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猫の日に寄せて

譲渡会を経て我が家に来た猫たちと家族の一年の話をまとめました。


我が家の猫へ


2月(去年の)

あなたが我が家に来てもうすぐ1年になりますね。
初めて会ったのは2月3日、保護猫の譲渡会でした。
元々、猫を飼いたいと言い出したのはママで、パパの帰りが遅い日々、晩ご飯を作ってぼんやりテレビを見ながら過ごすことに寂しさを感じて、どうしても猫が飼いたい、保護猫が良いとパパを説得して、ペット可の家に引っ越してすぐに譲渡会に行ったのです。

ママは涙腺が弱いので、譲渡会でケージに入れられた猫達を見て、盲目の猫を見て、思わず泣いてしまって。どのこにしようなんて決められないと嘆いていたところ、スタッフさんから、後で後悔しないように自分達で決めて欲しい、と促されました。

あなたに決めたのはパパです。
ケージに一匹で入っていて、隣のケージの猫にずっとちょっかいをかけているあなたを見て、
「このこ、めんどくさそうでかわいい」

そう言ったから2月3日はあなたに決めた日。

あなた一匹ではパパママ共働きで寂しいだろうから、とキジトラのアーちゃんもパパが決めて、私たちはあなた達のトライアルに申し込みました。

3段ケージを買って、トイレ、爪とぎ、ごはん皿とお出迎えの準備をしていたところ、あなたは風邪をひいてしまい、トライアルは延期。
その間、元気かな?大丈夫かな?とパパと毎日話しているうちにあなた達の保護猫時の名前が定着してしまいました。

3月

3月3日、首を長くして待っていたあなた達の到着。3段ケージの上の階でぴったり身を寄せ合っていたあなた達を見ながら、私たちは早く懐いてくれないかなと、ワクワクしていました。
初日からあなたは紐のおもちゃに飛びついていましたね。
譲渡会の紹介文は「遊ぶことが大好き!」
その通り、この日から毎日、私たちはあなたの遊びたい!欲に付き合ってきました。

ところで。パパ、ママ、なんて言っているけれど、これを言い出したのはパパです。
私に対して、あなたとアーちゃんのママだ、と。じゃあパパもいるよね。こうして私たちは互いを、あなたとアーちゃんのパパとママだと言い始めました。

3月中旬、ママは辛い手術を受けました。体調は復調せず寝ているばかりの日々。あなた達が添い寝をしてくれたから、ママは辛くても耐えられたのだと思います。

4月

ママは実家に帰りました。ママのおなかに宿った子とトキソプラズマ、そしてママの体調が戻らない問題があったから。
パパは毎日、あなた達の写真や動画を送ってくれました。アーちゃんはパパにビビってばかりだったけれど、この時ばかりは仲良くしていましたね。

5月

体調がだいぶ良くなったママは家に戻ってきました。アーちゃんは初日、ママを警戒していましたが、あなたはそんなことなかったですね。さすが、保護団体の世話人さんから「このこは犬です」と言われていただけあります。
そんな元気いっぱいなあなたでしたが、我が家に来たときからの風邪が治らず、去勢の関係もあり動物病院にかかったところ、猫風邪に加えて、猫コロナとクロストリジウムの陽性反応。去勢どころではなくなってしまいました。
薬を飲み、毎週のように病院へ。
毎回、ずっと鳴き続けるあなたを連れていくパパは「待合室でずっと鳴いている」と疲労していました。診察室に入り診察台に乗ると鳴き止んでゴロゴロ喉を鳴らす人好きなあなたは病院でも可愛がられていたらしいですよ。

6月

パパは去勢の相談含め隔週で病院へ。アーちゃんとおなかが少しずつ大きくなってきたママはお留守番。
知っていましたか?アーちゃんはあなたが病院に行っていると、ものすごくママに甘えるんですよ。苦手なパパも、しつこく追いかけるあなたもいないからとてもリラックスしていました。いつでも元気なアーちゃん、すぐ鼻水くしゃみ、おなかがゆるくなるあなた。
だからパパとママは、アーちゃんはずっと元気で丈夫だと思ってしまったのです。


