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JIGGER'S SON『海辺で暮らす君』レビュー/さよならレモネードデイズ

『レモネードデイズ』が生まれるきっかけとなった曲

5月の第1日曜日は、「レモネードの日」なんだそうで。

「レモネード」といえば、坂本サトルさんの素敵な楽曲『レモネードデイズ』があります。

「レモネードデイズ」とはサトルさんの造語で、
恋というものを飲み物に例えるなら、レモネードのように甘酸っぱくて、過ぎてみるとちょっと甘ったるい。そんな日々」という意味を込めた、とのこと。

実は、「レモネードデイズ」という言葉は、この曲以前に、JIGGER'S SONの楽曲の中で登場しています。
それが、JIGGER'S SONのアルバム『バランス』(’98年)に収録されている『海辺で暮らす君』

アルバム収録曲ですが、ファンの間でも人気の高い1曲で、2020年に行われたリクエスト(ジガーズサンの楽曲全94曲より「あなたがライブで聴きたい10曲」)では、見事上位となり、2022年のJIGGER'S SON 30th ライブ「30年後のぼくら」でも演奏されました。
(詳しい集計は2022年8月30日配信第32回「シューイチラジオ」アーカイブで聴けます)

『海辺で暮らす君』
作詞・作曲 坂本覚

そして空はやがて晴れ
この痛みもやがて消えるだろう
そして僕の中にいた
君をいつか思い出にしよう

過ぎて行った日々の中に
答えはあったはずなのに
あったのに
僕ら探せなかった

海辺で暮らす君をいつか訪ねたい
忘れた頃に僕は車をとばすよ
明け方波の音が静かに町を包む
僕らが失くしたもの本当はなんだったの

全てのものに
終わりがあることさえ忘れていたよ
だけど僕は凝りもせず
また新しい何かを探して
始めてゆくのだろう

確かに言える事なら
僕らは動き始めた
さよならレモネードデイズ
さよなら

きまぐれな神様よ 時だけが癒すなら
この時計の針をもっと早く進めてよ
海辺で暮らす君をいつか訪ねたい
忘れた頃に僕は車をとばすよ
明け方波の音が静かに君を包む
失くしたものがその時
わかるかも知れない

JIGGER’S SON『海辺で暮らす君』
(アルバム『バランス』(’98)収録)

『海辺で暮らす君』の歌詞世界

明るく疾走感あふれるアレンジとメロディーで、海辺のドライブ・ソングとして選びたくなる1曲。
一見爽やかな印象の曲ですが、意外や、歌われているのは、「海辺で暮らす君」との終わってしまった恋の、胸の痛みと後悔。
内省的で、バラードやブルースのような世界観が歌われています。

「そして空はやがて晴れ 
この痛みもやがて消えるだろう」

「過ぎて行った日々の中に 
答えはあったはずなのに あったのに 
僕ら探せなかった」

「僕らが失くしたもの本当はなんだったの」

冒頭、「♪そして空はやがて晴れ この痛みもやがて消えるだろう」というフレーズ。
「空は晴れ」「痛みは消える」とポジティブなワードが並んでいますが、どちらも「やがて」。
この歌の主人公のいまの状況(あるいは心境)は、曇り空か雨模様、まだ消えない痛みを抱えている状態ということがわかります。

特筆したいのは、「そして」という接続詞から歌詞が始まるところ。
主人公がいろいろ思いを巡らせた上で今の気持ちに至った、ということが想像でき、まるで文学や詩のように、歌詞の世界が広がっていきます。
曲が終わった後に「余韻」を残す曲、というのはよくありますが、
曲が始まる前の状況をリスナーに想像させ、これから起こることを「予感」させる歌詞が新鮮です。
サトルさんが、なぜ「そして」というフレーズから始めたかについては、ラジオでご自身の解説があったので、後述します。

