2022年12月16日 伊東洋平コンサート『Refrain!』@電力ホール ライブレポート
伊東洋平さんの2022年の集大成ライブ
’21年12月、5年越しの夢であった仙台サンプラザホールでのライブを実現した、仙台在住のシンガーソングライター伊東洋平さん。
その約1年後となるこの日、仙台・電力ホールで行われたライブは、洋平さんが次のステップへと扉を開けた1年間の集大成を披露する、とても大切なステージでした。
会場の電力ホールは、仙台の一番町という繁華街にあり、1000人収容の規模を誇る老舗のホール。そして、’14年5月30日、洋平さんが所属していた2人組ユニット「イケメン′ズ」の解散ライブが行われた場所。
筆者もそのライブを観覧しましたが、チケットソールドアウトの超満員のなか、惜しまれつつも大盛況のライブでイケメン’ズの最後を飾ったこの会場は、ファンにとっても、そのときの思いが去来する大切な場所です。ふたたび洋平さんがこのステージに帰ってくるということに、大変感慨深い思いがありました。
今回の編成は、キーボード佐藤達哉 さん、ギター芳賀義彦 さん(ヨティさん)、パーカッション曽根未宇司 さん(Miujiさん)、 パーカッション&コーラス安部優莉奈さん。そして、ヴァイオリンの鹿嶋静さんが参加予定だったところ、新型ウィルス感染のため残念ながら出演不可能となり、仙台在住のキーボーディスト・くどうあかりさんが代打を担うこととなりました。
当日は、洋平さんがステージをいっぱい使って、のびのびと歌われていて、とても楽しく、光が満ちるような明るいライブ空間でした。
会場の音響がすばらしく、洋平さんの歌声がのびやかにホールに響いて、とても気持ちよかったです。肩肘張らず楽しそうに歌う洋平さんを見ていると、こちらも自然と笑顔になって、電力ホールという大舞台で、洋平さんらしいライブをやり遂げられていたことにとても感動しました。
坂本サトルさん、幹さんといった親交の深いアーティストや、合唱団の子供たち、ダンサーの皆さんとのセッションもあり、洋平さんの今年1年の音楽活動としてはもちろん、人間活動としての集大成のステージでもあったのかなと感じました。
ライブレポート
※以下の文章は、ライブのネタバレ・曲目が含まれます。
このライブは配信の予定もあるとのことですので、読まれる方は、ネタバレをご了承のうえお読みください。
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会場は、感染症対策のための空席を設けつつ、目標席数はソールドアウト。観客は小さな子どもからご高齢の方まで幅広く、洋平さんの音楽や人柄の魅力を物語っています。
バンドメンバーと洋平さんが登場。
「(感染症対策のため)声が出せないとしても、いっぱい気持ちをください!」という洋平さんのMCに、観客は大きな拍手で応えます。
カホンのビートにメンバーの音色が重なって、いよいよ始まるんだという高揚感が高まる中、1曲目『Door』からスタート。「♪今未来へ 開けるんだ 開けるんだドアを」というサビをはじめ、すべてのフレーズがこのライブへの意気込みにリンクする、開幕にふさわしい1曲です。達哉さんが立ち上がって鍵盤を奏でるなど、バンドメンバーも冒頭から熱のある演奏で会場を盛り上げ、この曲に欠かせないストリングスのフレーズは、あかりさんがキーボードで演奏しました。
続く『リボン』では、「♪君と出逢えて良かった だからここまでこれた」の部分を、洋平さんがステージ前方に出て、マイクなしの生声で歌唱。マイクなしと言えば、仙台サンプラザホールでの『歩み』を彷彿とさせますが、2曲目から惜しげもなく披露する生歌に、前回のライブを軽々超えて見せると言わんばかりの、洋平さんの自信と心意気を感じました。
ステージの中央と左右の3か所には、少し高い台が設置されており、この『リボン』の生歌をはじめ、ここぞという時に洋平さんが台の上に乗って歌っていました。
『ありがとう』は、合唱隊の子どもたちとの合唱アレンジで。子どたちはマスクをしてステージに登場。この曲も「♪ありがとう~」の1フレーズを生歌で披露しました。
『大空Refresh!』はダンサー4名とともに。洋平さんもちょっと踊ったりしながら、ここまで4曲一気に駆け抜け、会場をヒートアップさせます。
