"インテリア"がしたい
いつもは本当にそんなことないのに、なんか知らないけどスイッチ入ったときってやたらと動く。
ゼンマイ式のおもちゃのように、誰かが一生懸命ギコギコと巻いてくれた動力が、それはもう爆風のように私の内に漲って止まらなくしてくれる。
そんな動力、今は
インテリア!
ミニマリスト!
おしゃれ!!
どうやらこの三つに振り切れているらしい。
昨年の12月、隔週で熱を出した。
一人暮らしを始めて早四年。
初めて出した高熱だった。
身体はまるで受信中のバイブレーションのように震え、がちがちと奥歯を鳴らしながら仕事をした。
なぜって、そりゃ、その時に休んでしまえば、私は1月の有給消化を大いに満喫できなくなるからだった。
1月末で三年と少し勤めた会社を辞めた。
家族経営がピカリと輝く、嘘のようなSES会社だった。
ボーナスがない分毎月分の手取りは高い。
しかし、なんにせよ待遇が悪かった。
給料だけじゃ満足できないんだな、と思いながら転職先を探して、とても良い運のめぐりあわせによってトントン拍子に転職は決まった。
多分、通い詰めた縁切り神社のおかげだと思う。
さてはて、そんなこんなで私は休むわけにはいかなかった。
テレワーク環境だけは整っていた前職。
うんうん唸りながら週末だけ寝込んで、平日は微妙に回復するという何とも社畜のような体だった。
でも、私はその時にゼンマイを巻かれた。
巻かれてしまった。
目についたのは、食器や炊飯器を置いていたウォールナットのカラーボックスだった。
新卒で地元の北海道を出た私は、東京という地で(正確に言うと、ここは千葉県なのだが)一人家具を買いそろえた。
お金がなかったので、ニトリ様で購入した。
カラーボックス、カラーボックス、
ベッドは奮発して無印
それしかなかった。
最初はテーブルもなかったので布団の上で食べて、こぼした。
おねしょのように広がったシミは見ないふりをしてベッドカバーの下へ。
買い替えるときにどんな顔をすればいいのかと思いながら、今もそのシミの上で寝ている。
「いつかお金が貯まったら、全部の家具を買い替えよう」
そう思っていた私の給料は、手取り20万もなかった。
そこで初めて、社会を知ったのだった。
そんな時に持っていたカラーボックスだった。
漫画をたくさん、ぎゅうぎゅうに押し込めていたカラーボックスは、天井まで届く本棚に移したことでお役御免となって、食器棚に早変わりした。
炊飯器も置けた。電子ケトルだって受け止めてくれた。
下の余った段には、よくわからない雑貨を入れた。
でも、そう。
漫画、入れてたんだわ。しかも大量の。
……たわむよね、棚板が。
グワァンとたわんで、もう見るに堪えなくて。
だから、熱を出しながら粗大ごみ回収の電話をしていたらしい。
……この棚を捨てたら、食器の行き場がないのに。
炊飯器も、電子ケトルも、地面にこんにちはしなきゃいけなかったのに!!!!!!!
巻かれたゼンマイは止まらない。
鳴り響くコール音。
「はい、こちら集荷センターです」
「あ、えと、粗大ごみの集荷をお願いしたくて」
「今からのご予約ですと、年明けの回収になってしまうんですが」
「あ、はい。ダイジョブです」
なにも大丈夫ではなかった。
急いでIKEAの、なんか雑貨とか入れてたカートを空けて、炊飯器と電子ケトルを無理やり置いて、ずっと凌いでいる。
なんなら、ちょっと凌げ過ぎるがあまりに新しい棚、買えてない。いや、お金もないんだけども。
それでも私のゼンマイは切れなかったらしい。
今、もう、全部を捨てたい。
捨てて、入れ替えたい。
台風が胸の中で渦巻いている。
とりあえず、ミニマリストでも目指しながら、インテリアを思い描いて、おしゃれな部屋にありがちなイソップのハンドクリームだかハンドソープだかを買いに走ろうと思う。