1番では、終わってしまった恋に対し、後悔が滲む歌詞が綴られますが、
2番では、過去との決別を決意するような、前向きな言葉が歌われています。

「だけど僕は凝りもせず 
また新しい何かを探して
始めてゆくのだろう」

「確かに言える事なら 僕らは動き始めた
さよならレモネードデイズ」

「気まぐれな神様よ 時だけが癒すなら
この時計の針をもっと早く進めてよ」

「さよならレモネードデイズ」というフレーズが出てきます。
主人公が2人の関係性を振り返ったとき、甘酸っぱいきらめきとともに、多少の「甘ったるさ」も感じていたかと思うと、「心の整理」や「決別」への意思が、より強く感じられます。

1番のサビでは「♪明け方波の音が静かに”町”を包む」だった歌詞が、
最後のサビでは「♪明け方波の音が静かに”君”を包む」に変わっています。
「君」に対し、穏やかで幸せな日々を望む、主人公の思いが伝わります。
そんな風に、お互い穏やかな気持ちで会えるくらい時が過ぎた頃、忘れた頃に、車をとばして君に会いに行きたい。そのとき、2人が失ったものがわかるかもしれない。

主人公の、後悔の中にも「過去との決別」と「新たに前に進む決意」が感じられ、聞き終わった後は、気持ちが前向きになれるような、清々しい印象を残す曲です。

個人的には、後悔と前向きさが入り乱れた歌詞が、まさにドライブ中の思考をなぞっているようで、改めてドライブ・ソングにぴったりの1曲だなと思いました。

第30回シューイチラジオより(2022年8月16日配信)

坂本サトル公式ファンコミュニティ「サトル部」限定で配信されるラジオ番組「シューイチラジオ」。
2022年8月16日配信回で、『海辺で暮らす君』の楽曲解説が放送されました。
(…が、私はコードやキーについての知識が全くなく、正直なところあまり理解できませんでした。
以下、理解をしないまま、サトルさんのお話をまとめていますので、間違いがあるかもしれません。ご了承ください。)

前述した、なぜ冒頭「そして」というフレーズから始めようと思ったかについて、本人の解説によると、

・前提として、ジガーズサンの楽曲はほとんどが曲先であり、曲に対して歌詞を充てている。
・この曲はコードがDで、イントロもエレキギターの奏でるDコードのストロークから始まるが、AメロはAのキーから始まる。それがBメロっぽいので、歌詞も曲に合わせて、「そして」という、途中から始まるようなフレーズを冒頭に充てた。

とのことです。(お分かりいただけたでしょうか)

このほかの聴き所としては、

・2番には1番同様のBメロが出てこない。そのまま間奏にいき、ギターソロ用のコードを新たに考えているところがポイント
・レコーディング当時は低い音程が良い声で歌えなかった。いまは下にも上にも声域が広がっていて、現在の歌の方が絶対に良い。年齢を重ねて衰えることばかりじゃない。歌い方がだんだんわかってくる。

とのことです。

内省的な歌詞に対して、バンドのプレイとアレンジ、ボーカルが明るく前向きな印象で、そのギャップもまた、この歌が心に残る要因なのかなと思いました。

Credit
作詞・作曲 坂本 覚
編曲 JIGGER'S SON&土方隆行

坂本覚  Vocal,A.Guitar,E.Guitar,Synthesizer
渡辺洋一 E.Guitar
坂本昌人 Bass
鈴木慎也 Drums
土方隆行 E.Guitar
柴田俊文 Acoustic Piano
Produced by JIGGER’S SON&土方隆行
recorded & mixed by 坂本充弘

アルバム『バランス』について

JIGGER’S SONの7枚目のオリジナルアルバム『バランス』(’98年)。
バンドと土方隆行氏との共同プロデュース。土方氏は前作『素敵な日々』からの続投ですが、今作ではアドバイザー的な役割を担い、主にJIGGER'S SONの意向が大きく反映された作品になっているとのことです。『海辺で暮らす君』はアルバム5曲目に収録。サブスクで聴けます。

ベストアルバム『orange』

『海辺で暮らす君』は、’99年8月に発売されたコロムビア&トライアド時代のベストアルバムにも収録されています。このアルバムはもう1枚のベスト『apple』と対になって発売されており、『apple』は「バンドサウンドが炸裂する1枚」、『orange』は「JIGGER’S SONのポップさとノスタルジーが堪能できる1枚」とのこと。サブスクで聴けます。


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