7月

やっとあなたの去勢の日が来ました。
去勢までの日々、家でスプレーされたらどうしようと私たちは気を揉んでいましたが、それもなく、あなたの可愛いぷりぷりは萎んでしまいました。ママはぷりぷりが取られることを嘆きましたが、パパは同性としてそれ以上にあなたに同情していましたよ。

8月

あなたの一歳の誕生日が過ぎました。
保護猫の時の名前が個性的だと思って世話人さんに聞いたところ、あなたの名前は甲子園から来ているそうです。ミルクをあげながら甲子園中継を見ていたからだ、と。
甲子園球児、で3匹分。他の兄弟にも会ってみたかったな。皆、あなたみたいに人なつこい甘えん坊なのかしら。

9月

ママは産休に入りました。この夏は暑い日が続きましたが、あなた達のためにクーラーを24時間フル稼働した家は涼しく電気代は爆上げでした。
アーちゃんが窓際で昼寝するたび、あなたはくっついて邪魔をしていましたね。

10月

ママは坐骨神経痛がひどくなり、歩けなくなりました。家から出られない日々、ずっと一緒にいたあなた達がいてくれなければママは参っていたことでしょう。朝は左のお尻が痛くてなかなか起き上がれないママをアーちゃんが起こしに来て、日中は一緒に添い寝。おなかが大きくてなかなか寝返りが打てないママに容赦なくくっついてあなた達は昼寝をしていました。

11月

ママは女の子を出産し、退院時に家に寄ってから実家に帰ってしまいました。
しばらくの間、パパがあなた達の世話を、ママが娘の世話を。

その間、パパとママはラインでやり取りしていました。アーちゃんが最近元気無いね、寒いからかな。ずっとホットカーペットの上から動かないの。
すぐに病院に行けば良かったのに、パパとママは油断してしまいました。風邪ひとつ引かないアーちゃんだったから、あなたと違って、体調を崩してるなんて思いもしなかったのです。

11月中旬のある日、ママは一時家に戻りました。パパが泣いていたからです。アーちゃんに会いたかったからです。 パパに連れられて大嫌いな病院に行ったアーちゃんは、猫コロナからの腹膜炎と診断されました。
生後2週間の娘は実家に託して、ママはクローゼットに閉じこもったアーちゃんを撫でて、パパと一緒に泣きました。あなたは、眠れないママの枕元にくっついて眠っていましたね。
翌日ママは実家に戻り、パパは近隣を探し回って、食事をしないアーちゃんのためにウエットフードを探し回りました。食べさせようとしては絶望し、また絶望し。
次の日の朝、パパから「アーちゃんはもうダメかも」とラインが来た時、ママは泣いて泣いて泣いて、ミルクをあげていた娘の顔に涙を零し、家に帰れない不自由さを嘆きました。
その日は仕事のパパ、娘の世話があるママの代わりに、ママのお母さんがアーちゃんの看病をしに行ってくれました。
お母さんは何匹も猫を看取った経験がありました。食事を取れないアーちゃんにブドウ糖を溶かした水を含ませ、クローゼットに閉じこもったアーちゃんを定期的に見てくれました。

ママは実家でいつもお母さんと一緒に娘の沐浴をさせていました。その日は初めて一人での沐浴をなんとか終えて部屋に戻って、着信に気づきました。
パパはすでに会社を出て家に向かっていました。
あなたが知っているとおり、アーちゃんは、お母さんに看取られて息を引き取りました。

ママはお母さんから聞きました。
隙あらばアーちゃんのいるクローゼットに入り込もうとしていたあなたは、リビングに隔離されていたこと。そのあなたが叫んで、その時にクローゼットにいたアーちゃんが床に落ちて息を引き取ったこと。
「動物は、仲間が死ぬってことが何となく分かるのかしらね」
お母さんはそう話してくれました。

ママは娘を実家に残して家に帰り、パパと2人、アーちゃんを撫でて、お葬式の準備をしました。
アーちゃんが好きだった金色のパンクリップ、ママの髪ゴム、おもちゃの羽部分を、段ボールに入ったアーちゃんの周りに置きました。
あなたはしきりにアーちゃんの匂いを嗅いでいましたね。その度に、ママが、パパが、
もうアーちゃんは動かないんだよ、と泣きながら話しました。
次の日、私たちはアーちゃんのお葬式をして、小さくて赤い箱に入ったアーちゃんを連れてパパだけあなたの元に帰ってきました。
ママは実家の娘の元に戻りました。

