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1 丸のみした家 前編

 わたくしのお仕事は簡単に言えば便利屋でございます。
 建築屋さんや知人、わたしを使ってくださった方々からのご紹介で依頼が来たものにお応えして、住まいや敷地の修繕手入れ・引っ越し手伝い・お片付け・ご旅行の介護補助など、様々なご相談を承っております。
 活動地域は日本の西の一部でございますので、よほどの強いご縁と高額な前金振込確約がありませんと遠方には参りません。

 これは今から1年ほど前に受けた遠方案件で、ご依頼内容は
「新築で建てた家の湿気と黴(かび)がひどい。建てた会社に言っても改善されず、連絡も取れなくなったと思ったら倒産していた。近隣の建築会社に依頼したが、どこも来ただけで何もせずに帰って行き二度と来ない。住み始めてしばらくしてから家族が次々に体調不良を起こしている。とにかく何とかしたい。」
とのことで、あるリフォーム会社の社長さんからのご依頼でした。

 社長の会社でなんとかしたらいいのでは?と言いましたら、社長さんは
「うちも別の工務店から頼まれて行ってみたけど・・・難しいよ(苦笑)
 施主さんは地域ではちょっと有名な人でさ。このままだと人死にも出そうだから、まぁものは試しということで豆狸さん見てきてよ。何も出来なくても交通費と宿泊代に色付けて払うし、温泉もあるよ。」 
と言われて察しましたが、温泉付きに釣られて承諾しました。
 図面と現場の地図とお客様の連絡先が届いたので早速お客様へご連絡し、ご訪問の日程を決め、職人を一人連れて1泊の予定でご訪問いたしました。

 築2年のお宅は街の中心よりやや離れたのどかな場所にあり、かといって山の中の田舎という感じでもないところに建っておりました。
 この家の平面図でだいたいの予測をつけていましたが、訪問して玄関インターホンを押した時から呼び出し音が歪んで聞こえ、こんな場合は警戒して1歩下がります。

 引き戸の玄関が開いて出てこられる前、摺りガラス越しに見えたお客様の姿は色のついているシルエットの上に黒い塊のような山が視え、さらに3歩下がります。
 玄関ポーチより降りた場所で一礼してお客様にご挨拶をし、玄関奥に視えるごうごうごうという音にちょっと恐れも感じつつ、玄関内に入らせていただきました。

 出てこられたのは60代前半くらいのご主人で、私の全身をジロジロ眺め、さらに後ろに控える職人さんをジロジロみて
「どうぞ、入ってください」
と招き入れられました。 

続く

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