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タイに行った。ただひたすらに綴ってみる②-3

目を覚ますとそこは――なんてことは別になくて、ただのスコールだった。稲妻がはっきりとみえるくらいの雷に、バスに乗っているはずなのにくっきりと聞こえる雨音。平日の夕方の道路はおそらく退勤中であろう自動車がのろのろと連なっていた。

ツアーの解散場所はショッピングモールで、友だちと待ち合わせして夜ご飯を食べようと思っていた。友だちはローカル線のバスに乗っていたこともあり、予定より大幅に遅れると連絡があった。

Gマップを開くと、あと20分くらいで解散場所につくらしい。お昼ご飯が大量だったうえにほぼ歩きもしていないので、まだお腹いっぱいだなと思っていると、熟睡から覚めたらしいツアー参加者がそれぞれに夜ごはんのお店を調べたり、予約の確認をしあっていた。もっと燃費が良くなりたいと思った。

そういえば、この旅ではモバイルバッテリーを持っていなかったので、極力スマホは開かないようにしていた。一日の終わりに、ホテルまで帰るバスと帰路を調べられないなんてことを恐れていた。ここはしっかりと心配性。いま考えるとデータ無制限のeSIMである必要はまったくなかったな。

とはいえ、朝5:30にホテルの部屋を出たので充電も少なくなってきた。ここからあと4-5時間。急に心配になってくる。隣の人がモバイルバッテリーを持っている。しかも3台同時に充電できるハイパースペック。悩むこと10分。声をかけ、線を1本貸していただいた。一台のモバイルバッテリーから初対面の2人のスマホが充電されているこの様子、相手がどう思っているのかなんとなく気になった。

それにしても、バスは進まない。日本人らしく、皆が座席から身を乗り出してバスの外を見続けていた。そんなことしたって早くは進まないのになと思いつつ、私もつい見てしまう。少しずつ街並みが変わり、飲食店で賑わうエリアにはいる。赤、青、ピンク、黄、色とりどりのライトで照らされていた。

ガイドさんがここが美味しい、ここも有名、とあれこれ教えてくれる。バスがゆっくりと進むおかげで、レストランの中の様子まで覗くことができた。だがしかし、まだ到着しない。Gマップであと20分と表示されてから40分はたったか。

モバイルバッテリーを貸してもらったことをきっかけに隣の人と話をする。南の方の出身で、大学時代には小さな島に暮らしフィールドワークもしていたという。台風が来ると物流がストップし、町からなにもなくなるのだとか。優先順位というものもあり、その島を越えてより大きな島のほうへ先に荷物が届くらしい。備蓄とはこういうことかと、現実味を帯びて聞こえた。

やっと、ショッピングモールが見えてくる。通りとしても大きな位置にあり、ここも渋滞していた。みえているのに、降りられないというジレンマのようななにか。ここで降ろされても構わないと誰もが言いたげな車内の雰囲気だった。その様子とは裏腹に、明日は半日で仕事が終わり、明後日は休みなんだとのんきに話し続けるガイドさん。ゴルフの練習をするらしい。やはり、待つ待たされるということに対する時間の感じ方が違うのだなと思った。

遅くなってごめん、着いたよという旨の連絡が友だちから届く。まだ私はバスの中にいた。いきなり待たせる側になったので、いよいよ居心地が悪くなってきそうだった。全員が荷物を肩にかけて、いまかいまかと待ち構える。

ガイドさんからツアーの終わりを知らせる台詞。バスが停留所にはいった。扉がひらき、一目散に下車。ツアーの御礼を言うときは、やけに元気が良かった。それぞれの次の目的地に向かって、あっという間に散り散りになった。

友だちと合流しようとショッピングモールにはいる。エスカレーターをあがると、聞き覚えのある音楽と見慣れた青いキャラクターがいた。ドンドンドン。

合流した友だちは疲れ切っていた。往復6時間かけて、しかもそのバスはいつ来るかもよくわからずひたすら待ち続け、観光客もいないようなマニアックなスポットへ行ったのだ。目的地の話を聞くより、目的地に行くまでの話を聞くほうがおもしろかった。けれどきっと、本当によかったことというのは自分の胸の内だけに留めておきたいこともあるものだよなとも、思う。

16時にパッタイを食べたらしい友だちと、お昼ご飯の存在をまだ胃に感じている私とで6階のフードコートへ向かう。入り口カウンターで現金をわたすと、プリペイドカードがもらえた。これを使ってフードコート内で飲み食いができるらしい。早速、焼鳥のようなものが売っている場所へ向かうと、Cash Onlyと言われた。

その後、ビールと炒め物、練り物の揚げ物をゲットし、席へ。練り物の揚げ物とはなんだと思うが、そのまんまだ。練り物の揚げ物に辛いソースがかかっていて、黄色と赤色の大きめの紙カップにはいっていた。長めのつまようじで刺して食べる。

互いにお腹が空いていないはずだが。もりもりと食べ続ける。友だちは豚肉の炒め物が辛すぎたようで、マンゴーのスムージーを買いにいった。練り物の揚げ物を食べながら待つ。たくさん食べてしまいそうだったので、カメラをいじる。

