月と風と_4

第13回「脱・施設から築・地域へ!NPO法人「月と風と」が目指す半径2キロの"混浴社会"!? ~3話目~」

■小さく・ローカルであることへのこだわり


実はかつては大規模な障害者施設で働いていた清田さん。多くの障害者を受け入れることが出来る一方、ともすれば本人の希望より施設の都合が優先されてしまうような支援のあり方に疑問と怒りを覚えていたと言います。そんな原体験から月風を立ち上げた清田さんがこだわったのは、「NPO」という組織体であることと、「小さく」・「ローカル」であること。

『NPOの仕事は、もともと何も無かったところにニーズを掘り出して0を1にする仕事。1を100にするのはお金持ちの仕事。100を1万にするのは政治の仕事と思っています。0が0のままだと1万にはならないので、1を生み出すNPOの仕事に使命感を感じてやっています。それから小さい組織だと、失敗もできるということがメリットかなと思っています。』

月風では小さい組織であり続けるために「職員は2桁(10人)以上にしない」という徹底振り。それは職員間でミッションを共通言語で語り、実行することができる小回りの利くサイズ感だということ。失敗もOKで、とにかく考えたことをやってみる!という風土を大事にしています。そんな月風だからこそ、地域の中で障害者とまちの人との出会いや接点を面白おかしく・楽しく作り続けることができるのです。

『スタッフには規模は小さいけど、とにかく楽しそうに仕事しようと言っています。それでうちみたいにやってみようという団体が現れたらいいなと思って。まちの中にそんなNPOが増えて、“ちいさく・たくさん・えらべる”ようになったらいいなと。そういう意味で稀有(スーパー)なモデルでありたいと思っています。』

■生きづらいのは障害者だけじゃない
様々なプロジェクトをするうちに「地域の中で生きづらさを抱えている人はいっぱいいるな、と気付いた。」と清田さん。生きづらさ=障害の有無ではなくて、例えば学校でいじめられている子や、お金が無い人、居場所が無くて孤独を感じている人など、いまの世の中、地域には色んな生きづらさを抱えた人がいて、そんな人も一緒に生きることが出来る地域をつくることが福祉に携わる者の大きなミッションなのかも知れません。

そんな時、重度の心身障害者の人とともに日々“生きづらさ”に向き合ってきた清田さんだからこそ、彼らとつくってきた「丁寧なコミュニケーション」が“生きづらさ”を少しでも解消するヒントになるのではと、こんなエピソードを語ってくれました。

『例えば、言葉でのコミュニケーションができない重度心身障害者の人に、「何食べたい?」って聞くときは、表情の反応をみながら「オムライス?…オムライス?いや、カレー?」「あ、カレーって言った時反応が変わった気がする。」とか、そんなやりとりをしています。他のヘルパーから「この人昨日カレー食べたらしいで。」と聞けば、「カレー2日連続で食べたいの?もしくは間違い?」って更にやりとりは続く訳ですが。そこまでしろと言いたい訳じゃなくて、“目の前の人が本当に何を思っているのかをみんなで探る”っていうのに慣れている人がたくさんいるといいんじゃないかなって。そういう人と人の丁寧なコミュニケーションがまち全体に広がれば、“生きづらさ”って少なくなるんじゃないかと僕は思います。』

■“混浴社会”は隣のあなたを大切にすることから
どんな人も地域社会という同じ桶の風呂に浸かって「気持ちいいなー」と言い合える“混浴社会”を私たちの目指す遠い理想として持ちながら、あくまで目の前の一人を大切にすることにどこまで誠実に向きかえるか。そんなことを清田さんの話から感じました。

『最初は、施設をつぶしてやろうという怒りから始まった。でも継続させるには楽しいとか居心地がいいとか面白いとかがないと続かない。怒りだけでは続かないし、怒っていると視野も狭くなる。いろんな人に任せられるようになって、力も抜けて楽しめるようになりました。だから以前は「脱・施設」ということをしきりに言っていたけど、今は地元の色んな人たちを巻き込みながら地域を築く「築・地域」ということを大事に思っています。』と清田さん。

面白がることと、真面目くさること、その絶妙なバランス感覚で突き進む月と風と。一番障害の重い人を地域の真ん中に、周囲を大いに巻き込み、自分たちも大いに巻き込まれながら“半径2キロ”の地域を確実に変えていくチャレンジに、私たちも一緒に巻き込まれながらその続きを追っていきたいと感じました。

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福祉の線引きを薄めるために、福祉の中で遊んでいます。特に障害をお持ちの方と一緒に。みなさまのサポートはそれらの遊びに活用します。