会いにいける大臣。教育インタビュー1(STEAM教育・プログラミング教育編)
武:こんにちは!
唐鳳さん:こんにちは。
武:ご無沙汰しております。2018年のg0v summitでお声掛けし、臺灣教育科技展(edtech taiwan)にもお繋ぎいただきました。ありがとうございました。
唐鳳さん:覚えていますよ。
武:!!
(前回の記事はこちら)
初っ端、覚えてくれているとは思わなかったので嬉しくて唖然としてしまったのですが、今回のインタビューは、STEAM教育・障害児教育・ジェンダーや人権の教育について伺いました。この記事は1つ目のトピック、STEAM教育についてです。
武:私の所属しているLITALICOでは、コミュニケーションに苦手があるお子さんなどに支援をしているLITALICOジュニアと、IT×ものづくりとして、ロボットやプログラミングを使った教室(LITALICOワンダー)があります。
人とのコミュニケーションに日本語や英語を使うのは苦手だけど、プログラミング言語は得意という子たちがいたりします。
唐鳳さん:自然言語は、プログラミング言語ほど正確ではありませんからね。
武:そうなんです。自然言語よりもプログラミング言語に長けている子たちがいたことも私たちがプログラミング教育をし始めたきっかけの一つでした。
唐鳳さん:日本語は特に、数ある自然言語の中でも最も特殊な自然言語であるため、さらに難しくなりますね。ドイツ語のほうが簡単だと思います。笑
武:そうなんです。2020年から日本でもプログラミング教育必修化が始まります。プログラミングを使うことが目的化しがちでビジョンが見えにくい状況があります。STEAM教育は台湾ではどのように行われているのでしょうか?
唐鳳さん:A(Art )を含んで、ですよね。
武:そうです。笑 台湾の政府ではどのような戦略があるのでしょうか?
唐鳳さん:
台湾では、核たるコンピテンシー(共通の行動様式)について話してきました。それが今年から始まる教育カリキュラムの基礎となっています。
今年から、1年生、7年生、10年生は、もともと「競争力」と呼ばれていた、標準化された回答や学生間の競争をもたらしていたものから、個人間の競争ではなく「コンピテンシー」に切り替えます。生涯学習者としてエンパワーメントしていくべき3領域を定義しました。日本語ではないですが、漢字で書いてあるので読めると思います…
武:はい。読めます。笑
唐鳳さん:日本語の翻訳から持ってきているので、かなり日本の言葉と近いと思います。笑
この3つの能力は自主性、相互作用、共通の利益または社会参画です。技術について話すとき、その能力は文字通り、「技術、情報、メディアリテラリー」のカテゴリに属しています。
武:メディアリテラシーを含むんですね。
唐鳳さん:そうです。同じなんです。「自分と異なる人々とのコミュニケーションと相互作用」の領域に属しています。私たちと同じような人とだけコミュニケーションを取れば、お互いに反響しあって、ステレオタイプ(固定概念)を補強し、排他的になっていく一方です。そのためメディアリテラシーは非常に重要なものになります。テクノロジーをメディアリテラシーの一部として捉え、自分とは違う人とのコミュニケーションや交流を目的とする場合、それはインクルーシブな設計になります。
これが私たちの新しいカリキュラムの基本理念であり、10年前のものと大きく異なっているだけでなく、東アジア圏の多くのカリキュラムとも異なっています。むしろ、フィンランドやスカンジナビア諸国の施策に近しいので、台湾においては大きな変化となります。そのため、私たちは1年生、7年生、10年生から初め、毎年1学年ずつ導入していき、6年かけて基礎教育全体が同じデザインになるように目指していきます。
ここに載せているように、教育省がこれらのコンピテンシーを達成するに向けて、できる限り教材や手法を制御しないと明示しています。学校はそれぞれ独自の授業を設計し、コミュニティと一緒に作ることができます。
以前は時間外活動だったものやサマーキャンプ、ウィンターキャンプなどは授業に取り込むことも可能です。その点で私たちは教育イノベータと呼ばれる次世代が教育省からの制限を受けずに新しいカリキュラムやコンピテンシーに基づいた教材を開発していくことを奨励しています。
既にクリエイティブ思考、デザイン思考に関する授業もありますし、e-スポーツやユーチューバーになる方法を教えたりもしています。笑
これらはコミュニケーションと相互作用でもあります。私たちがメディアリテラシーについて話すとき、主にメディアの消費側として捉えています。メディアコンピテンシーについて話していくにおいて、自分自身が発信側にもなり得る現代においては、自分自身のメディアとしてのコンピテンシーでもあり、それは非常にクリエイター指向の見解です。大雑把ではありますが、これが根本的な考え方でもあります。
武:なるほど。これを実施するとなると、教師陣に対して…
