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ウェディングケーキ暗殺計画

エピソード46を配信しました
今回はバクとナミンで「結婚式」をテーマに話しています

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「ウェディングケーキ暗殺計画」

復讐計画は完璧なはずだった

ふたまたをかけられてることにさえ気づかず、私は20代後半からこのかた7年を芽の出ない陶芸作家である剛にひたすら貢ぎ尽くし倒してきた。

んなもん頼んでないやんと剛は反論するかもしれないけど、落選するたびにわかりやすく自信を無くし大袈裟に落ち込む剛を精神的にも経済的にも支えてきた。剛は「オレにはお前が必要。お前を絶対に幸せにしてやるから」と何かあるごとにそう言うのが口癖だった。

あー、それなのにそれなのに
剛は悲願達成の陶芸コンペの新人賞を受賞した途端に、あろうことか多治見にある陶器会社の社長令嬢と婚約しよったのである。
後で聞いてわかったことはもう2年もの間、剛は社長令嬢といい仲だったらしい。
つーことは私は哀れな日陰女としてフタマタをかけられておったのだ、
この2年間。

愛していたからこそ、憎しみの炎は小さなビルぐらいは全焼させてしまう勢いで燃え上がった。
真面目に働きコツコツ貯めた貯金は底をつき、
信じ切っていた剛には豪快に裏切られ、
梶芽衣子の「恨み節」が脳内テーマソングになった。

この恨みはらせでおくべきかーである。
剛の結婚式は一年後の6月6日だ。
私は剛の結婚式のウェディングケーキの中に隠れ、新郎新婦がケーキカットをする瞬間にケーキの中から元気良く飛び出して、びっくり仰天する剛を日本刀で殺戮しようと計画した。
イメージは「キルビル」のユマ.サーマン。
憎しみのエネルギーは思いの外、チカラ強いもので
私は生きる目的を得た獣のようにギラギラしだした

それには先ずウェディングケーキを作るパティシエさんに
この復讐の意義を理解してもらい協力してもらうことが不可欠だ。

んな流れで私は剛が結婚式を挙げるハイエンドなホテルの
スィーツ部門にバイトとして潜り込んだ。
一見、私は和み系女子、「みんながハッピーになるおいしいケーキを作りたくて」と言う表向きの言葉にタレ目の人事担当者はコロリと騙された。

そして私のパティシェ修行は始まった。
やってみて初めてわかったことは私には際立ったケーキ作りの才能が備わっていたと言うことである。職場のみなさんも良き人たちで修行は順調に進み、私はどんどんとケーキ作りにのめり込んでいった。こんなに楽しく集中できることが自分にもあったことに開眼した私は次から次へと新商品を開発し、短期間で名の通ったパティシェに成長した。

ある日気がつくと剛の結婚式は2週間後に迫っていた。あまりにケーキ作りが楽し過ぎて剛への復讐計画をすっかり忘れてたのである。

時間が経つと、気の弱いゴリラのよーな剛のどこが
あんなに好きだったんだろ。
そもそも二股を平気でかけるような人でなしのどこに
そんなに入れ込んでしまったんだろう
恋愛の幻覚から覚醒した私は静かなココロで冷静にそう思った。

そして何ゆえに手をかけ時間をかけて作るおいしいケーキの中に隠れ、新郎ゴリラを殺傷し、全身生クリームにまみれた状態で逮捕され、余生を長い投獄生活を過ごさなければならないのか。
なんで?今、毎日、こんなに楽しく充実してるのに。
もっともっともっとケーキを作りたいのに。

アホくさ、、、
はたと私はもう復讐が完了している事に気づいた。
わたし自身がわたしのチカラで幸せになることが
誰も傷つかない完璧な復讐だったんだ。
さようなら、剛。あなたに裏切られてよかった。
今の私は負け惜しみじゃなくて心底、そう思う
煮えたぎるマグマのような夕陽が落ちていくのを眺めながら、
私は大きな口を開けて
新作の抹茶シュークリームを頬張った

近くの公園でピクニックをしながら
花びらのシャワーを浴びながら
春のガーデニングに精を出しながら
聞いてくださったらうれしいです


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