1986年にヒットしたイケてるMVを2つお届け。バングルスもいいけれど、ニューシューズのMVは隠れた名作だ!(オススメMV #45)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の45回目です。(連載のマガジンはこちら)
1980年代は洋楽MVの黄金期ですが、その中でも1985年から86年は優れたMVが目白押しで、本連載でもその時期の名作MVを何本も紹介しています。
今回はその中で1986年にヒットしたオススメMVを2つ紹介します。
まずひとつ目は、バングルスの「Walk Like an Egyptian」です。
ノリがよくてコミカルで、元気にさせてくれるMVですね。
ライブビデオかと思いきや、途中からエジプト民族衣装を着たメンバーや一般の方々のエジプトダンスのシーンが差し込まれ、飽きることなく一気に最後まで観てしまいます。
バングルス(The Bangles)は1981年結成の4人組ガールズバンドですが、1986年にリリースした2ndアルバム「Different Light」からの最初のシングル「Manic Monday」が全米2位のヒットとなり一躍スターダムに上りました。
そして、3枚目にシングルカットされたのが、この「Walk Like an Egyptian」なのですが、なんと全米1位になる大ヒットとなってしまいました。(しまいました、というのも失礼な表現ですが...)
ちなみに、全米2位になった「Manic Monday」はプリンスが楽曲を提供しているのですが、プリンスが他アーティストに提供した楽曲を自身で演奏している音源を集めたアルバム「ORIGINALS」が一昨年リリースされました。
そのアルバムにプリンス自身が歌っている「Manic Monday」も収録されているのですが、実に味わい深いので、ぜひ聴いてみてください。
さて、この「Walk Like an Egyptian」のMV、いかにも低予算っぽい作りですがそれが逆にフレンドリーさを醸し出し、更には一般の方々も登場することで、視聴者とMVとの距離感を縮める効果を生んでいますね。
一般の方々のダンスを効果的に使っているMVとしては、最近ではファレル・ウィリアムスの「Happy」が記憶に新しいですが、その先駆けと言えるかもしれません。
しかし、まさかこのMVの楽曲が全米1位とは誰も思わないでしょうが、本当に1位になったのがスゴイところです。
「Walk Like an Egyptian」はこれぐらいにして次のMVにいきましょう。
実は今回のメインは次に紹介するMVです。
1985年から86年は素晴らしいMVがたくさんリリースされていますが、その中でも「すごくイイのに全然知られていない!」というMVがいくつかあります。
その中のひとつが、ニューシューズの「I Can't Wait」です。
メチャクチャいいでしょ!
ヘンテコ感満載ですがオシャレでもあり、何度観ても飽きません。
楽曲とのマッチングも素晴らしく、楽曲と映像の相乗効果で素晴らしいMVとして完成されています。
ニューシューズ(Nu Shooz)は1979年に米国で結成されたグループで、今でも活動しているご長寿バンドですが、この「I Can't Wait」が最大(かつ唯一の...)ビッグヒットとなっています。
「I Can't Wait」は1985年に一度リリースされ、翌1986年にリリースされたリミックス版がなんと全米3位のヒットとなり、1987年のグラミー賞にもノミネートされるという栄誉をつかみました。これはスゴイ!
(ちなみに、このMVは1986年のリミックス版がベースになっています)
しかし、その後はヒットには恵まれないものの、バンドのメインメンバーであるジョン・スミス夫妻を中心に今でも活動されています。
さて、この「I Can't Wait」のMVですが、本来であればオススメMVとはなり難い要素が満載なのですが、それに反して実際は名作の域に達したMVとなっています。
オススメMVとなり難い要素とは何か?それは以下のようなものです。
・楽曲の歌詞とは何の関係もない映像で構成されている
楽曲の歌詞と何かしら関連のある映像で構成することで、楽曲との相乗効果を出しやすくなります。
しかしこのMVは、楽曲の歌詞はタイトル通り「彼を待てない」という愛情をうたった内容なのですが、映像は愛情とは全く無縁の映像でしかもコミカルなテイストの映像となっています。
・映像の構成要素も全てワケが分からない内容となっている
複数の要素を持った映像で構成される場合、それぞれの要素はつながりがあったりストーリーがあるほうが、視聴者に世界観をイメージしてもらいやすくなります。
しかしこのMVは、ワケが分からない要素の映像を組み合わせており、かつその関連もほとんどありません。
例えば以下のようなものです。
ー工具が落ちてくる(しかも工具に加えおもちゃやバナナも落ちてくる)
ー女性が標本のスライド(らしきもの)を取り出して見る
ー女性がポットのようなものから魚(のおもちゃ)を取り出す
ー女性がポットのようなものを分解する
ー分解作業の最中にU字型の磁石が出てきて回る
ー分解作業の最中にサングラスをかけた犬が出てきて首を振る
ーポットのようなものがフレーム表示になり分解表示される
ー女性の顔が画面中央にインサートされ、額にひらめきの図形が表示される
ー古い箱を開けると、様々な模様が出てきて画面いっぱいに表示される
全くワケがわからないですね。
しかし、違和感がないばかりか逆に調和が取れており、更には映像に出てくる全てものものをオシャレとすら感じさせ、不思議としか言えません。
どんな要素をどう組み合わせれば良くなるのかというロジックがあるのか?と考えたのですが、全く想定することでできません。
これこそ「センス」と呼ばれるものでしょうか?
以前この連載でも話に出ましたが、堤幸彦さんが制作されたドラマ「TRICK(トリック)」でもストーリーに関係のない様々なギミックを出すことで、旧来の正攻法ではないアプローチで優れた作品を制作されましたが、それと相通ずるものがあるようにも考えられます。
なお、このMVはジム・ブラッシュフィールドという方が作られたのですが、この方はトーキング・ヘッズやマイケル・ジャクソンのイケてるMVも制作されており、また別の機会に特集を組んでみようかと思います。
今回は1986年にヒットしたオススメMVの中でも、あまり知られていない良作MVを2つ紹介しました。
この2作品を観ると1980年代のMVのクオリティの高さがわかるので、ぜひご覧ください。
ではまた次回に。