※「素敵な日々」発表時、坂本サトルさんは「坂本覚」という表記でしたので、インタビューの引用などは「覚」、地の文では「サトル」と表記しています。
ファン投票では「大丈夫」に次いで2位に輝いた人気曲
『素敵な日々』は、1997年3月21日にリリースされたJIGGER'S SON(以下、ジガーズサンと表記)の6枚目のアルバムタイトルであり、アルバムの1曲目に収録されているリードトラックです。
アルバム発売から2ヶ月後の5月21日にはシングルカットされ、バンドの11枚目のシングルとなりました。
2020年に予定されていた「JIGGER'S SON LIVE 2020 『BEST HIT JSS』」(※1)では、JIGGER'S SON曲の人気投票が行われ、
「素敵な日々」は、「大丈夫」に次いで堂々の2位を獲得(※2)。
名実ともに、ジガーズサンの代表曲としてファンに愛されている楽曲です。
※1 新型コロナウイルスの影響で中止となり、配信ライブ「おなじ空の下」に変更されて開催。
なおこの時の投票結果は、2022年のライブ「30th Anniversary
JIGGER’S SON Live 2022『30年後のぼくら 』」のセットリストにて反映されました。
※2 人気投票の結果は、坂本サトルオフィシャルファンクラブ「サトル部」で配信された第32回シューイチラジオ(2022年8月30日配信)で発表。
事務所やレーベルの移籍、音楽制作の環境や方法が変化した中で生まれた「素敵な日々」
事務所・レーベル移籍後初のアルバム曲として制作
1996年、ジガーズサンは所属事務所を移籍し、コロムビア・レコード内でもレーベルを移籍。
アルバム『素敵な日々』は、バンドを取り巻くスタッフや環境が変わり、新体制で制作されたアルバムでした。
当時のインタビューによると、
「移籍によってスタッフに全幅の信頼を寄せられる環境となり、バンドの曲作りを見つめ直すことができた。その結果、楽曲制作にも大きな変化があった」と、サトルさんは述べています。
これまでの作品と比べ、アルバム『素敵な日々』の制作は、以下の点がエポックメイキングであったとのこと。
①ジガーズサンがギターバンドであることに立ち返り、アルバム全曲をアコースティックギターで作曲。
また、それまでのデモ音源は、サトルさんがほぼ完成形まで作りこんでいたが、今作では最小限のアレンジにとどめ、メンバーでアイディアを出し合いながら曲を完成させた。
②前々作、前作とセルフプロデュースでアルバムを制作していたが、ギタリストの土方隆行氏を招き、信頼のおけるプロデューサーと合作した。
③作詞においては曲と同時に出てきたフレーズを活かし、編曲においては曲ができた初期衝動を薄めないアレンジを心掛けるなど、歌が生まれたときのインパクトを維持したまま完成することを意識した。
以下、インタビューを引用しながら詳しく述べていきます。
①アコギで作曲&ラフなデモ音源
今でこそ、「坂本サトル=アコースティックギター弾き語り」というイメージがありますが、バンド初期には、シーケンサーやキーボードで曲作りをしていたこともあったとのこと。
その頃は、曲の最終的な完成形を見据えながら、サトルさん一人で打ち込みをして作曲していたのではないかと思われます。
アルバム『素敵な日々』の制作では、作曲をアコースティックギターに変えたことで、量・質ともに納得のいく楽曲を作ることができ、サトルさんにとても合ったやり方を見つけられた、それはとても大きな出来事であったと、インタビューで述べています。
なおかつ、アコギ1本で作曲することで曲の強度が高まり、どんなアレンジにも耐えうる曲が出来上がっていったとのこと。
それまでは、サトルさんがほぼ完成形までデモ音源を仕上げ、それをバンドメンバーで再現するようなやり方だったそうですが、本作では、デモ音源はラフに仕上げ、メンバーと一緒にアレンジして曲を作り上げるという、バンド本来の姿に戻っていったとのこと。
「素敵な日々」で得られた制作スタイルは、それまで迷いがあったバンドの方向性を固め、バンドとしての結束がより強固となり自信もついた、と述べており、このアルバムの楽曲制作が、ジガーズサンにとって大きなターニングポイントだったことが伺えます。
②ギタリスト土方隆行さんとの共同プロデュース
ジガーズサンは、デビュー作「自画自賛。~大切な君だから」(1992年)から、「おなじ空の下で」(1992年)「幸せになりたい。」(1993年)までの3作品を、キーボーディスト守時龍巳さんをサウンドプロデューサーに迎え制作。
続く「JIGGER'S SON」(1994年)、「あなたの味方」(1995年)の2作品をセルフプロデュースでリリース。
アルバム『素敵な日々』では、バンドのキャリアとして初めて、ギタリストをプロデューサーに迎え、ジガーズサンとの共同プロデュースで制作されました。
土方隆行さんを迎えたことについては、サトルさんやバンドからのご指名ではなかったそうですが、とても相性の良いプロデューサーだったようで、楽曲制作の上で大きな支えとなったようです。
ギターバンドの持ち味を活かし、シンプルで力強く、バンドの温かみが滲みでるアレンジは、現在のジガーズサンにも繋がるサウンドメイクであり、土方さんのプロデュースによって、ジガーズサンの目指すバンドスタイルが固まったのではないかと思われます。
ジガーズサン・ヒストリーにおいて重要人物の土方隆行さん。
土方さんは、次作のアルバム「バランス」(1998年)でも共同プロデュースとして参加されています。
③曲と同時に生まれたフレーズを活かし、最初から最後までハッピーな気持ちを維持して作詞
「素敵な日々」の作詞も、サトルさんにとって、とても革命的であったと当時のインタビューで述べています。
