シビックテックは包括ケアかもしれないし社会的処方かもしれない
2020年からの数年、科学振興(JSTなど)や国立研究所の方々、産業振興や大中小様々な規模の企業の皆さん、自治体、金融、様々なフィールドの方から「civictech(シビックテック)」「govtech(ガブテック)」に対して興味関心を持っていただいたり、期待を持ってもらえることが増えた。
シビックテックコミュニティについて、他領域の方に説明する際に使っていて資料を整理していたら、「地域包括ケア」「社会的処方」について、コミュニティの歴史と一緒に話していたものが出てきた。
一連のコロナ禍におけるシビックテック特需状態から、これからの平常時・普段の暮らしにおけるシビックテックのあり方について再検討する上で、これらがキーワードになるのではないかと話す機会も増えているように感じる。今回はコミュニティとしての「消防団」、地域ケアとしての「包括ケア」「社会的処方」がシビックテックとどう繋がっているかを簡単にまとめておきたい。
消防団(ブリゲード・brigade)
シビックテックのコミュニティはしばしばブリゲード(brigade)と呼ばれている。日本では耳馴染みのない言葉だが、これが「消防団」を指す言葉で、これを辿っていくとコミュニティデザインの源流に触れることに気がついたときはハッとした。
消防団は日本にも存在しており、現代にも繋がる流れとしては、八代将軍吉宗が大岡越前守に命じて、1718年(享保3年)には町火消をつくり、編成替えして1730年(享保15年)には「いろは組」(47組)として制度を発足させたとある。
Code for America発足の地でもあるアメリカにおいては、アメリカ建国の父の一人とされているベンジャミン・フランクリンがボストンとフィラデルフィアを比べて、合衆国誕生より早い1736年にbrigade(消防団)を創設し、現在でも多くの地域はボランティア消防士によって守られているという。
Code for Japanの10周年、Code for Japan Summitの10回目開催を記念して制作されたブリゲード一覧の手拭いにも沢山の地域コミュニティが記されており、その中の1つとしてCode for Japanも名を連ねている。
「シビックテック」を行う「ホワイトハッカー」「エンジニア集団」と言うと、秘密結社のような少数精鋭の技術部隊をイメージされることが多いが、私たちはどちらかというと地域の防災や防火、子どもたちの安全などに目を配る地域の「消防団員」のようなものなのである。
普段はそれぞれが「エンジニア」「デザイナー」「企画職」「自治体職員」「大学生」などの肩書きで暮らしつつ、たまに集まって相談したり作業をしたりしながらデータ(公共財)や開発に触れている。
地域包括ケア・社会的処方
Code for Japanが毎月開催しているプロジェクト持ち込み方ハッカソンSocial Hack Dayで今年開発が進んでいたプロジェクトとして、#proj-inclusive(生活困窮支援)や#proj-afterpill(緊急経口避妊薬)などのプロジェクトがありました。医療福祉領域に対する関心が高まっている傾向があるようにも見受けられる。
諸般の事情でまだ完成していないが、医療関係者とのアウトリーチ施策(ポッドキャスト)から派生して生まれた睡眠記録アプリのプロジェクトも、子供の発育や青年期の不眠・寝不足、高齢者の認知症予防を考慮しながら進めていた公衆衛生的な側面がある。
キーワードとしては「地域包括」「社会的処方」などといった言葉が時代ごとに定義され、近年では地域単位での高齢化対策、まちづくりや公共交通の設計における高齢者の医療福祉アクセスの重要度も高まっている。また、子どもの貧困やあらゆる世代のメンタルヘルスも課題山積だが、これらに共通しているのが「地域で地域をケアする」ということである。
認知症になった高齢者をケアする家族、貧困状態で子どもを育てる保護者、学校や職場など第二の居場所での困難さから引きこもりになった人がクラス家庭、そのどれもが第一の居場所(家庭・家族・保護者)が全面的に引き受けなければならないのが現状であるのに対して、第三の居場所あるいはそれらを含む地域のあらゆる資源や人が相互にケアを提供していくことや、ケアに繋いでいくことが求められていく。
アーノルド・トインビーが貧困問題対策としてのセツルメント施設を考案したのは、「civic life(市民生活)」の改善のために実地介入し、解決へのアクションを共に行うことである。これは地域で行う・地域の課題を取り上げて手を動かすシビックテックのプロジェクトに通じる部分でもあり、govtechではなくcivictechであるところかもしれない。
イギリスの包括ケアにおいてはリンクワーカーが、日本で置き換えて考えるとソーシャルワーカーのようなコーディネート機能を担う人がこれらのハブ機能を担うが、シビックテックの場合これを人ではなく仕組みが担っている。
オープンデータを使うことで状況を可視化し、無駄を省くことができる。オープンソースを開発することで、公共財を共有し、協働しながら更新していくことが仲間との連帯やユーザーとの繋がりを育んでいく。
もちろん社会的処方が扱う範囲は広く、全てを網羅的に全てをcivictechで担うことは難しいが、下段の「Self-care」や「Informal community care」などの予防的な部分や基盤的な部分、あるいは上段に登っていく際の度合いに応じた采配・最適化についてはできることがあるのかもしれない。
地域に暮らす人たちと久しぶりに忘年会をして話していると「この4年間であらゆるコミュニティが衰退した・終焉してしまった」という話を聞く。「大学生ボランティアの団体やサークルが長年リレーしていたバトンパスが途絶えてしまい、病児支援のサポートが止まっている。」「地域のお祭りや運動会がなくなって、楽にはなったが地域の人が集まるチャンスは無くなってしまった。」地域で分担していた義務を背負わなくなってよくなった反面、途絶えた繋がりによって失ったものは今後形を変えて地域の困りごととなって現れてくる可能性が高い。
消防団員になって、地域ケアをしてみる
シビックテックコミュニティを消防団、地域課題・社会課題を災害や火事だと考えると、シビックテックに関わることは、消防団員になってみて地域安全や防災に手を動かすことに近い。
シビックテックは技術単体ではなく、可視化や対話、検討や実験を組み合わせたムーブメントなので、合意形成や社会実装には時間がかかることも、プロジェクト途中で一度止まってしまうこともある。即効性があるプロジェクトは限られてくるが、関わる地域が手元にない都心部に住んでいる人、関わる地域において世代間などの断絶があることに悩んでいる人、どこから手をつけたらいいかわからない人がいたら、ハッカソンやミートアップを覗きにきて、どうしたらいいか、一緒にモヤモヤしたり、プロトタイピングしてみたり、ユーザーヒアリングをしてみたりしてほしい。ベンジャミン・フランクリンやアーノルド・トインビーが成したかったことが、地域に暮らしていた昔の人たちが思い描いていたことが、自分や周りの人が願っていることが、少しずつ形になるかもしれないので、手を貸してもらえたら嬉しい。
参考文献:
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