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真っ当に面白いホラー映画紹介 『コンジアム』怖さ度☆☆☆☆

はじめに

 映画好きで年間120本近く見ている筆者が、最近見て真っ当に面白かった映画を紹介していきたい。ちなみに、知名度がなく期待値がゼロだったけどユニークで面白かった映画は「掘り出し物映画」と称して紹介している。

今回紹介するのは韓国映画『コンジアム』。Amazonプライムで見られる。

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怖さ度を5つ星(独自基準)で表すと、『コンジアム』は☆☆☆☆。

けっこう普通に怖い。カレーに例えると、辛いものが苦手な人は食べたことを後悔するが、辛い物好きが食べるにはちょうど良いスパイスの効いた辛さといったところだろうか。

 途中からネタバレをするが、見出しにネタバレ注意と書いてあるので、作品に興味を持った方は、その前で止めて映画を見てから、ネタバレ部分を読んで欲しい。

あらすじ&分類

 この映画のあらすじは「韓国のチャラチャラした若者たちが動画配信サイトで一獲千金を夢見て通称『コンジアム(昆池岩)精神病院』に撮影に行き、最新技術を駆使してプロ並みの生配信を行うが、本気の霊障に遭遇してしまう」というものである。

 分類としてはリアル系オカルトホラー(ファウンドフッテージ/POV)とでもいった趣である。ホラー映画にも類型があり、「霊が原因のオカルト/人間が原因のサイコ/霊でも人間でもないが科学で説明がつくものが原因のSF」といった恐怖の原因に基づく分類、「技術を駆使して恐怖の原因を探るリアル系/原因を探ることはしないスーパーナチュラル系」といった恐怖に対する対処の仕方に基づく分類など、いくつかの基準で分類ができる。

 また、近年では『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に代表されるファウンドフッテージ/POVものがホラー映画の一角を占めるジャンルになっていて、この映画は映像の形式としてはファウンドフッテージ/POVである。厳密に言えば、ファウンドフッテージとPOVは別の概念だ。ファウンドフッテージは「見つかった映像」という意味で、モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)とも言える。つまり、何らかの恐怖に遭遇した人間は死んでしまっているが、ビデオカメラやスマホの映像などの録画が残っており、それを繋ぎ合わせたという設定のホラーである。ただ、ファウンドフッテージは大抵の場合POV(Point of View Shot)で撮られた映像であることが多く、登場人物の主観視点から見た映像である。ゲームのFPS(First Person Shooting)の視点もPOVである。蛇足だが、例えば駐車場の防犯カメラの映像を繋ぎ合わせたホラー映画があったとしたら、それはファウンドフッテージではあるがPOVではないという分類になるだろう。

 例えば大ヒットシリーズ第一作『死霊館』は『コンジアム』と同じリアル系オカルトホラー(オーセンティック)に分類できるだろう。ウォーレン夫妻が技術的に恐怖の原因を探るが、結局は悪魔や悪霊が出てくる。かつ映像手法や演出はエクソシストのような正統派ホラーである。一方、同シリーズのスピンオフ『死霊館のシスター』はむしろ悪魔の存在はアプリオリなものとされており、原因の究明というよりは悪魔とのバトルで魅せるスーパーナチュラル系オカルトホラー(バトル)である。

醍醐味

 『コンジアム』の醍醐味はズバリ「巧みに制御されるカメラアングル」と言えよう。そもそも、ホラー映画の肝はカメラアングルである。カメラアングルを工夫して、観客の視点を誘導することで恐怖を生み出す。マジックのトリックみたいなもので、例えば引きのショットで主演女優が画面の右にいる場面では観客の視点は画面右側に注目しているが、おどろおどろしい音楽が流れて不安になったところで画面左側から何かしら恐ろしいものを飛び出させる。それによって恐怖が生まれる。

 近年では上記のような単純なホラー演出では誰も怖がらないので、ファウンドフッテージで多用されるPOV映像が重宝される。そもそも一人称に視点が制限されるので、観客が画面のどこに集中するかを操り、スリルを高めることが容易になる。逆に、スターウォーズのような通常の三人称視点の引きの映像では、観客は画面上のどこを見ても良いため、特定の一点に観客の目を釘付けにして、別のところから怪異を出現させて怖がらせるような演出は難しくなる(ちなみに、エピソード4ではルークが双眼鏡を覗く一人称視点のシーンがあり、画面の端から急にサンドピープルが現れて観客を驚かせる)。