唐鳳さん:促進できる環境を作っていく必要があります。そして、先生たち自身も子どもたちと一緒に共同学習していきます。以前の台湾では「教師は正しい答えを持っている」という意味でより権威主義的でした。
私たちが今やろうとしていることは、「もう正しい答えはない」と言うことです。教師はこれまでに学んできている人ではありますが、100%正しい解を持っているとは限りません。子どもたちはそれぞれの仮説検証、実験などを繰り返していくことを推奨され、それによって教師側の知見も豊かになっていきます。
武:そうですね。そしてかなりの…
唐鳳さん:適応が求められます。
武:そうです。多様な変化が求められますね。
唐鳳さん:実際に戒厳令が解除される前に教育を受けた教師や保護者にとってかなり受け入れるのが難しい、奇妙な概念に感じられるでしょう。だからこそ、今年まで施行を待っていました。
しかし、今の1年生、つまり7歳の子どもたちの親は、既に台湾が自由民主主義になり戒厳令が解除された後に育っているので、彼らはこういったことへの理解があります。早めに開始していたら受け入れてもらうことはもっと難しかったかもしれません。
武:だから、今なんですね。
唐鳳さん:そうです。
武:親や教師など、準備する側を考えると…基本理念を理解していたとしても、実際にそれをやるとなるとかなり難しい気がします。
唐鳳さん:その通りだと思います。そのため、教育省は、漫画や短い動画、アニメなどを含めたあらゆる方法を使って、新旧カリキュラムの違いを説明し、伝えようとしています。教育省がこれを作ったんですよね…
こういったものを教育省が説明するために使っています。「もはや私たちは12年後に社会がどうなっているかも予測することができません。そのため、標準化した学びを提供していては、彼らを12年後の時代遅れにさせてしまう可能性があります。生涯学習者である子どもたちになれるように支援していく必要があります。」と言うのが基本的な説明です。私たちは先生たちが忙しくて7分間のビデオをみる暇さえないと言うことも理解しています。
だから、もっと簡単な方法として漫画も提供していますし、”Moe Moe”というポッドキャストも始めました。
教育省(the Ministry of Education) と萌えを掛けています。可愛いですよね?笑
彼らは今ポッドキャストと漫画を考えています。特殊な薬を飲んだら教育省の人が10年生(高校生)になった!といった形でストーリーで展開されるものもあったりします。笑
自分たちが設計した新しいカリキュラムを経験するといった具合です。笑
実際にこういったやり方はかなり人気があり、クリエイターコミュニティーからリミックスと呼ばれるものがたくさん出ています。こういったものも簡単にオンラインで見ることができます。笑
これは非常に日本のビジュアライズされたストーリーテリングの手法です。教育大臣は漫画の中で若々しいティーンエイジャーになることに同意しました。笑
武:想像しやすくなりますね。
唐鳳さん:大臣を美少年に変身させることを含めて、あらゆるチャンネルを使ってみています。笑
全ての世代の親、あらゆる年代の教師に気に入ってもらえるやり方を試しています。クオリティが高いので、是非観てみてください。(漫画を見せてもらう)
武:漫画やビデオ、ポッドキャストを活用してイメージができたら、次の段階として教師はPBLなどを含めた実際の指導方法を検討していかなければなりません。
唐鳳さん:そうなんです。実践に向けては2つあります。1つは、現在の2年生から6年生までの全員が古いカリキュラムで学んでいくと言うことですが、彼らは1年生がどのように学んでいくかを目撃していくことができます。
それは目の前で起こっていくので無関係でもないですし、2年生の先生にとっては来年自分たちに降りかかってくることなので備えていくこともできます。子ども達は教える側にもなりうるので、練習も必要です。また、各学校にはカリキュラム開発委員会があります。
委員会では、学校の周りの人たちが関心を持ち、更なる地域社会の活動の促進に繋がるよう、教育を向上させていき、校長を含めた教師達に新しい教育を学び取ってもらえるようにしていかなければなりません。 例えば、Skills 4Uと呼ばれるスタートアップがあります。ここは新しいカリキュラムを開発したい学校と連携しています。
学校がコミュニティ構築の観点で必要としているものを発見し、世界レベルの技術チャンピオン、つまり台湾のトップクラスの職人と協力することです。彼らは国民的英雄のように国慶日パレードに招待されます。非常に強く印象づけれらます。
彼らは、国家の技術職チャンピオン達(庭師、機械修理工、光ファイバーとケーブルの配列・配置を正しく組み、点検する人々、塗装工など)を組み合わせ、彼らを学校につなげ、子ども達へと紹介していきます。