MCでは「俺のこと愛してますかー!?」と叫んだり、前日は雪がちらつくほど冷え込んだ仙台の様子から、山下達郎『クリスマス・イブ』のモノマネを挟んだりと、この日のステージを気負わずに目いっぱい楽しんでいるなと感じさせる洋平さん。
観客が着席し、5曲目は『ミルクキャンディ』。イケメン’ズの最後のシングル『約束のメロディ』(’13年)のカップリング曲で、個人的にイケメン’ズの楽曲の中で一番好きな曲だったので、この選曲はうれしかったです。洋平さんのロングトーンがのびやかにホールに響いて、とても気持ち良かった。
6曲目『Kasumi』。達哉さんのピアノとパーカッションのアレンジが素敵で、しっとりとした大人のラブソングの雰囲気を醸し出していました。
今回のセットリストは「元気を届ける」というテーマで決めていったそうですが、テーマから逸れるとしても「どうしてもこの曲だけはやりたい」と選曲したというインスト曲『暁(あかつき)』。「演奏からいろいろ受け取ってもらいたい」と話す洋平さん。赤を基調とした照明の中、観客の内面に訴えかけるような演奏が心を揺さぶります。ヨティさんのエレキギターがエモーショナルな感情を掻き立てました。
次曲『TKDB』では雰囲気ががらりと変わり、イントロにのせて「おいら、電力ホール8年ぶりで…」と洋平さんの漫談のようなちょっと長めのMC。ユーモラスな話し方で巧妙にカモフラージュしつつ(という風に筆者は感じました)、実は8年前のイケメン’ズの解散時、この場所でライブをやった時には不安に飲み込まれそうだったという思いを吐露し、「ここに笑顔で帰ってこれたことがうれしい」と、この曲になぞらえて、電力ホールでライブをやる意味をお話しされていました。
続いて、洋平さんのライブではおそらく初となるメドレー。CMソングを中心に、イケメン’ズ時代の曲も含めてちょっとずつ6曲を披露。光のページェントのテーマソングになっていた『キラキラ』など、懐かしかったです。
バンドメンバーが退場し、ゲストパーカッション菊地英樹さんが登場。あかりさん、英樹さん、洋平さんの3人で演奏したのは『HOME』。仙台メンバーで演奏する『HOME』はまさにホームグラウンドのようなホットな雰囲気で、観客の手拍子も温かでした。英樹さんの演奏、熱かったです。
洋平さん1人となりギター弾き語りで『ブラシカ』。弾き語りだと、洋平さんの声量が際立ち、圧倒されます。この曲もロングトーンが気持ちよくホールに響いて、素敵でした。
ここで、ゲストミュージシャンの幹さん登場。『雪とキミ 芽吹く莟』は、幹さんの透き通る美しい歌声と洋平さんのハーモニーが春の息吹のようにさわやかで、すばらしかったです。
続いてのゲストミュージシャンは、我らが坂本サトルさん。
色鮮やかなタイダイ染めのシャツをさらりと着こなし、電力ホールの広いステージに華やかな存在感を刻みます。かっこいい!
洋平さんの楽曲のプロデュースを多数手がけるサトルさんは、「(メドレーを聞いて)あの時大変だったっていう思い出が蘇ってきた」「あなたたちの大好きな洋平さんは明日までに仕上げろとか言う!」と洋平さんをたじろがせつつ(でもファンはふたりのこういう関係性が好き)、会場を大いに盛り上げました。サトルさんのギターと達哉さんのピアノ、Miujiさんのパーカッションで、サトルさんの名曲『コーンスープ』を披露。1番はサトルさん、2番は洋平さんが歌い、サビはふたりのハモリという貴重な歌声に、会場はうっとりと魅了されました。最後に「がんばってね」と洋平さんに声をかけステージを去るサトルさんの背中が、最高にかっこ良かったです。
続く『小エビサンドにのって』では、ELAの生徒たちが登場し、英語でスピーチ。観客もスタンディングし、楽しいダンスで会場一体となって盛り上がります。
『君へ逢いに行く』でもダンサーたちとともに演奏。「♪走りだせ~」という疾走感のあるフレーズと相まって、会場の熱はどんどん高まります。
続くロックナンバー『逃ゲテモ負ケテモ』で会場のボルテージは最高潮に。色とりどりの照明がかっこよく、ステージ上の台の上でギターを鳴らすヨティさんと洋平さんに、観客も大きな手拍子・拍手で応戦。
ステージが少し一段落したところで、手話で歌うサインボーカリスト穀田千賀子さんと、合唱団の子どもたちが登場。
「歌を歌いながらみんなと過ごす時間が好き」
「音楽を通じて、手を取り合って分かり合うことが大事」
「悲しみや涙を、音楽を続ける限り忘れないでいきたい」
