エジプト・ルクソールの路地裏で見たショッキングな光景
場所はエジプトのルクソール。ナイル川東岸にある路地裏のフラットタイプの家で過ごしていた時のことです。すでにルクソールに滞在して4日目。観光も十分に楽しみ、この日は地元のカフェで伝統的なコーヒーや紅茶を味わいながら、一日中作業をしていました。
エジプトは「うざい国」として知られることもありますが、インドで1ヶ月滞在した私たち夫婦にとっては、むしろ懐かしさすら感じる場所です。そして、通りすがりに「どこから来たの?」「お茶でも飲んでいかない?」と声をかけてくるフレンドリーさは、どこかバングラデシュに似ています。そんな親切心を垣間見ながら、私たちはルクソールという街に好印象を抱いていました。
しかし、その日の夜は少し違いました。
窓の外で聞こえた悲鳴
夕方、作業を終えて家に戻り、夕食の準備をしようとしていた時のこと。
突然、窓の外から何かが叫ぶような金切り声が響き渡りました。それはクラクションや客引き、馬車の音ではありません。犬好きの私にはすぐにわかりました。「犬の叫び声だ」と。
慌てて窓から外を覗くと、そこには小学校低学年程度の小さな子供が3人。彼らは生後3ヶ月にも満たないであろう小さな白い子犬を振り回し、蹴り、殴っていました。挙句の果てには、ぬいぐるみのように前足を掴んでブンブンと振り回しています。座らせようとしても、子犬は衰弱しきって倒れてしまうほどです。
上から見て、「もう死んでしまっているかもしれない」とさえ思いました。
現場に向かう
止めに入るべきか迷いました。ここは日本ではなく異国の地。アラブ諸国では猫が愛される一方で、犬は歴史的に煙たがられることがあると、アラブ人の友人から聞いていました。文化の違い、そして彼らの背景を思うと、行動に移すのにためらいがありました。それでも、現場に行くことに決めました。
外に出ると、1人の少年が笑顔で「Hi」と声をかけてきました。しかし、その足元には動かない小さな白い体が横たわっています。「間に合わなかったか……」。夫が少年に「なぜこの犬はこんなに元気がないのか」と問いかけても、少年は英語を理解できません。
その時、ぐったりとした子犬がかろうじて目を開けました。ホッとしたものの、その様子は明らかに衰弱しきっていました。
少年の家族との対話
やがて他の子供たちが少年の母親と姉を連れてきました。母親もまた笑顔で、犬を乱暴に扱っていたことについて問いただしても、「息子は犬と遊んでいただけ」と言います。
遊びでこれほどまでに衰弱する犬を見たことがありません。私は子犬を抱き寄せましたが、その体はぐったりとしており、まるで昏睡状態でした。
「この犬は飼っているのか」と尋ねると、母親は「飼っている。もし欲しいなら買ってほしい」と言います。さらに「息子は怪我をしてかわいそうだから、お金をちょうだい」と。
その言葉に呆れると同時に、私はこの場でできることの限界を感じました。とにかく、犬を虐待すれば死んでしまうこと、もう二度と乱暴な扱いをしないよう約束してもらい、その場を去るしかありませんでした。
近隣住民との会話で知った事実
その後、モヤモヤした気持ちが収まらず、近所で少し顔見知りになった羽振りの良い男性とお茶をすることにしました。彼にその出来事を話すと、その家庭について「良くない噂を聞く」と教えてくれました。
「彼らはイスラム教徒であるけれども母親は酒を飲み、父親は毎日シーシャを吸ってる。子供たちは誰一人学校に通わせていない」と。エジプトでは公立の小中学校9年間は義務教育で、教育費も無料です。それにもかかわらず、その家庭では子供たちを働かせるわけでもなく、毎日深夜まで遊ばせているのだそうです。
「教育」の重要性を改めて感じる
なぜ彼らが子供を働かせることもせず、一日中遊ばせているのかはわかりません。しかし、その家庭が悪循環に陥っていることは確かです。
今回の出来事を通じて、私は改めて「教育」の重要性を感じました。子供たちに教育の場が与えられないことは、彼らにとって非常に不幸なことです。そして、虐待という問題についても、ニュースや記事で見たり聞いたりするのとは異なり、実際に自分の目で見た時に感じた衝撃は大きなものでした。
それ以降、その白い子犬に会えることはありませんでした。
世界を旅するということ
世界一周をする中で、日本では見ることのできないような多くの美しい景色に出会えることができます。個人的にはエジプトはこれまで訪れてきた国でトップレベルでお気に入りの国です。
しかし旅は決して楽しいことばかりではありません。光があれば、必ず闇の部分もある。単純に大変な事もあれば、今回の体験のような私にとって非常に心苦しい出来事にも遭遇しやすくなる。
ですが子犬が命がけで見せてくれたこの事実を受け止め、自分自身の学びと、これからの人生観に生かしていきたいと思います。