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今の中国は「1930年代の日本」、だから危険視される

2023/06/01 Newleader

対中国版「ABCD包囲網」なのか

 この稿が刊行される頃には、もう終わっているはずの5月19~21日の広島サミットでは、ウクライナに侵攻しているロシアに加えて、対外強硬政策を採り続ける中国へも、かなり強烈な非難が投げかけているはずです。

 ウクライナ支援での協力と団結を取り付けたいヨーロッパ勢に対し、議長国の日本、そしてアメリカは中国の脅威に対しG7での対抗を求めています。

まあ、フランスのような確信犯的なKY国家もありますが、これまでのQUAD、AUKUSに加え、NATOが東京事務所開設を検討、米韓が「核協議グループ」立ち上げに合意しており、対中国経済安全保障でG7が足並みを揃えれば、どう見ても対中包囲網です。

 しかし、侵略戦争継続中のロシアと異なり、中国は外交上の強硬姿勢や軋轢や外交関係者の乱暴な物言いが目立つものの、侵略や戦争を起こした訳ではありません。もっといえば、今、日本やアメリカが危険視している台湾統一のための武力行使についても、以前にもこの欄で指摘したように、軍事的に見ればかなりハードルが高く、総統選で親大陸派を送り込むなど、政治的手法で独立派を排除する方法なら、まだ可能性が残されている上、第三国は介入できません。合理的に考えれば武力侵攻をいう選択肢を採らないはずです。だから台湾危機に懐疑的な日本人も多いわけです。しかし問題は習近平の中国がおよそ合理性とはかけ離れた存在であることです。

 実は日本の外交関係者の間でも、「所詮、台湾問題は米中関係で決まる」とマクロン・フランス大統領と似たような認識が定着しています。中国もその観点に立って、アメリカに超強気に出続ければ押し通せる、と考えている節があります。しかし、アメリカ、そして香港問題で煮え湯を飲まされたイギリスなどの国々は、そのこと自体をもって、中国が台湾問題や南シナ海問題で軍事オプションを採る危険性を感じ取っています。その理由を一言で言えば、「今日の中国の姿を見て、西側の一部外交官は1920年代から1930年代にかけての日本を思い出している」(The Economist、2022年10月5日)からです。

劇薬の副作用

 日本が習近平の中国と同じって、一般の日本人にはピンときていないようですが、当時はそれほど危ない国と見られていました。1928年の張作霖爆殺、31年の満州事変、33年の国際連盟脱退、37年の盧溝橋事件、日中戦争突入、40年の日独伊三国同盟、41年の南部仏印進駐、対日石油禁輸からハルノート、真珠湾攻撃。中華民国内の軍閥抗争や民族意識の高揚の中、権益を保持しようという暴走が収拾のつかない事態を引き起こし、新たな暴走を生み続けました。

 江戸時代の後期から日本は、欧米帝国主義のストレスを強く受け、明治維新の体制変革、急速な近代化を余儀なくされました。対外関係もまた欧米型の秩序感覚に敏感に運営しなければなりませんでした。しかし、それも日露戦争、第1次世界大戦の結果、「解放」され、「列強となることに成功した」という意識が一般国民にまで拡がりました。一方、世界はというと世界大戦後、国際秩序構築と民族主義の広がりが潮流に。日本の自己意識は明らかに世界に逆行するものでしたが、政治や軍部だけではなく、メディア、アカデミズムも扇動する形で肥大化、自己中心的な体制観、歴史観、世界観を作り上げてしまいました。この国民の意識が大陸で中央の方針を無視して暴走する現地軍を後押ししていったわけです。今の中国もまた同じサイクルに陥っていると国際社会は見ているのです。

 「中国はなぜ軍拡を続けるのか」で第30回アジア太平洋賞の大賞などを受賞した阿南友亮・東北大学教授によれば、習近平政権は「中華民族の偉大な復興」、つまり失地回復による近世以降「失われた」国土の回収という使命が習近平個人の権威と結びつけられ、台湾、南シナ海、尖閣諸島、中印国境地帯などを巡る問題で妥協が困難になってしまっていると分析しています。それ故、経済制裁、軍事的威嚇、人質外交などにより相手国に譲歩を強要する外交から脱却できなくなっているわけ。いわゆる「戦狼外交」というやつです。これだけなら習近平個人の問題ですが、阿南教授によれば、10年もの間、政権や国策メディアが煽りすぎたおかげで、この「戦狼外交世界観」は中国人にとって「内面化」してしまったといいます。

 対米開戦の直前、日本の指導部は、総力戦研究所などの分析の結果、やれば敗北するという認識を持っていたといいます(参照:猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」)。しかし、分かっていても10年近く煽り立てられ、肥大化した意識を持つ国民の手前、いまさら「できません」ということは出来ずに国家的自爆に突入していきました。

 攻撃の対象となった米英は、客観的に日本のこの姿を見てきました。そしてその時と同じ何物かを、習近平の中国の中に感じ取っている可能性があります。中国包囲網は結局、歴史の轍となるのではと思えてなりません。

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