複雑な気持ちです。(昔のCMの録画したものをYouTube等で公開するのは、権利的には大丈夫なんでしょうかね)
ちなみに、この「How Do I Survive?」が採用されているモード学園のテレビCMでは、「昨日の私と思うなよ!」というセリフがメチャクチャお気に入りで、当時の私の座右の銘としていました。
関係ない話が長くなってしまいましたが、MVの話もしておきましょう。
この「How Do I Survive?」のMVは、もちろん楽曲自体もイイのですが、サイケデリックというよりもファンキーな映像も最高で、越智志帆さんのパワフルな魅力をうまく表現しているMVとなっています。
暗い場面と明るい場面の使い分けも良く、サイケデリックでありながらも、落ち着いて観れる上質なMVとして仕上がっています。
今回は「サイケデリックMV特集」として、6つものオススメMVを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
最初の2つのMVの紹介でテンションが上がりメチャクチャ長くなってしまったため、2つで終わろうとも思ったのですが、結局最後まで突っ走って長尺の回となってしまいました。
私としては、最初のディー・ライトの「Groove Is in the Heart」と、2つ目のロイクソップの「Never Ever」がダントツのオススメですので、未見の方はぜひご覧いただければと思います。
もちろん他の4つのMVもオススメですので、一気に観て覚醒するもよし、「脳への負担が大きそうだ」という方は分けて観るもよし、どちらでもお好きな方法でご覧ください。
ではまた次回に。
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