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略語と正式名称

「あそこ、イッツウでさ、知らなかったよ」と言うと、
母が「イッツウって何?」と訊いてきた。
「一方通行のことだよ」
「ああ、そういうことね」

自分では当たり前に使っている言葉でも、人には伝わらないことがある。
上京したばかりの頃、田舎者の僕は、「ロイホに行こうよ」と友達に言われてもピンとこなかった。
だけど、「ロイホって何?」と訊くのはなんだか恥ずかしかったから、「いいね」と意味もわからないまま同意し、ロイホに着いてから、「なんだ、ロイヤルホストのことだったのか」と思ったのだった。

先日イオンに行って買い物をした際、某専門店のレジスタッフの方が正式名称を連呼していて、ついにやけてしまった。
レジの行列にしばらく並び、ようやく僕の前の男性の順番になり、その人は「WAON」での支払いをお願いしていた。

すると店員さんは、「電子マネーWAONでのお支払いですね」と言った。
ここまではおかしくない。むしろ丁寧な接客だ。
ところが、それ以降もずっと正式名称を言い続けるではないか。

「電子マネーWAONですね、〇〇〇〇円を電子マネーWAONでお支払いですね、電子マネーWAON、電子マネーWAONでのお支払いですね……」

男性の後ろに並んでいた僕は、ちょっとニヤニヤしつつも、息苦しさに似たものを感じた。丁寧も度を過ぎると、違和感が満載だ。しかし、その店員さんなりの理由があるのだろう。支払い方法も複雑になっているから、間違えないように指差し呼称をしているのかもしれない。だとしたら、ミスをしないように地道な努力をしているしっかり者さんと呼ぶのがふさわしいであろう。
こちらとしても、間違えられるよりは、正式名称を連呼されるほうがまだマシだ。

そんなことを考えていたら、僕の順番になった。
もちろん僕もWAONでの支払いだ。
そして案の定、「電子マネーWAONでのお支払いですね」ときた。
その後は、ご想像のとおりだ。
このスタッフさんは、今「電子マネーWAON」という名称をスラスラと口にできる「世界ランキング1位」であることは間違いない。

しかし、少々疲れはしないか? 一日何百回と「電子マネーWAON」と言うストレスは発生しないだろうか? 本人が疲れないのなら別にいいのだが……と余計な心配をしてしまう。

そういえば、「ロイホ」と言っていた友達に、しばらくしてから「実は、ロイホって初めて聞いたとき、何のことだかわからなかったんだよ」と打ち明けた。
すると、その友達は笑いながらいろんな略語を発案し始めた。

「イヌンポ」とかどうかな?
「なにそれ?」
「犬の散歩」
「……」
いくらなんでも無理があるだろう。

友達は無理に略しすぎ。店員さんは正式名称にこだわりすぎ。
そんで僕はそれを気にしすぎ。

それはそうと、「noはじ」です(=noteはじめます)。
書くことを続けることが一番の目標で、そんでもって、あまりハマらない程度に、とにかくゆったり、マイペースでやっていきたい所存。
書くことで頭のモヤモヤを浄化できたらいいな。
そして、その先のどこか居心地のいい場所に辿り着けたらいいな。

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