マンゴースムージーは私が水上マーケットで買ったものと全く一緒だった。マンゴーと大量の氷と甘いシロップをミキサーにかけるだけなのだから、そりゃそうか。やっぱり最後まで飲み切るのは身体に堪えたらしく、私に勧めてくれるが有難く断った。

食べ終わった皿を片づけようとすると、閉店間際だったためかそのままにしておいていいよと炒め物を買った店の人が店の中から大声で親切に言ってくれた。入り口と同じカウンターにプリペイドカードを差し出すと、残額を現金にして渡してくれた。そういえば、結局いくら分の夜ごはんだったのだろう。

スムージーの容器を渡したり渡されたりしながらエスカレーターに乗って向かったのは、有名なチャイティーのお店。実は空港についた直後に飲んだのだが、これは滞在中にできる限りたくさん飲みたいと思っていたのでうれしかった。甘さを一番下のランクにして注文する。とっても甘い。

服や雑貨をなんとなく見て回る。サングラスをかけたり、医薬品をみたりするも、買わず。ぶらぶらとしていると、ショッピングモール内のスーパーを発見。閉店まで30分、ピストルが鳴ったのかといわんばかりに走り出す。小走り。スーパーというものが好きなのだ。

色とりどりの果物がバスケットに山積みになっている。日本のスーパーと売り場のつくりが似ていた。精肉コーナーに鮮魚、冷凍ケースにレトルト食品、調味料。それから、お酒売り場。ここでクラフトビールのラベルデザインに惹かれ、吟味しながら3本を選ぶ。

そういえば、この日だったか、友だちが高級セットアップをゲットしていたのは。カード払いで買っていた。値切っていたが、あのブランド品でも値切れるとはどういう商売になっているのだろうと思った。海外でカードを使って高い買い物をすることは、まだ私にはできなかった。

スーパーでビールを買い、満足感に浸っていると、閉店時間を過ぎていることに気がつく。帰りのバスを調べ、バス停に向かうも、なぜか出入口のドアがしまっていて外に出られない。ふと目線を上にあげると、まだ客がのんきにエスカレーターを降りているところがみえてすこし安心。でも一体、どこから出るのか。

一刻も早く外に出て安心したい私と、トイレに行きたい友だち。ちょっと待てといいながら一旦出口を探す。人だかりにコンビニを見つけ、出られることを確認。トイレへ送り出す。コンビニで待つ私は、ツアーに参加していたお菓子をくれた2人と再会した。

バス停に辿り着くと、ここでもたくさんの人がバスを待っていた。大きめのバス停らしく、次々とバスが来る。私たちの乗りたい番号のバスはなかなか来ない。奥からバスがやってくるたびに番号が違うことを確認して、あ~ちがう!と大きめの声を出すあの感じ、なにかに似ている。

待っていると、再びお菓子の2人に再開する。そういえば泊まっているホテルが近いのだと、ガイドさんが言っていた。2人はアプリで呼んだタクシーを待っていたらしく、相乗りを誘ってくれる。道はかなり渋滞しているように見えて、アプリで呼んだタクシーもいつ来るかわからなければ、乗車してからもどれくらい時間がかかるかもわからない。乗ったら乗ったで楽しい時間を過ごせる予感もしたが、一日の疲れもピークだろう。と、同じことを友だちも考えていたらしく、どちらからともなく相乗りの申し出はお断りした。

たぶん、40分は待ったと思う。あと10分待って来なかったら別のルートを行こうと作戦を立てるも、なんとなく待ち続けた。やっと来たバスは、他の路線よりややサビていたような気がする。完全に停車しきらないバスに乗り込み、やっと座る。渋滞も緩やかになり、バスのスピードはどんどん上がる。次々に停留所を通過していくため、Gマップを立ち上げたまま、停車ボタンを押すタイミングを逃すまいと注意した。

バスの窓は全開で、夜風がやや強めに顔にあたり気持ちがいい。バスに乗れたことと座れたことの安堵で会話がはずむ。大きな声で話過ぎたのか、前に座る現地の人がこちらを振り向く。それに気がついた私はやや声のトーンを落とすが、ことあるごとに振り返っては目が合う。なんとなく嫌な予感がする。はやく降りてくれるか、はやく目的地についてほしいと思う。

一方で、友だちと互いの近い将来の話で盛り上がる。でもやはり私は前の人が気になって、話し半分になってしまう。ちゃんと話したい話題だったので、申し訳なくかつやや後悔。前の人が立ち上がった。こちらに笑顔を向けて手を振ってバスを降りていった。なんやねん。

バスを降りて、コンビニに寄る。そういえばこの日は金曜日で、ホテルの周りの飲食店も賑わっているように見えた。日本では華金だが、そうだったのだろうか。コンビニで恒例のアイスを買い、ホテルに戻る。

猿のイラストが書かれたビールの缶を開け、ふたりで分けて飲む。交代にシャワーにはいり、シャワーのお湯が出ることにやっと気がついた。この日は身体をあたためて寝ることができた。

次の日の予定は、なにもない。


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