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日本を覆う「エヴァの呪縛」四半世紀

2021/08/02 Newleader

 「新世紀エヴァンゲリオン」といえば、1995年にテレビ放映が始まった少年向けSFアニメだが、その劇場映画版最終話の上映がこの7月下旬に終了した。3月から始まった今回の上映は、新型コロナ対策の緊急事態宣言の発出が繰り返される中、異例の「大ヒット」。興行収入は100億円近く、日本映画の歴代興行収入ランキングで12位相当になる。

 引きの強い人気アニメの続編を作り続けるのは珍しいことではないが、この作品は驚いたことに同じストーリー設定を作り直して、3度目。関係者によれば「過去2回は物語を終わらせることに失敗している」ためという。

 ストーリーは、14歳の少年少女たちが、巨大人型兵器に搭乗して、襲来するナゾの怪物と戦い、人類を破滅の危機から守るという、活劇あり、お色気あり、おちゃらけありの受け狙いのアニメだが、ただ1つ、ユング派的な神話分析、物語分析の要素をたっぷり盛り込りこんだことがミソで、当面の成功と後の苦戦の原因となった。

 神話論の象徴で物語を作ると見る者の情動を喚起しやすいが、物語を深層心理的に整合性ある形で決着させるのには途方もない力量が必要になる。監督の庵野秀明氏は最初、力不足だった。

 一方、自分の世代の通俗エンターテイメントに衒学的な装いを施した上に、深層心理上の琴線に触れた視聴者は熱狂。おかげで興行的には大成功したが、物語の展開は明らかに彼らに足を引っ張られた。テレビ版は空中分解、最初の劇場映画版は不完全燃焼のラストとなった。度が過ぎて監督に脅迫メールを送る者も。庵野氏は視聴者・観客の圧力と作劇の困難さの板挟みで鬱となり自殺まで考えたという。

 現実に向き合い傷つくことに目を背けて14歳より年をとることが出来ない「エヴァの呪縛」を掛けられた主人公。彼に同化し、宇宙論的空想に自らを置く視聴者・観客たちは、端から見れば、そのまま、大人になれない現実逃避の人間たちだ。アニメ放映開始時、主人公と同じ14歳だったターゲット世代は、今や40歳。視聴者には、その上の年代も多く、今の中年層そのものとなる。

 この層は近年、「粘土層」と非難を浴びる日本停滞の象徴だ。その中核が未だに映画館に現実逃避する「エヴァの呪縛」を受けた人々であるとすれば日本の病は深刻ということになる。

 この話は最終シリーズ後半でようやく終結に向う。現実逃避の主人公は積極行動した途端に母性に足を取られ人類を破滅の淵に追いやり、周囲から無視されるという罰を受けるが、やがて立ち直り、自らの現実の負の側面=「影」を象徴する「父」と対決し、受け入れることで、世界を回復する鍵を手に入れる。

 ここから物語は強引に手仕舞われる。最後に主人公はいきなり大人の年格好になり、物語の外へ、庵野監督の現実の故郷である山口県宇部市の古びた化学工場が拡がる風景へ走り去っていく。

 人類を守る戦いも世界の秘密も存在しない斜陽の町。この風景こそが、今の日本の現実なのである。四半世紀、夢想の中に生きてきた観客の目にどう映ったのだろうか。

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