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イモムシ殺しと、シンジュキノカワガ幼虫

(※今日はイモムシ殺しの話が出てきます。)

私は偽善者です。普段、屋内に迷い込んだ虫を逃がしたり、道路を横断しているミミズやカタツムリをつまんで道の端によけたりして「良いことをした」と自己満足しています。

カマキリが道路で轢かれて死んでいたりするのが可哀想なので……。カマキリやイモムシが車道にいても、道の端によけることがありました。
イモムシは食べる草が決まっているので、道の端によけてあげても、そこに食草がなければ、結局イモムシは歩いて食草を探さないといけないので、かえって迷惑かもしれませんが……。

ある朝。緑の綺麗なイモムシが、車道を横断していました。

最近、ちょっと早めに出勤するようにしているし、時間はあります。
ということで、イモムシを服の袖に乗せました。

小さな幼虫などに直に触ると、人の熱で弱らせてしまうとか聞いた気がするので、服の部分を差し出したところ、乗ってくれました。

以前、セスジスズメの幼虫は普通に素手で触りましたが……。偽善者は気まぐれですね。

さて、緑のイモムシを近くの塀みたいなところに乗せようとしましたが、足が滑るみたいで、登れないようです。
そこで近くの草むらに下ろそうとしましたが、食べられる草ではないのか、服を登ってこようとしています。

イモムシを画像検索したところ、似たような柄のイモムシが何種類か出て、虫に詳しくない私には見分けがつきません。

合っているかどうか分かりませんが、このイモムシがヤエムグラを食べるという情報がありました。

ヤエムグラは見たことがあります。
「以前あっちで見たな……」と出勤路を進み、ヤエムグラを探しますが、季節が違うのか、もう生えていないのか、ヤエムグラを見つけることができません。

早めに出勤しましたが、もうそろそろ時間がなくなる。食草を見つけられなくて申し訳ないですが、あとはイモムシ自身に食草を探してもらうしかありません。

仕方なく、そのへんにイモムシを下ろそうとしました。が、イモムシは縮こまってしまって、歩いてくれません。

小さなイモムシなので力加減が難しいのですが、イモムシをつまんで下ろそうとしました。ところが服にしがみついて、脚を離してくれません。いや、脚が服に絡まって動けない……?

私は焦り慌てました。強引にイモムシを剥がしたりしたら、傷つけてしまう。でもじゃあどうする? 服ごと職場に持って行く?
連れて行ってどうする? 冷房の効いた部屋のロッカーに、服ごとイモムシを長時間閉じ込めておくしかありません。そんなの可哀想。でも……。

時間が経って慌てた私は、結局強引に服からイモムシを剥がすしかありませんでした。

ごめんね、ごめんね。イモムシをその場に置き、走って仕事に行きました。

そして仕事が終わり。私はイモムシを置いた場所へ向かいました。

無事に歩いていって、その場からいなくなっていてほしい。

いなくなっていたとしても、弱って鳥とかに食べられたのかもしれないし、食草を見つけられなかったかもしれない。完全に偽善者の自己満足なのですが、私が服に絡まったイモムシを強引に引き剥がしたために、死なせてしまったなんてことになってほしくなかった。なので、その場を離れてくれていることを願いました。

ところが目に入ってきた現実は残酷なものでした。イモムシは、朝私が置いた場所から一歩も動かないまま息絶え、アリにたかられていたのです。

間違いなく私が殺した。「お前が殺したんだ」と突き付けてくる現実に、すごくショックを受けました。

朝はあんなに元気に歩いていたのに。私が手を出さなければ、自分で安全な場所に行って食草も見つけられたかもしれないのに。
もし車に轢かれたとしても、その方がマシだったかもしれない。私が痛めつけた上に、イモムシは弱って抵抗することも歩くこともできず、生きたままアリにたかられたかもしれない。

普段もやむを得ず生き物を駆除することはあるのですが、殺す気がなかった、助けてあげるつもりだった生き物を、痛めつけて死なせてしまったというのはショックでした。よく考えもせずに手を出してはいけなかったのです。

