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夜はくるくる

I.真ん中の部屋

 今夜もまた目が冴えて、ねむれない。

 今日はいつもよりたくさん体を動かしたのに。ベッドに入る前に階段を上り下りを10回もした。昨日は8回だったから増やしてみたのに。昼寝をとっても我慢して、右腕を何回もつねって起きてたのに。今もつねった赤い跡がちょっと残っている。

どうして眠くならないんだろう。
窓から入る青い光が布団にゆらゆらしてる。

 昨日はなにをして眠くなったっけ。
ええっと、そうだ。下の部屋で本を読んだんだった。
一昨日は、窓から海の中を眺めてたなぁ。
先一昨日は、上の部屋でゆっくりココアを飲んだ。
その前の日は、大好きな宝物の石たちを磨いた。
その前の前の日は…。

 今日はなにをしたら眠くなるのかな。
布団を蹴ってベッドから降りるときに、寝巻きの白いワンピースがめくれて裏表を反対に着ていたことに気づいた。
あら、まぁ。
お客さんや配達人が来なくてよかった。恥ずかしい思いをするところだった、といそいそワンピースを直した。
これで大丈夫。

 とりあえず、窓からの景色を眺めてみることにしよう。
今夜も窓の外では、エイやカラフルな熱帯魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
たまにタコやカメも見かけるけれど、今夜は来ていないみたい。
海の上の方は明るくてキラキラしている。

ぼんやり眺めていると、鰯の大群がこっちに向かってきて、ぶつかりそうになるもんだから「うわぁ!」と尻もちをついちゃった。
「あー!びっくりした」
これでは眠れないや。

 ベッドを挟んで窓の反対側にある机まで行って備え付けの椅子に座る。
座った目の前には壁に棚が付いていて、そこには一番お気に入りの本と日記、筆記具、色鉛筆がしまってある。
それから空いている場所にはドライフラワーと木の実で飾ったリースが置いてある。
この場所は家の中でもかなりお気に入り。

その棚から日記とペンを取って、今日の出来事を書いてみる。


13月522日 晴れのち雨
朝ごはんは、苺ジャムをのせたパンとサラダ、それからホットミルク。
しーちゃん家に遊びに行くと、バンジージャンプをやってみたいが迷ってると今日も相談してきた。そんなに迷うなら一回やってみたらいいのに、と言うと、「落ちたら死ぬからやっぱりやらない。あ、でも命綱があるからいいのか。でもなぁ…」と相変わらずごちゃごちゃ悩むので、そっと帰ってきた。
普段はとてもかわいいのに悩みすぎて顔がくしゃくしゃで、あれじゃあ美人が台無しだ。
帰ってきてから下の部屋で花たちのお世話をしていたら夕方になってしまって、昼ごはんを食べ損ねた。今日も葉っぱがきれいだった。
気付いたら大雨になっていたので、洗濯物がびしょ濡れになった。明日は晴れるので、そのままにしておいた。
夜ごはんは、じゃが芋と豆とベーコンの煮物、レーズンパン、人参のスティックを食べた。
明日はルイさんにドライフラワーを届けてからマーケットに買い物に行くつもり。
叔母ちゃんからの荷物は明日届くかなぁ。


書き終わる頃には丁度いい具合にまぶたが重くなってきた。
「作戦成功だ……」
日記を片付けて、もぞもぞと布団に潜り込む。
「おやすみ、大好きなお家。またあした…ね」

 これは、不思議な家に住んでいる、ちょっと変わった住人のおはなし。

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