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坂本サトル『夜空に咲いた花』(2004年)のこと

夜空に咲いた花
words & music 坂本サトル

愛しい人よ 僕の手を握り 
連れていってくれた
あの日あなたと見上げた夜空は
今も変わらぬまま

打ち上げられた夢
みとれてた僕は
人混みの中であなたを失った

あなたが生まれたこの街の
巡り来る季節に身を委ねて
僕は生きている

あなたを探すこの物語は
終わることなく
僕のこの手の届かないところで
世界が回り続けても

あなたが生まれたこの街の
巡り来る季節に身を委ねて
あなたと出会えたこの街で
もう一度奇跡が起こる夜が

やがてスタートの合図で空に咲く花
ただ会いたくて

あなたは好きだと言ってくれた
この僕に生きていく意味をくれた

あなたもどこかでこの夜空に
咲く花を見上げているのだろう

あなたが生まれたこの街で
あなたと出会えたこの街で
夜空に咲いた花

坂本サトル『夜空に咲いた花』

【収録曲】
M01. 夜空に咲いた花
M02. 霧雨 (2004年気分)
M03. 夜空に咲いた花 (Instrumental)

ソロ7枚目のシングル。仙台七夕の前夜祭として開催されている仙台花火祭のテーマソングとして書き下ろし。2003年から2013年までの11年間、カウントダウンライブで花火スタート前に歌われた。当時の全国有線チャートで14位を記録。カップリング曲としてセカンドアルバムに収録され人気の高かった「霧雨」のニューアレンジバージョンを収録。
LAPLAND / LLCS-7 / 2004年7月7日 / ¥500(新価格)

坂本商店 web Market
『夜空に咲いた花』紹介文より

「仙台七夕花火祭り」のテーマソングとして制作された曲

「青森ねぶた祭」「秋田竿灯まつり」と並んで、東北三大祭りとして知られる「仙台七夕まつり」(8月6日~8月8日)。
その前日の8月5日は、毎年、前夜祭として、仙台市中心部で大規模な花火祭りが行われます。
坂本サトルさんのソロ7枚目のシングル『夜空に咲いた花』は、「七夕花火祭り」のテーマソングとして、2003年に制作された曲。
翌年の2004年7月7日にシングルリリースされました。

サトルさんは、このテーマソング制作をきっかけに、2003年から2013年までの11年間、「七夕花火祭り」点火式のカウントダウンを務めました。
仙台立町の横断歩道橋の上で、サトルさんが『夜空に咲いた花』を歌い上げ、カウントダウンと同時に花火が打ちあがる様子を、馴染み深い思い出として記憶している仙台市民の方も多いのではないでしょうか。

地元への思いと鎮魂への祈り

『夜空に咲いた花』の歌詞の特長は、「七夕」×「花火」という、仙台ならではのテーマの組み合わせで作られているところだと思います。
七夕といえば、1年に一度だけ離れ離れになった2人が再会を果たす、そんな奇跡を願う日。
そして、過去に愛しい人と訪れた、花火祭りの思い出。
その2つが交差した、切なくドラマチックな歌詞世界を描いています。

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「あなたが生まれたこの街の
巡り来る季節に身を委ねて
僕は生きている」

「あなたが生まれたこの街の
巡り来る季節に身を委ねて
あなたと出会えたこの街で
もう一度奇跡が起こる夜が」

「あなたが生まれたこの街で
あなたと出会えたこの街で」

2011年の東日本大震災以降、とりわけ「花火祭り」において、「鎮魂」という意味合いが注目されるようになりました。

この曲が制作されたのは2003年ですが、サトルさんが歌詞にちりばめた、
「地元の花火祭りの思い出」
「離れてしまった愛しい人に、もう一度会いたいという願い」
「喪失を抱えながらも地元に暮らし続ける者の思い」
――。

こうしたリリックは、震災後の仙台に暮らす人々にとって、
自身の抱える思いと重なった方が、とても多かったのではないかと思います。
震災後、この歌から立ち上がる情景や伝わる印象が変わったように感じた1曲でした。

