隠れた名曲!坂本サトル「8年間」の好きなところ10
坂本サトル「8年間」の好きなところを10個書く!
「8年間」とは…
2005年6月8日に発売された坂本サトルさんのソロ4枚目のアルバム「蒼い岸に立つ」の1曲目に収録されている、アルバムのリード曲です。
自分の過去のツイートを見返していたら、こんなことをつぶやいていました。
この日(2023年4月1日)、弘前市にあるライブハウス&パブ Robbin's Nestのオーナーで、バンドcreepsのベーシスト・成田翔一さんがDJを務めるラジオ番組「what’s the craic!」(アップルウェーブ)に、坂本サトルさんがゲスト出演されて、成田さんがサトルさんの好きな曲として「8年間」を選んでオンエアしてくださいました。
それを受けてのツイートです。もう1年以上前ですが。
4月1日のツイートなのでウソっぽいですが、時間も午後8時58分なので、たぶんウソじゃないと思います。
ということで、「8年間」の好きなところを本当に10個書いてみようかな、と思い立ちました。
①「離婚して子供に会えない寂しさ」という歌詞の切り口の独創性
最初から言い訳で恐縮ですが、このアルバムが発売されたのは2005年。
私がサトルさんの音楽を聴くようになったのは2007年ごろからで、アルバム発売当時はリアルタイムのファンではありませんでした。
ですので、当時サトルさんが離婚していたとか、それを公表していたのか非公表にしていたのかなどはまったく存じ上げず、なおかつ私がこのアルバムを聞いたのが2012年ごろと遅ればせながらで、当時のリアルタイムのファンやリスナーの方とは、歌の受け取り方が少々異なるかもしれません。
ということを踏まえて、歌詞を読んでもらうとわかるとおり、この歌は、
「離婚して離れ離れになった子供と会えない寂しさ」を歌っています。
アルバム「蒼い岸に立つ」のセルフライナーノートでは、「8年間」のテーマについて、
という一言にとどめており、自身のプライベートについて多くは語っていなかったのかなと思っていました。
しかし、音楽ライター角野恵津子さんによる「蒼い岸に立つ」インタビュー記事(2005年)を読むと、
「聴かれた方はすでに御存知のように、いきなりのっけに登場するのは、離婚し、離れて暮らす子供への思いを歌った歌である。」との記載があり、この曲はサトルさん自身の経験を書いたものであるという共通認識が当時もあったのかな?と思いました。
とにかく、これまでこんなセンシティブな感情を赤裸々に描いた歌は聞いたことがなく、初めて聞いたときのインパクトは絶大で、驚きと鮮烈な印象を残しました。
サトルさんは現在も、「歌詞には発明がないと」とおっしゃっており、それは歌詞のテーマであったり、ポップソングで描かれたことのないシーンだったり、使われたことのない言葉、あるいは言葉の組み合わせにより表現される感情、言語化されていない感情の色付けや顕在化であったりと、発明のアプローチは様々ですが、まさに「8年間」の切り口は、これまで聞いたことがなく、発明的なテーマであったと言えると思います。
●音楽ライター、故・角野恵津子さんによる「蒼い岸に立つ」インタビュー(2005年)
②自身を赤裸々に描いたシンガーソングライターとしての覚悟
「他の人が歌ってないことを俺が歌わないと、俺の存在価値はなくなっていくと思ってるしね」
そういって赤裸々な感情を、ポップソングとして世に放ったサトルさん。
リアルな経験だからこそ、リスナーの胸を打ち、ある人にとっては刺さりすぎる、そんな作品が生み出されました。
以前、KANさんの楽曲「Songwriter」について、人生のすべてを歌にするというソングライターのエゴ、そして相当の覚悟を感じたと書いたことがありますが、それに共通するような、坂本サトルというシンガーソングライターの強烈な覚悟に触れたようで、自分の中でサトルさんの歌に対する信頼がぐっと増したのがこの曲でした。
③個人的な感情でありながら、ポピュラリティのある歌詞
「天使達の歌」のときに実感したという、「個人的な経験を書いた歌詞でも、自分を深く掘り下げて獲得したものは、地下道のようにほかの人の感性ともつながっているのではないか」という、詩作における共感性、普遍性についてのサトルさん流の考え方。
「8年間」も、個人的な哀しい経験を書いていますが、自己憐憫のひとりよがりの歌詞になることなく、ポップソングとしてのポピュラリティを獲得しており、サトルさんのソングライターとしての手腕が伺えます。
2024年2月の最新のインタビューでも同様のことを語っています。
ソングライティングにおける「普遍性の獲得」の重要さ、そして歌詞が「自己憐憫に陥っていないか」という視点は、佐野元春さん著『ザ・ソングライターズ』の中でも佐野さんが述べられています。
