ヤマアラシの法則

2019年の年末、私は『人生会議』のポスターの件で、思いがけず注目を浴びることになってしまいました。

その中で『トーン・ポリシング』という言葉を知りました。

それは、私にとって、大きな気づきになりました。

【トーン・ポリシング】

トーンポリシングとは、発言の内容ではなく、それを発した口調や論調などで、論点ではなく発信者を非難することなのだそうです。

私のもとにも、ポスターへの意見ではなく

『寛容になったほうがいい』『被害者意識を捨てろ』

『世間を騒がせたことについて申し訳ないという気持ちはないのか』というコメントも届きました。

違うと感じることを発信する私がいけないのか

そう悩んでいた時に、トーンポリシングを知りました。

そして、数年来、苦しんでいることにも思い当たりました。

【夫の葬儀のこと】

夫は、命を月単位で考えるようにと言われる状況の中で、このままでは終われない。難治性がんの声を届けたいと患者会を設立しました。

顔出し、名前も出して発言をし、自分の命の限りを悟られることも覚悟しての行動でした。

『この人は、近い将来いなくなる』という目線を感じることもあり、彼にとっては、精神的な負担もありました。

それで、最期、旅立つ時はひっそりと家族だけでお別れをしてほしい、その後に周知してほしいという希望を私に託していました。

いわゆる『人生会議』で託されたことを、私も叶えたいと思っていました。

しかし、思いがけない形で、あっという間に、夫の旅立ちは多くの方が知ることになりました。

菩提寺や、お寺の近くの花屋さんにまで問い合わせが来ている状態となってしまったのです。

そこで、急遽、家族で再び話し合い、通常通りの葬儀を執り行うことに変更したところ、500名を超える方が訪れてくださる大きな式になりました。

夫のことを想ってくださる人の多さに驚きつつ、もちろん感謝も感じつつ、私には、夫との最後の約束を破ってしまったという後悔もありました。

そのことを、後日、言葉にした時、数名の人から、強い抗議を受けました。

『あの暑い中、参列した人、さらには受付をしてくれた人への感謝がないのか』と言われてしまったのです。

夫は家族葬を望んでいたのに、それを守れず、真逆になってしまったことは良かったのかとの迷いを口にしたことは、そんなに非人道的なことなのか。

私は、何か欠落した人間なのか。

この想いが、ずっと心の重りになっています。

【一部の姿を流布されること】

患者会の代表をしていると、会員のために、先方が嫌な気持ちになることがわかっていても、言わなくてはいけない場面があります。

実例としては、誰かが体験した抗がん剤の副作用への負の体験を強く語ることで、もしかしたら効果があるかもしれない選択肢を提示された人が不安を感じさせてしまうかもしれないこと。

終末期のお見舞いは、本人の体調に負担がかかるため、家族が望んでいないこともあり、慎重になるべきということ。

意見を言われた人は、厚意でしていることへの意見を受けるため、当然、おもしろくない感情を抱くということはわかります。

それでも、会の代表としては、お伝えしなくてはならないことがあると考えています。

葬儀の件も、私たちが以前に、他の患者さんへの言動に対して意見を伝えた人が発端となっていました。

『あの夫婦は、いつも上から目線だ』『あたりが強い』と、いろいろな場所で話していることを知りました。

その『いつも』を、その人は、どれだけ知っているのか。

夫は、私以上に、人に対して優しい人でした。

でも、人目を気にして意見を濁す人ではなく、違うことは違うと言える人でもありました。

ある感情がうむ『あの人は』という話。

やり取りの中身ではなく、『こんな人だ』ということに話を変えられていくこと。

感じてきた胸の重みは、このトーン・ポリシングに由来していたのかなと思いました。

【自分らしく生きるために】

『自分らしく生きる』

それは、旅立つ4カ月前に、がんノートに出演した時に

彼が色紙に書いた言葉です。

あの時は、こんなに辛い状況の中で、なぜ彼が自分らしく「生きる」と言ったのかがわかりませんでした。

4年近くの日々が流れ、今、私は、その意味は、どんな状況にあっても、自分だから出来ることを考えていくことなんじゃないかと思うに至りました。

私に出来ることはなんなのか。

そう考えた時、自分がしてしまった後悔を伝えることで、透明性をもった医療情報への関心に繋げることかなと思いました。

そのことを、前回のnoteに書きました。

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【ヤマアラシの法則】

発信。

何もしなかったら波風が立たないところに、一石を投じていくことは、エネルギーが必要です。

エネルギーを保つにはどうしたらいいのか。自分を消耗させるだけのことから離れようと考えています。

人は、それぞれの経験、背景が違うのですから、異なる意見があることは当然のことで、それは、より良い方向に向かうためにも大切なことであると思います。

ただ、論点ではなく、性格や口調などへの批判に心をすり減らすのはやめようと思いました。

自分の持つエネルギーは無限ではないのだから、消耗するだけのことからは離れようというのが、今の私の心境です。

【ヤマアラシの法則】

ヤマアラシの法則というものがあるそうです。

針が刺さらない距離を取る。

針の長さは、それぞれが違う。

それを見極めて、自分が傷つかないように、それぞれとの距離を考えるということのようです。

距離をとったことで、『冷たい』とか『切った』とか言われることもあるでしょう。

でも、やはり距離感を考えることが、消耗を減らすのかなと思っています。

初夢に、初めて夫が出てきました。

亡くなってから、何回願っても、夢でも会えなかった夫が出てきた。

夫は笑顔でした。

それでいいんだよとエールを送ってくれたのかなと思っています。

消耗するだけのことからは距離をうまくとって、でも自分の意見を持つことを恐れないでいたいとも思います。

難しい。でも、やってみようと思います。










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Romi
全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。