サトルさんの歌詞世界に対する個人的な思い出

2012年当時、仙台のタウン情報誌を発行する会社で働いていた私は、
JIGGER'S SON『バトン』(2012年発売)のキャンペーンで仙台を訪れていたサトルさんに、インタビューをさせていただく機会がありました。

震災の翌年ということもあり、『バトン』EPに収録されている『大丈夫』(2012ver.)が、震災前と震災後で聞こえ方が変わったという話になりました。(その時のお話しは、こちらにも詳しく掲載しています)
その話の流れで、私はサトルさんに、
「個人的に、『夜空に咲いた花』も、震災前と震災後で聞こえ方が変わった。『夜空に咲いた花』は、学生時代の淡い恋愛の思い出のような、いわゆる恋人との別れを描いた歌詞だと思っていたけれど、震災後は、もっと大事な人との別れを書いた歌詞のように聞こえてきた」
と伝えました。
そうしたところ、サトルさんが「実はね」と、お話ししてくれたことがありました。

(「もちろん曲のとらえ方はそれぞれ自由で構わない」という前提で)
「あの曲は、亡くなった親のことをイメージして書いた歌。
幼い頃に親と一緒に見に行った花火祭りを思い出して、ついその面影を探してしまう、というイメージ」

「”あなたを探すこの物語は 終わることなく”という歌詞は、探す相手が亡くなっているから終わらない(見つからない)ということ」
とお話ししてくださいました。

このお話しを聞いた時、『夜空に咲いた花』に描かれている情景が、輪郭がくっきり表れたように、ひとつの物語として鮮やかに心の中に浮かび上がってきて、サトルさんの楽曲の歌詞の緻密さ、イメージの奥深さにとても感銘を受けました。
このサトルさんのお話しがきっかけとなり、サトルさんの楽曲をもっと深く、もっと掘り下げて聞いてみたいと思うようになりました。

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いまでも『夜空に咲いた花』を聴くと、
身体で感じる花火の重低音、風で流れてくる煙の香り、熱帯夜の湿気を帯びた空気、大人でもはぐれそうになるほどの人混みなど、仙台花火祭りのさまざまな思い出が蘇ってきます。
そして現在、自分が親として子どもと一緒に花火を見る立場となり、「子どもは私と見た花火のことを覚えていてくれるのだろうか」という思いが胸をよぎるなど、この曲の聞こえ方がさらに違ってきたように感じます。

花火祭りが行われる真夏のこの時期に、毎年聴きたくなる1曲です。

『夜空に咲いた花』収録CD

■クレジット

words & music 坂本サトル
produced by 坂本サトル
recorded by 伊藤 隆文 & 坂本サトル
mixed by 伊藤 隆文
坂本サトル:vocal、chorus、guitars、tambourine、programming
矢吹 正則:drums
坂本 昌人:bass
佐藤 達也:piano、organ solo

①シングル『夜空に咲いた花』(宮城県限定版)

通常版に収録された楽曲のほか、地元のゴスペルグループを迎えて収録された「仙台花火祭version」も収録。カップリングの『霧雨』もすごく素敵な曲なので、ぜひCDを購入して聞いてほしい。

②シングル『夜空に咲いた花』(通常盤)

こちらは通常盤。上記の宮城限定盤もそうですが、ジャケットのイラストはサトルさんが描いたものです。

③Singles1999-2006

2007年に発売されたサトルさんのソロシングル集。『夜空に咲いた花』は11曲目に収録。サブスクで聴くことができます。

2007年当時のサトルさんによる『夜空に咲いた花』ライナーノート

④坂本サトル / LIVE caravan 2『Tour にぎやかな人々』

ライブアルバム収録のライブバージョンが聞けます。古川昌義さんのギターで演奏が楽しめるのは貴重です。

【Band member】
坂本サトル:vocal、guitar
古川昌義:guitar
佐藤達哉:keyboard
坂本昌人:bass
矢吹正則:drums

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