 『コンジアム』は主人公の男女グループが動画配信者という設定で、ドローンやボディカメラ、天井設置型カメラ、360度カメラなど様々な機材を駆使してコンジアム精神病院を撮影する。そのため、様々なアングルの映像が効果的に組み合わされ、観客の視点を支配する。突然襲い掛かる怪異を事前に察知することもできないし、目を背けることもできない(目をつぶれば別だが)。

 また、一人称視点で登場人物の動きに合わせて揺れる映像というのは、当然ながら観客に臨場感をもたらす。この作品の上手なのは、それに加えて、バラエティ番組のように人物の表情をクローズアップで映す自撮り映像も多用していて、役者の恐怖の表情をより克明に描くことで観客にその恐怖が伝染する効果ももたらしている(前述のファウンドフッテージの金字塔『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の予告編でも、主人公の女性がハンディカムを至近から自分に向け、鼻水を垂らしながら恐怖に顔をゆがませて恐怖を語る場面が使われており、よく印象に残っている)。

 これまで述べてきた通り、『コンジアム』は昨今の人気ホラー映画の効果的な演出を組み合わせつつ、様々なカメラアングルを巧みに使い分けることで観客の感情に揺さぶりをかける術に磨きをかけた真っ当に面白いホラー映画になっている。

【ここからネタバレ注意】タメの映画

 どうすればホラー映画が面白くなるか。怖いクリーチャーを出したり、意味ありげな怖いショットをひたすら繰り出したりしても、怖い映画にはなるかもしれないが、面白くはならない。例えば画面を真っ暗にして、いきなり白い顔に目が真っ黒の女の顔を大音量のSEと共に出すようなシーンを10分ごとに繰り返せば観客はびっくりして怖いかもしれないが、面白いとは思わないだろう。

 ホラー映画の面白さを決めるのは、むしろホラー要素のない場面である。ドラマ演出がきちんとして登場人物が描けていればいるほど、登場人物たちが怪異に遭遇した時に感情が動く。この作品では、冒頭に動画配信者である主人公の男性たちと、恐らく一般配信者から選ばれたキャピキャピした女性たちの合コンめいた顔合わせのシーン、コンジアム精神病院に向かうまでの浮かれた道中にきちんと時間を割いている。つまり、こいつらはクソなので多少怖い目にあったほうがスカッとするだろうというメッセージである。

 かつ、病院に入るとひたすら物音が聞こえたり、霊を呼び出す儀式で霊障が起こったりと、主人公たちが怖がる場面が続くのだが、どこかありきたりなPOVホラーといった感じで、途中まで全然怖くないのである。割と最初からそれが分かるような演出になっているが、それもそのはず、最初の怪異はほぼヤラセだったのだ。男性陣のほうはプロの動画配信者であり、彼らはPVを稼いで広告収入を得るという明確な目的があり、立て続けに起こる物音や不思議な現象は彼らが仕込んだものだったのだ。

 そこまでに映画の尺の3/4くらいを使っていて、かなり長いタメのある映画だ。ただ、このタメである種弛緩していた観客を、終盤怒涛の展開によって恐怖のどん底に叩き落す。ジヨンという女性の顔がアップで映り、目が全部黒目になって呪文のような言葉をブツブツつぶやき始めた瞬間から急激にアクセルがかかり、畳みかけるように全ての人物が恐ろしい目に遭っていくし、観客も恐ろしい目に遭う。どことなく漂っていた「調子に乗った若者ザマァ」みたいな空気が一変するのだ。

 『コンジアム』第二の醍醐味がこのタメにある。通常、映画というのは盛り上がりをある程度均等に配置するし、ジャンル映画は特にその傾向が強いだろう。有名な日活ロマンポルノのルールは「10分に1回濡れ場を作る」であり、ホラー映画のルールも「10分に1回怖い場面を作る」に近いものがあるだろう。しかし、この作品はホラー的な盛り上がりを不均等に配置することで、作品としての面白さとホラーの怖さを両立している。先ほど「10分ごとにショッキングな演出を繰り返せば怖くなるが面白くはない」と述べたが、この映画は3/4まできちんとドラマを描いてから、最後の1/4でショッキング演出をひたすらつるべ打ちに出すことで、面白くてしっかり怖いホラーになっている。もちろん、ホラーに限らず大抵の映画はピークを終盤に持ってくるのが普通だが、ここまで極端に終盤に盛り上がりを寄せてくる映画も珍しいだろう。『コンジアム』はホラー映画においては、視点の制御に加えて、緩急の付け方も大事だということを再認識させてくれた。

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