彼らは子どもたちのロールモデルになり、子ども達とその両親と協力して学校を改造し、学校をより創造的にし、地域の人々へのコミュニティ参加の余地を増やします。これはすべて、新しいカリキュラムが、市町村の政策レベルだけでなく、学校レベルでもこの種の共創を可能にするソフトカリキュラムであるという事実に基づいています。
彼らのチームであるWorld Skills Taiwanチームは、今年の世界技術大会で世界3位を獲得しました。子ども達にとって、学業成績が振るわないような場合にのみ技術系の職人なるんだろうという考えがこれまではありましたが、Skills 4Uが小さい頃から技術に興味が持てるようにしてきたことによって、変化していきました。7年生や10年生くらいからすでに職人達に憧れるようになったりします。
武:自分が獲得したいと思えるスキルを既に習得している人に実際に会うことによって…
唐鳳さん:そして、彼らと共創することによって、メンターやロールモデルが確立していきます。親御さんや教師達も羨ましがるようなことですね。
武:一般的には子ども達が接触する大人は両親や教師のみになりがちです。たくさんの大人と出会える機会は、彼らが将来を想像するのにとても役立ちそうですね。
唐鳳さん:全くです。漫画家などの専門技術者も含めてですね。
教育部は、親世代が親しみを持って扱えるメディアを活用しています。その一つが漫画です。日本の有名な漫画などを使って幼稚園について説明したり、先ほど説明したMoe Moeなど独自ブランドを使ったりしながら、親御さんの理解を促せるよう工夫しています。あとは…ガラスの仮面!あってます?こういった人気キャラクターの力も借りたりします。笑
各省庁は必要なリソースを確保することで支援的な役割を果たしますが、実際に新しい教育を変えていくのは教師や親御さんを含めた周りのコミュニティです。もはや事細かに授業の進行を指定したりはしません。
武:各学校のカリキュラム開発に対して教育部からスーパーバイズしたりすることはできるのですか?
唐鳳さん:リソースとしては2つあります。1つはASUSやAcerなどテクノロジー企業のコミュティーやCSR活動によるものです。
特に都市部以外の遠隔地教育に重点を置く科学技術系の企業や半導体メーカーが沢山あります。彼らは機材やシステム、知見を十分に有しているので、彼らのCSRは、設備提供だけでなくトレーニングも含めて、包括的で公平な教育の実現に非常に重要な役割を果たしています。
また、リサイクリングプログラムなどもあります。コンピューターが壊れてしまった場合、再組み立てし、台湾のみならず経済的に恵まれない子ども達にそれらを寄付することができます。Asus財団だけで現在世界60ヶ国ほどに展開しており、多くの他の大企業もこういった取り組みを展開しています。
彼らは教育部の指示を待つことなく、既に各自で動いています。そしてこういった取り組みが社会起業家のエコシステムの非常に強固な基盤となっています。社会起業家が動こうとしたときに既にこのような基本設備が整っているので、初期投資する必要性が少ないのです。
様々なアイデアを試したい場合は、こういった汎用ハードウェアが必要です。それが、既に大企業などから無償提供されており、ソーシャルイノベーターと協力できる基礎成り立っているんです。
2つ目は社会的責任(University Social Responsibility,USR)と呼ばれるものです。USRは主に学部生に対して、Capstone project(応用、実務研修の授業)の一環として、2年ほど、自分の属するコミュニティにとって良いことをすることができ、それは大学院の学位や学部の科目履修としてカウントされます。
このシステムにより、学部生はコミュニティから学ぶことができ、更に大学院に進むとコミュニティ対して有用なことを学んでいく可能性が高くなります。各学校は17の持続可能な目標に対応するものを設計できるため、USRシステムの非常に大きな構成要素となります。
今年、学部生が取り組んでいる169のプロジェクトのうち、より貢献しているものを奨励していきました。今後大学院生として、彼らは地域再生のシンクタンクになるかもしれません。再三になりますが、こういった取り組みは私たちが日本から学んだことで、機能したものと機能しにくかったものの両方です。笑
USRシステムとCSRシステムは、教育省の仕事に加えて2つの柱です。
武:STEAM教育のシステムは今後の6年間で進化していくと感じていますか?
唐鳳さん:感じています。そしてこれが「the sustainable social impact technology(持続可能なソーシャルインパクトをもたらす技術」です。技術に適応するように人々に求めているのではなく、技術を社会にもたらすことであり、非常に哲学的で、シビックテックと同じような考え方です。笑
実装方法はいろいろありますが、根幹にあるのは同じ考え方ですね。
(インタビュー2・3へつづく)