その週の金曜日、またママは短時間家に帰ってきました。娘の検診があったからです。
あなたはジッと娘のことを観察しましたね。
ママが実家にいた時、実家にはフクちゃんという猫が居ました。ママが実家に住んでいた時からの仲でしたが、すでにママのことはど忘れしているフクちゃんは、赤ちゃんを見て威嚇し、泣き声に怯え、ストレスで食が細くなってしまいました。だからママはあなたもそうだったらどうしようと思いましたが、そんな心配は無用でした。
あなたは娘の頭の匂いをかぎ、ペロペロ舐めて挨拶してくれましたね。ありがとう、お兄ちゃん。

12月

ママは新しい住人と一緒に家に帰ってきました。
翌週。あなたはやらかしましたね。パパ激怒。
我が家のベビーベッドをたまに寝床にしていたあなたですが、娘が来てから私たちはベビーベッドには入らないように叱っていました。だからでしょう。ママが外出してパパだけが娘の世話をしていたあの日あの時、娘が寝ているベビーベッドに入り込んだあなた。パパが声を上げた瞬間に、あ、やべ!とベビーベッドからジャンプして降りた時に、娘のおでこを爪で引っ掻きましたね。
パパはパニックに陥り、更にアーちゃんの死まで思い出して、自分だけの時に…と後悔していました。
祝日につきどうしたものかと急いで#8000に電話。アドバイスの元小児科に連れていきました。
ちょうどママのお母さんが来ていたので、あなたはお母さんと一緒にお留守番。
パパの怒り、慌ただしい外出、お留守番。あなたはきっと悪いことをしたのだと気づいたのでしょう。
皆が帰って来た時、あなたは真っ先に娘のおでこを舐めてくれましたね。

1月

年が明けました。
昨年、私たちは命を迎え命を失いました。
ママは30数年生きてきて初めて間近にいた家族を喪う経験に、まだまだ涙していました。
一匹でいるあなたを見るのも辛かった。
パパはクローゼットがトラウマになってしまいました。
パパとママは誓いました。アーちゃんの分まであなたを幸せにすると。
パパはアーちゃんが亡くなってからあなたと一緒の部屋で眠っています。それは、あなたがさみしくないようにしているから。だから、朝方パパの頭皮に爪を立てて起こすのはやめましょう。パパの頭皮がピンチです。

2月

娘は3カ月になりました。少しずつ育児リズムに余裕が出てきたママは、最近仕事が忙しく帰りが遅くなってしまったパパの代わりに夜もあなたと遊んでいます。娘が寝た後の夜10時。ウキウキしたあなたとの鬼ごっこが愛おしくて楽しくて。
私たちは知っています。
あなたが娘に遠慮してくれていること。パパとママ、娘の相手をしていない方に、構ってくれと甘えること。娘が寝て、私たちを占領できる時間になると目をキラキラさせること。
私たちにとって、娘も、あなたも等しく、愛しい家族です。

シー、シーちゃん、シエンくん。
甲子園が由来の、私たちの家族。
時には子どもで、弟で、兄で、ペットで。
かけがえのないこ。

パパは最初、猫を飼うのを渋っていました。
実家で15年以上連れ添った愛猫との別れが辛かったからです。
ママは言いました。
「助けられる命があるなら助けたい」と。
でもね、シーちゃん。
ママは預かった命を喪うことがこんなに辛いとは思わなかったよ。
でもね、シーちゃん。
パパもママも、あなたとアーちゃんに会えてよかった。家族になれてよかった。
あなた達がいたから、ママはすんなり、娘にママだよと言えました。
あなた達がいたから、ママは前よりずっと、寛大でのんびりやになれました。
そして、あなた達がいてくれたから、私たちは、毎日楽しく過ごして来れました。

アーちゃんがいなくなってから、前よりずっと甘えん坊になったあなたに、毎日私たちは語りかけています。
だいすきよ、シーちゃん。
長生きしてね。
これからもずっと一緒だよ。



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mamel
書きたいことをつらつら書いています。好きな作家は須賀敦子さん。山本文緒さん。