まず1つ目は、
「曲と同時に出てきたフレーズをそのまま活かして作詞をする」ということ。
サトルさんは現在でも、「曲と詞が同時に出てきた歌はとても良いものになる」と仰っています。
それまでは、日本語のイントネーションや、助詞が与える言葉の意味や印象など細かい部分までこだわって作詞をしていたそうですが、今作に関しては、いったん目をつぶり、曲と詞が生まれた初期衝動を薄めないように意識しながら作り上げていった、とのこと。
楽曲が生まれた瞬間のインパクトを維持したまま曲を完成したことによって、「素敵な日々」は、詞・曲ともに生き生きとした魅力と力強さを備えた、エネルギッシュな1曲となっています。
そして2つ目は、
「素敵な日々」では、曲と同時に出てきた冒頭のフレーズ
「♪あなたに会って初めて本当の恋をした
世界が変わるとても素敵な日々」
という歌詞の持つ幸福感を、最後まで維持することを目指したこと。
今までは、「歌詞の中に必ずブルーな要素を入れていた。その方が共感性も高いから」と、最初から最後までハッピーな世界観を持続したまま詞を書きあげるのは、サトルさんにとってもチャレンジであったとのこと。
そうして出来上がった歌詞は、
「ハッピーの裏側にある悲しさもチラチラ見え隠れするようになった。
盲目的に、何も知らずに『素敵だ』と言っているんじゃなく、いろいろあってたどり着いた「素敵さ」があるんじゃないかと思った」
と、ただただ明るい言葉を薄っぺらく並べただけではない、
人生の深みを帯びた歌詞世界を表現することができたと述べています。
サトルさんにとって、作詞においても、自身のステップアップの手応えが感じられる歌詞となったようです。
枡野浩一さんによるジガーズサン評
少し話が横道に逸れますが、上記「R&R NEWS MAKER」のインタビュアーの枡野浩一さんは、現在は歌人として活躍されていらっしゃいます。
「R&R NEWS MAKER」1997年4月号掲載のインタビューの中で、枡野さんはジガーズサンのことをとても好意的に応援してくださっており、以下のジガーズサン評は、サトルさんやジガーズサンのことをとても的確に表した素晴らしいコメントだなと嬉しくなりました。
以下に引用して紹介します。
「素敵な日々」は永遠に続かないから愛おしい
以下、「素敵な日々」に対する私の個人的な所感です。
サトルさんの表現するパートナー観
サトルさんはラジオなどで、「素敵な日々」の以下の歌詞がとても気に入っているとお話されています。
愛する人を「どこかで待っていた 失くした片方の靴」と例える歌詞は、
映画「君の名は」(2016年・新海誠監督)を彷彿させる、赤い糸で結ばれた運命の人、自分の片割れにやっと出会えた、そんな気持ちの高まりを表現しているようです。
また個人的に、「失くした片方の靴」という歌詞の持つ意味合いとして、「運命の人に出会えた」ということのほかに、2つ揃って初めて本来の姿になるという、「自分の欠けた部分をやっと見つけられた」「不足していたものを埋められた」という喜びも含まれているように感じました。
サトルさんの楽曲では、ソロ1stアルバムに収録の「Yellow」に出てくる以下のフレーズに近いのかな?、と思いました。
サトルさんの理想とする恋愛観やパートナーシップは、お互いを補い合うような、相補性を大事にした関係なのかな、と考えました。
「素敵な日々」の切なさと愛おしさ
シンガーソングライターで作詞家・作曲家の多田慎也さんは、以前「坂本サトルミリオンレディオ」(エフエム青森)で、ジガーズサンのシングル曲の中で「この曲だけ陽キャ」と、評していらっしゃいました。
そのくらい、「素敵な日々」のポジティブな歌詞はインパクトがあり、従来のジガーズサンの楽曲とは一線を画す魅力を放っているのだと思います。
上述したように、この曲はサトルさんが初めて「最初から最後までハッピーを持続できた歌」であり、その歌詞は、徹頭徹尾すべてがハッピーでありながら、なぜか泣きたくなるような切なさを内包しているようでもあります。
「素敵な日々」は、人生の本当にすばらしい幸福な時間を4分30秒に閉じ込めた、すてきな楽曲だなと思います。
突き抜けた幸せの歌のはずなのに、胸をきゅっと締め付けるような何かがあるのは、人生を重ねるうちに、「幸せな時間は永遠に続かない」と気がついているからなのかな、と思いました。
だからこそ、有頂天な瞬間こそが人生の尊さであり、「幸せな瞬間」「素敵な日々」がとても愛おしく、この歌がリスナーに寄り添い、力をくれる一因なのかなと思いました。
昨年のジガーズサンのライブは、渡辺洋一さんがご病気で欠席となり、漠然とずっと続く、ずっとできると思っていたものが、実はそうではなかったのだな、という状況と、少し重なりました。
「素敵な日々」をいつまでもいつまでもライブで楽しめることを祈りながら、今年こそ、バンドのフルメンバー4人が揃った2024のジガーズサンライブを楽しみに待ちたいと思います。
JIGGER'S SON LIVE2024 「ローリング&タンブリング2」開催!
1年に1度のIGGER'S SONライブ。
2024年も、バンド結成の地・仙台で開催されます。
今年はなんと、開催1カ月前にチケット完売!
昨年は渡辺さんがご病気のため残念ながら不在となりましたが、
今年は、メンバー全員+佐藤達哉さんのフルメンバーが揃ったライブを見られること、楽しみにしています!!
JIGGER'S SON LIVE2023「ローリング&タンブリング」
2023年のライブ配信アーカイブ。「素敵な日々」も歌っています。(2024/07/18現在は非公開)
■JIGGER'S SON LIVE2023のライブレポです。
■JIGGER'S SON LIVE2022のライブレポです。