悪魔とワルツを 1.悪意なき悪事
永遠少年症候群(http://jushin.chu.jp/)様から素敵なお題をいただきました。ありがとうございます。
暑いなぁ。
ほんとに暑い。
なんでこんなに暑いのに私はYシャツを着てストッキング着用の上のヒール付きのパンプスを履いてなきゃいけないんだろう。
足がむくんで靴の中で行き場を失い熱をもって痛みがほとばしる。
大磯夏希の顔は痛みと悲しみで歪んでいく。
それはマスク越しでもわかる。
地方のいわゆる中小企業の正社員にもなれなかった私には働くことすら許されないのか。
積み重なっていくお祈りメールに魂が削られる。
ぶくぶくぶくぶく。
もう無理。もう無理。
痛いよ。痛いよ。心が痛い。
この目を閉じたまま廃墟を歩き続けるような苦しみから解放されたい。
涼を求めて赤を基調としたコーヒーチェーン店に入る。
「いらっしゃいませ」
澄んだよく通る鈴のような声。
そして、大きくてきれいな目に吸い込まれた。
メニュー表を指さすきれいな桃色の爪。
オーダー後の「ありがとうございました」というテンプレート通りの言葉でも鈴花の白くて整った歯を少し見せた優美な笑顔をずっと見ていたくて、しょうがなかった。
それが梅本鈴花との出会いだった。
その時はわからなかった。
運命の悪魔が私の肩にそっと手を載せたことを。
私は間違えてしまった。
「憧れ」と「恋愛」を。
あぁ。雨が降る。雨が降ると空気がじっとりして。
思わず欲情する。
あなたの声が聞きたい。あなたのその漆黒の目を私で染め上げたい。
あなたの指を私のものにさせたい。
あなたの唇に触れることを思っては頭の中から離れないこの身が憎い。
思うだけなら私の自由でしょ。
ねぇ。鈴花。