もう、私に生き物と関わる資格なんてない。
そんな気持ちでトボトボと道路を歩いていると、すごい速さで、大きな黄色い毛虫が歩いてきました。

見るからに毒毛虫という風貌。
立派な姿で、思わず写真を撮ってしまいました。さっきイモムシを殺した私に、毛虫の写真を撮る資格などないのですが……。

この子は車道にいるとはいえ、もう手を出すつもりはありません。この子がどうするか、どうなるかは、この子の自由です。

まぁ森を切り開いて町にするとか、環境を作り変えてしまったのは人間なので、「車に轢かれるのも運命」と他人事のように言うのも、それはそれでおかしい気がするのですが……。
そもそもこの子は見るからに毒毛虫なので、触れません。

しかしこの子、私の方へ向かってきます。私がよけても、また私の方へ来ます。気のせいでしょうか。

一旦足を止めたら、この子はどうするんだろう。よけずに立ち止まってみると……。

履物に登ってきました。

慌てて一度足を引っ込めたものの、もう一回履いて、この毛虫を画像検索してみます。

退勤中なので、出勤中よりは時間があります。
とはいえ昆虫って、そっくりさんが多くて見分けにくいし、この子が何を食べるか分かりません。書いてあったとしても、植物には詳しくないし……。

と思ったら、この黄色と黒のしましま毛虫の検索結果、ほとんど「シンジュキノカワガ」でした。

シンジュ……。

基本的に植物を調べたりはあまりしない私ですが、シンジュといえばニワウルシ。
以前たまたま気まぐれに検索しており、その後「シンジュサンいないかな〜」と思いつつシンジュを眺めたりしていたので、印象に残っていました。
こないだも、シンジュに食痕は見つけたものの、虫は見つけられず、また探そうと思っていたのですが……。

シンジュ。向こうにワサワサ生えています。
そしてシンジュキノカワガはシンジュを食べるそうです。分かりやすい名前、分かりやすい姿。

毛虫は履物からズボンに登ってきました。
こう見えてこの子、毒はないそうです。

……本当に? 本当に毒、ないの? こんなに派手なのに? 私が何か間違えているかもしれないけど?

シンジュキノカワガ……。シンジュ……。
分かった、シンジュまでご案内しましょう。

本当に毒がないのかビビりつつも、毛虫を手に乗せ、シンジュエリアへと向かいました。ぺたぺたとした、毛虫の脚の感触に癒されます。

服に登ってしまいましたが、運が良かったのか、もう大きいからか、服に脚が絡まることはありませんでした。元気に手付近を歩き回っています。

やがてシンジュエリアにたどり着きましたが、空き地の向こうに生えているので近寄れなさそう……。そうだ、反対側から回り込めば……。

シンジュエリアの反対側は下り道。降りていくとそこは丁度、朝イモムシを殺してしまった現場でした。その上の方に、シンジュがいっぱい生えている。

近くに似た木があったので毛虫を乗せようとしましたが、どうも若干違うようで、拒否されました。手の届かない上の方に沢山生えているのはシンジュだと思うのですが……。

ということで、崖みたいになっている石垣(?)の上に毛虫を下ろしました。ここを登っていくと、シンジュスポットです。

毛虫はぐんぐん上へと登り始めました。途中で足場を確認したりしていましたが、また登っていきます。

そしてようやく、シンジュいっぱいエリアに到達し、姿が見えなくなりました。
無事シンジュを見つけていますように……!

もしかしたらもう、葉っぱを食べる段階じゃなく、蛹になる場所を探していたのかもしれませんが。そして私のことを木だと思って、登ろうとしたのかもしれませんが。いずれにせよ、良い場所を見つけてほしいです。

いつか成虫にも会えるかな。

ごめんね、イモムシちゃん……。
そしてありがとう、シンジュキノカワガの幼虫さん……。

イモムシを殺してしまったことでショックだった日の午後に、急に現れたシンジュキノカワガ幼虫。
足に登ってきて。触ってみたらプニプニしていて、生命力溢れる大きくて立派な毛虫で。種類も食草も分かりやすくて。

なんか不思議な感じのする体験でした。ごめんね、ありがとう。

その後、車道にイボバッタがいたので、車に轢かれないように草むらに行ってもらおうとしました。が、ちょっと残念な方向に跳んでいって、停まっている車の上に着地してしまいました。

やっぱり下手に偽善などしない方が良かったかもと思いました。


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月澄狸
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