そんなMCのあとに歌われた『優しさの色の歌』は、合唱団のハーモニーと洋平さんの歌声が重なり、会場は慈しみに満ちたやさしさに包まれました。
あっという間に本編最後の曲となり、新曲『Refrain!』が初披露。仙台を代表する新聞・河北新報の事業である「河北新報オンライン」のテーマ曲として、CMでは一部公開されていましたが、フルコーラスのお披露目はこの日が初めて。
「悩んでも、何回でも繰り返して始めていい」
「同じところをぐるぐる回って、それでも少しずつ上にのぼっていけたら」
アップテンポの心が弾むナンバーで、悩みながらも前進していった洋平さんのこの1年を彷彿させるような歌詞が、ライブへの思いと重なります。
『Refrain!』は、’23年1月18日にCDリリースが決定したことも告知されました。
会場の大きな拍手に応えたアンコールでは、メンバー全員がYoheiTシャツで登場。冬空に煌めく星々をオーケストラに見立てたワルツ『星空のオーケストラ』は、この季節にぴったりで、星のまたたきを思わせる照明の演出も素敵でした。「(この曲で)鹿嶋静さんのヴァイオリンを聴きたかった」という、静さんに思いを寄せる洋平さんの一言にもグッときました。
ダンサーたちがステージに集合し、会場も楽しく踊りながら『イモ天Sunday♪』。洋平さんが客席におりてきて、縦横無尽に走り回りながら観客と肘タッチ。観客にとことん楽しんでもらいたいという洋平さんの思いが伝わります。
ここで、本日の出演者との写真撮影が行われ、ステージを埋め尽くすほどのたくさんの出演メンバーが一堂に会し記念撮影。
オーラスの『TSUBASA』では、バンドメンバーに加え、坂本サトルさんも参加し洋平さんとセッション。
「♪ぼくはずっと何度でも あきらめを希望に変える」
「♪ぼくらは悲しみを超えていく 翼をもっているから」
洋平さんが常に歌で発信し続ける、前を向いて進んでいこうというメッセージが、まっすぐに心に伝わってきました。
大団円で幕を閉じた電力ホールのライブ。
5年越しの夢だった仙台サンプラザのライブが叶い、全力を尽くした後、どうすればいいのか悩んだという洋平さん。
MCでは、自分が音楽を続けていく意味を再確認するかのようなお話を多く語られていた気がしました。
主催したイベント「SENDAIアンサンブル」や様々なライブで、先輩方や各地のミュージシャン、イベントに携わった方々との交流を通し、
「こうやって悩むのは自分だけじゃなかった」
「悩みながら、何度でも始めて進んでいけばいいんだ」
という心境に至ったそうです。
この日のステージの成功は、最後に洋平さんがお話された、
「仙台サンプラザライブ以上の喜びがあった」という、晴れやかなひと言につきると思いました。
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この日のライブは、大変すばらしい音響のもと、歌声と演奏を楽しめたことも、特筆しておきたいと思います。
PAのメインスタッフを担当されたのは、サトルさんが厚い信頼を寄せる音響エンジニア・長根雄之氏(Sound Create)。今回のライブは、ベースレスのバンド編成となっており、こういったケースは、音響スタッフの技術・手腕が大変重要なのだそうです。長根さんのご活躍が、ライブを成功に導いた大きな一要因となっていたとのことでした。
音響のほかにも、照明や制作の方々など、ライブに関わるすべてのスタッフの方々の尽力によって、この素晴らしい一夜の空間が作られたということに思いを馳せながら、ライブの感動を味わいたいと思いました。
セットリスト
伊東洋平さんのライブ直前インタビュー(坂本サトル『ひとりの時間。』より)
’22年12月12日、坂本サトルさんのラジオ番組『ひとりの時間。』(tbc東北放送)で放送された、サトルさんから洋平さんへのインタビュー。
電力ホールライブ直前の伊東洋平さんの心の内を伺うことができました。
音楽業界の大先輩であり、洋平さんをサポートし続けてきたサトルさんだからこそ引き出せた、洋平さんのライブにかける思い。
’21年の仙台サンプラザライブを経て、この1年間にどんな気持ちの変化があったのか。電力ホールライブはどのような位置付けだったのか。
洋平さんの心情を知ることで、よりこのライブの意義を感じることができると思います。