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マネジャーのためのハラスメントトレーニングvol.2 パワハラにグレーゾーンは存在しない。

ハラスメント問題は、現代の職場環境において避けて通れない課題です。特にパワーハラスメント(以下、パワハラ)は、企業内での人間関係や職場文化に大きな影響を及ぼす重大な問題です。しかし、一部のマネージャーや管理職、一般社員の間ですら、「パワハラにはグレーゾーンがある」という意見が根強く存在しています。この意見は、パワハラに対する正確な認識を曖昧にし、企業内での適切な対応を遅らせる要因となりかねません。

この記事では、パワハラにはグレーゾーンが存在しないことを強調し、マネージャーが自身の言動に責任を持ち、部下が適切な対策を求める権利を守るために何をすべきかを具体的に解説します。

1. パワハラにグレーゾーンがあるという意見の背景

多くのマネージャーが、自分の立場や職務に基づいて部下に指示を出す際、その指示が時に厳しくなることがあると感じています。
厳しい指導や叱責がパワハラに当たるかどうかは明確にわからないと考え、しばしば「グレーゾーンの行為が存在する」と誤解されます。彼らの主張としては、「部下の成長のために厳しい指導が必要だが、それがハラスメントと捉えられることがある」「業務の遂行のために強い口調や態度が求められるが、それが一律にパワハラとして扱われるのは問題だ」というものです。

確かに、業務遂行上、部下に対する指導やフィードバックが厳しくなることは避けられない場面もあります。しかし、問題はその指導方法やフィードバックの内容です。どのような意図があっても、業務の必要な範囲を超えた行動をとる限り、相手が不快に感じたり、精神的にダメージを受けたりする場合、それは単なる「指導」ではなく、パワハラと評価されます。

2. 実際にはグレーゾーンは存在しない

実際には、パワハラにはグレーゾーンは存在しません。法律や会社の定めた指針に基づいて、パワハラかどうかの判断は明確に行われます。大まかに言えば、違法と評価できるパワハラ、違法ではないが改善が必要な言動、そして問題のない言動という三つのカテゴリーに分類されます。

パワハラが違法と判断されるかどうかは、被害者が受ける精神的・肉体的な影響や、行為者の言動の内容・態様によって決まります。日本の「労働施策総合推進法」では、パワハラを「優越的な立場を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えて他者に身体的・精神的苦痛を与えるもの」と定義しています。すなわち、上司やマネージャーが自らの立場を利用して行う攻撃的な言動は、業務上必要なものであっても、その態様において適正な範囲を超えていれば違法となり得るのです。
パワハラに該当する類型はトレーニングのVol1で解説しています。

一方で、違法とまでは言えないが、明らかに改善が必要な言動も存在します。例えば、仕事の進め方に対して目的・将来像も示さず厳しく批判する行為がこれに当たります。このような行為は、違法とは言えないものの、職場環境を悪化させ、部下のパフォーマンスを低下させる原因となります。適切な指導と不適切な言動の境界線は、法律や社内規則に基づいて明確に区別されており、そこに曖昧さやグレーゾーンは存在しません。
もちろん、”あなた”にとって不明瞭な場合があるかもしれません。その場合に備えて、会社は人事担当者を置き適正な指導を行うようマネージャーと連携したりトレーニングを提供しているのです。
トレーニングが不十分、学びにならない場合は、しっかりとその点についてトレーニング担当部門と協議することが重要です。

3. マネージャーの責任と認識の重要性

たまにいますが、マネージャーが「グレーゾーン」として自己の行動を正当化するのは、お門違いです。リーダーとしての役割を果たすためには、自分の言動がパワハラに該当するかどうか、常に自己評価を行い、必要に応じて改善する姿勢が求められます。「自分は厳しいけれど部下のためにやっている」という考え方は、一方的なものであり、部下の視点や感情を無視することになります。大切なのは、外形的にどのようなコミュニケーションをあなたがとっているか、です。部下はあなたではありません。伝わる方法でしか、部下にあなたの考えは伝わりません。

マネージャーの責任は、単に業務を遂行するだけではなく、部下が安心して働ける環境を整えることにあります。もし、自分の指導が部下にとって不快であり、それが不合理ではないのならば、それを改善する義務があるのです。指導が厳しくなること自体は問題ではありませんが、部下に対して敬意を払い、相手の人格や感情を尊重することが不可欠です。

4. 部下も「グレーゾーンだから」と諦めるべきではない

一方で、部下も「パワハラかもしれないけど、これくらいはグレーゾーンだろう」と諦めるべきではありません。部下がパワハラに対して適切なアクションを取らず、問題を放置することは、長期的には自分自身や職場全体に悪影響を及ぼします。企業が健全な労働環境を維持するためには、社員一人ひとりがハラスメントに対して敏感であり、必要な場合には適切な対応を取ることが重要です。

社員がパワハラを受けていると感じた場合、まずは上司や人事部に相談することが必要です。また、企業内でのハラスメント相談窓口や第三者機関に相談することも選択肢として考えられます。部下としても、自分の権利を守るために、グレーゾーンという曖昧な概念に頼らず、適切な対応を取るべきです。

5. 企業の責任と対応

企業は、社員からパワハラの相談を受けた場合、その問題が違法なハラスメントに該当するのか、あるいは改善が必要な言動なのかを正確に見極め、迅速かつ適切な対応を取る責任があります。対応が遅れたり、不十分な場合、社員からの信頼を失うだけでなく、企業全体の評判や業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。

社員がパワハラを訴えた際には、まずは事実関係をしっかりと調査し、当該行為が法律や社内規則に反しているかどうかを判断する必要があります。違法なパワハラが確認された場合は、速やかに適切な措置を講じ、被害者の精神的・身体的なケアを行うことが求められます。また、違法ではないが改善が必要な言動についても、上司やマネージャーに対して改善指導を行い、職場環境の改善に努めるべきです。

結論

パワハラにはグレーゾーンは存在せず、違法か、改善が必要か、あるいは問題のない行動かのいずれかです。マネージャーは、自分の言動が部下に与える影響を常に意識し、適切な指導を行う責任があります。部下もまた、自分の権利を守り、必要な対応を求めるべきです。企業全体として、ハラスメント問題に対してしっかりとした対応を取ることで、健全な職場環境を維持し、社員からの信頼を得ることができます。

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