坂本サトル『レモネードデイズ』レビュー。その恋は、甘酸っぱく、振り返れば、むせかえる程に甘かったーー
まめきちの 坂本サトル『レモネードデイズ』レビューです。
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レモネードのような日々。
瑞々しい2人の恋を振り返る。
坂本サトルさんの楽曲『レモネードデイズ』は、
初々しい恋の風景を描いており、青春の甘酸っぱさや切なさ、ほろ苦さがギュッとつまった、ファンの中でも人気の高い1曲です。
『レモネードデイズ』とは、坂本サトルさんの造語だそうです。
サトルさんはこの言葉について、
「レモネードのように、甘酸っぱい。だけど、過ぎてから思うとちょっと甘ったるい」
そんな意味を込めた、とのこと。
初出としては、JIGEER'S SON『海辺で暮らす君』の歌詞に、この言葉が登場します。(1998年アルバム【バランス】収録)
「迎えに行く自転車」というワードや、恋や愛について手探りに求めあっていたという描写から、この歌の主人公は、おそらくティーンネイジャーの頃、初々しくも未熟だった2人の、2度と戻れない日々を懐かしんでいることが伺えます。
少しまくしたてるように早口で歌うAメロは、振り返るとあっという間に過ぎ去っていた、青春時代のスピード感を表しているようです。
カーネーション棚谷氏がこだわった
打ち込みサウンド
特筆したいのが、アルバム【終わらない歌】に収録されている、原曲のサウンドメイクです。
冒頭イントロから、エコーの効いたシンセサイザーの荘厳な響きに、チリリ…といった、カセットテープやラジオ、電子音のようなノイズが重なります。
坂本サトルさんの楽曲としては珍しい、かなり作りこんだ打ち込みサウンドであることがわかります。
ボーカルにもリバーブがかかり、全体的にノスタルジーな雰囲気を醸し出しているように聞こえます。
もともと、坂本サトルさんが作成したデモテープでは、彼の持ち味であるバンドサウンドを生かしたアレンジで作られていたそうです。
しかし、プロデュースを担当した、カーネーション・棚谷祐一氏のたっての希望で、ループ素材を多用した打ち込みサウンドのアレンジになったということ。
なぜ、そこまで棚谷氏が打ち込みサウンドにこだわったのか。当時のサトルさんは納得がいかない部分もあり、棚谷氏と激論を交わしたそう。
しかし50代を迎えた今、サトルさんは、棚谷氏の意図がわかった、とも述べています。
センチメンタルとの決別
美しい思い出が大切な宝物に変わる
以下は筆者の所感です。
サビのフレーズとして歌中に2回登場する「水色のカーテンが春の風にやわらかく揺れた」という描写は、まるで懐かしいフィルムに焼き付いた映像のように、その情景を浮かびあがらせます。
若き2人の恋は、まるで映画のワンシーンのように美しく、主人公の記憶に留まっている。そんな風に感じます。
しかし、一方で主人公は、振り返ればこの頃は、レモネードのような日々=「むせかえるほど甘ったるい日々」であったと、思い出にどっぷり浸ることなく、少し引いた目線で客観視しています。
同様に、最後のサビで主人公は、「戻りたいとは思わないけど 2人で過ごした日々を僕はいつかきっと誇りに思うだろう」と述べ、当時の恋を引きずることなく、決別し、前に進もうとしていることがわかります。
私は、サトルさんの歌詞が、棚谷氏の手掛ける人工的でノスタルジーなサウンドに包み込まれることで、若き日の恋の思い出が、感傷に浸り過ぎることなく、心の中の大切な宝物として、昇華されているように感じられるのです。
この恋をいつか誇りに思う時がくる。
大切な思い出は、その後の人生でも拠り所となり、自身を一歩前に進めてくれる。
『レモネードデイズ』は、坂本サトルさんが30代前半のときに書き上げた曲ですが、
40代、50代、60代それぞれの年代で振り返ったとき、若き恋は、また違った情景が浮かび上がってくるのではないか。
そしてその時、坂本サトルがどんな歌声でこの歌を聞かせてくれるのか、楽しみな1曲なのでもあります。
『海辺で暮らす君』についてのレビューを書きました。
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