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バレエ台本『空き地の女(マリア)』

幕が上がるとそこは空き地である。雑草が繁茂している中に土管が3本積まれている。フェンスが背後に走っており、草木がフェンスを侵食している。

土管から男が頭を出す。キョロキョロ見回すが頭を引っ込める。また頭を出す、引っ込める。しばし繰り返す。やがて男は土管から出て来る。青年に見えるがそうでないかも知れない。年齢不詳の男である。デニム生地のツナギを着ている。男は初めて太陽を見たかのように驚き慄き、そして愛おしく抱きしめる。まるで春の息吹を感じたかのように。土管に飛び乗ったり飛び降りたり、まるで仕草が子どもである。

女が現れる。全身赤い服を着て顔を隠すようにツバの広い帽子を被っている。男は眩しくて女を直視出来ずにいる。女のところに駆け寄ろうとするが、女は拒絶する。乱暴に地面に叩きつけられる男。男は驚き混乱する。にも関わらず何かの間違いだと思い再び女の周りを舞う。構って欲しい子どものように。にも関わらず女は拳を振りかざして男を威嚇する。男は土管に逃げ込む。女は構わずに縦横無尽に舞台を踊り回る。男は土管から首を出して恐る恐る女を見る。首を出したり引っ込めたり繰り返すが、やがて出て来なくなる。女は踊り疲れたのか土管に腰を下ろしてため息をつく。すると今まで青々と繁茂していた草木がため息に呼応して急に枯れ出す。女は満足気に立ち去る。暫くして男が土管から出てくるがこの惨状を見て嘆き悲しみ、踊りで表現する。

すると背後の書割が倒れて大都会のビル群や高速道路が街中の大騒音とともに現れる。女、現れて帽子を脱ぎ捨て男の周りを踊って、やがて男の手を取り大都会へ去ってゆく。

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