ソングライターを目指す人に向けられた文章ですが、自身の経験を基に作る「歌詞」と「日記」の違いは何か、作品としてのソングライティングとはどういうものかについて、理解が深まるのではと思い、以下に引用します。
④時系列が混在する歌詞
私が「8年間」を初めて聞いたときに、時系列が混在するような歌詞が、映画「ブルーバレンタイン」(2010年公開/デレク・シアンフランス監督)を想起させました。(アルバム発売よりあとの公開ですが、私がこの曲を聞いたのが2012年頃なので)
「ブルーバレンタイン」は、一組の夫婦、ディーン(ライアン・ゴズリング)とシンディー(ミシェル・ウィリアムズ)の愛の始まりと終わりを描いた物語。映画の中では、ディーンとシンディが破局に至るまでの1日半が描かれ、そのシーンの間に随時、二人が出会い恋に落ち結婚するまでの経緯が挿入されていきます。この、些細なことからどんどん距離が離れていく現在の夫婦の描写と、そこに差し込まれる過去の輝かしい愛の日々のシンクロが、エグい!辛い! “トラウマ恋愛映画”とも呼ばれる所以です。
「8年間」の歌詞も、子どもと別れた哀しみの合間に、子どもが生まれたときの最高に幸せな瞬間が挿入され、その対比が、強烈に感情を揺さぶります。
エグいな…とも思うし、うまいな…とも唸らされる。
この、映画のような、歌詞の時系列の混在やシーンの対比も(本人がそういう意図で作ったのかはわかりませんが)、ひとつの発明だな、と思いました。
⑤この歌をリアルタイムで出したということの重み
アルバムが発売されたとき、サトルさんは38才。
おそらく離婚して2~3年後くらいのタイミングで、感情としてはまだまだ生々しいものだったと思います。
そのとき感じたことをなるべくリアルに、そして正直に書こうと思うと述べたサトルさん。同時代を生きる同年代のリスナーに対し、その人たちのリアルを歌った歌がないからと、覚悟を持って作品にしたサトルさんの情熱と生き様。
そして、個人的な話ですが、自分は当時のサトルさんより6つほど年上であるものの、いま自分の子どもが9才。8才の子どもと別れるという重みがリアルに感じられるこの頃…。
いまだからわかる、この歌の重みと、これを世に放ったサトルさんのすごさ。
⑥心地よいAORサウンドで奏でるアンビバレントな組み合わせ
ご自身も語られているように、歌詞の内容から、泣きのバラードにすることもできたものの、敢えて組み合わせたのは軽快なAORサウンド。
この歌詞の内容に、このサウンドをのせたサトルさんのセンスに、初めて聞いたときにノックアウトされました。
これが本当にかっこいい。なんでこんなにかっこいいのか。それは…。
⑦バンドメンバーが豪華
めちゃくちゃ豪華なバンドメンバーが演奏しているから。
カーネーションが2人います。古川昌義さんがいます。
柴田俊文さんはWurlizer。…なにそれ?と思い検索しました。
40代以上のメンバーで固めたという、熟練のプレイヤーたちの演奏が本当に最高。
⑧音響ハウスでレコーディング!サウンドのかっこよさ
上記の手練れの面々による演奏は、サウンドだけでもずっと聞いていられる気持ちよさ。
そして、音響を担当したのが、音響ハウスのスタッフという伊藤隆文さん。
「8年間」に出てくる歌詞のシーンに伊藤さんがいた、という縁もまた、歌に描かれているドラマの深みを増します。
⑨ダビングを10回重ねたというコーラスワーク
サトルさんのコーラスワークも素晴らしい。
これはもう聴いてください。
⑩アルバム発売から19年。そして今の関係は…
これはちょっと、ずるいんですけど。
昨年11月、サトル部(坂本サトルオフィシャルファンコミュニティ)にて、サトルさんから、「8年間」の続きを思わせるような出来事の投稿がありました。
クローズドの投稿なので、詳しくは記載しませんが、そしてその投稿自体も、何かが詳細に語られているわけではありませんでしたが、
なんとなく、いい関係が続いているんだな…と思わせるような内容。
哀しい別れも確かにあった、けれどそれから年月を経て、続いていく関係性もあるということ。
まさに人生はいろいろあるんだなぁと。
この曲を、安心してというか、また違った視点で聴ける気持ちになりました。
改めて、サトルさんがその当時のリアルな感情をパッケージして、上質な音楽作品として作り上げたことのすばらしさ。
サトルさんのソングライターとしての歌に対する真摯な姿勢が、こうして唯一無二の名曲を生み出し、存在していること。
0から1を作り出す、歌を生み出すというすばらしさに、感服いたしました。
サトルさんの新曲早く聞きたい!
楽しみに待っています。
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(良かった。ちゃんと10個書けました。
後半失速したけどw)
文中で引用した、「蒼い岸に立つセルフライナーノート」は、以下のnoteでも紹介しています。