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小説「つまらぬ怪奇は麺麭より安い 第1.1話~花瓶には人面花を活けるな~」
地の果てのような河口の都市、廃界の一角に佇む骨董品店【森の黒百舌鳥】には、店主と新しい店番である俺、鶴翼以外にも出入りする連中がいる。
大中小の見た目にわかりやすい三人組で、それぞれバオフゥ、ルオ、シャオという。
大きいのがバオフゥ、30代の男で身の丈は突然変異を疑う程に大きく、そのまま歩けば天井に頭が擦れてしまうため、いつも首を少し屈めている。
中くらいのがルオ、40代の男で三人の中では最も最古参、必然的に立場も上のようだ。
小さいのがシャオ、20代の女だが背は娼館で客を取る前の小娘と同程度だが、その反面、態度は一番大きい。
この大中小の三人は普段なにをしているのか、それとも暇で仕方ないのか、毎日のように店に来ては勝手に机を牛耳って、ああだこうだと実にどうでもいい会話を繰り広げるのを日課としている。
「ん? あいつらか? あいつらはいいんだ、ボクの子飼いだからな。お前はサボるな、働け」
小柄で綺麗な顔をした少女のようでもあり、しかし劣情を促す色気と気配を持たないために美しい少年とも思わせる、性別不明で一人称がボクで、おまけに年齢も25歳という全てがよくわからないの店主は、どうやら三人の雇い主であり飼い主でもあるらしい。
開店前は体格に合ってない大きめの服をだらしなく着ているが、開店すれば赤主体の道士服をかっちりと着込む主義の持ち主。
ちなみに店主の私室は立入厳禁なため性別は未だに確認出来ていない。
「いいか、お前ら。人間はひとりふたりと数えるが、首を落したら1体2体と数えるだろ。要するに人間の数え方を決めるのは顔の有無というわけだ。その理屈でいえば人面花は1本2本ではなく、ひとりふたりと数えるべきだと思うわけだ」
「でもよお、ルオ。人面犬は人間の顔してるのに1匹2匹だろ? じゃあ人面花は1本2本であるべきじゃねえか?」
「もうめんどくせえから1発2発でよくない? なんで発かって? あいつら、だいたい殴りたい顔してるじゃん」
「いいか、シャオ。いくら人面花でもいきなり殴るのは駄目だ。人間の顔をしてるってことは人権があるってことだ、首の無い人間は人権がないから殴ってもいい」
どうやら今日は人面花の数え方をああだこうだと話しているようだ。
大の大人たちがどういう育ち方をしたら、こんなくだらない話で盛り上がれるのか。開店早々に来たかと思ったら、かれこれ1時間は無駄話を繰り広げている。
「なあ、新人。お前はどう思う? 1本2本だよな?」
「いやいや、そこは1発2発でしょ?」
「ひとりふたりに決まってる。でなければ理屈に合わんだろうが」
いやいや、俺に振らないでくれ、そんな話。
上半分空いた嘴状の仮面から店主に困った目を向けると、店主は店主でボクに聞くなと云わんばかりに顔を背けている。
店主の目の前には空の花瓶が置かれていて、特に花を活ける趣味はないのか、そこに洟をかんだ後のちり紙を詰め始める。
いや、せめてもう少し実用的なものを詰めてくれないだろうか。そんなもの詰め込まれても、後で捨てるのも面倒なだけだ。
「龍頭はどう思います?」
龍頭とは廃界の犯罪組織の首領を指し示す言葉だ。店番に指名されてから知ったことだが、店主こと朱雀はフェイレンという廃界屈指の凶悪な匪賊集団の首領格のひとり。
匪賊は暴力と略奪を用いる盗賊たちの中でも特に反体制的な集団であり、反体制的なわけであるので標的は当然この大陸の支配者層、その中でも頂点に君臨する皇帝の命だ。
店主は皇帝への献上品として珍しい品を探し求め、それを手土産に堂々と眼前に立ち、その首を刎ねてしまおうと目論んでいる。
そのために現在は骨董品店の店主として、自らの目で真贋を確かめながら皇帝にお目通りを許される程の品を求めて、日々珍しいものを集めている。その中には先日の人面瘡であったり、今ちょうど話題に上がっている人面花といった怪奇も含まれるというわけだ。
ちなみに暗殺を企てる理由は単純明快、なんか気に入らないから。誰もが実行するしないはさておき、頷かずにはいられない実にわかりやすい理由だ。
「少なくとも1発2発じゃないな」
「なんで!?」
「武器を使ったら1撃2撃になるだろ」
「ぐぬぬぬ」
シャオが頭を抱えて机の上に突っ伏す。
ぐぬぬぬじゃないんだよ、お前らさっきから邪魔なんだよ。机の上がいつまでも片付かないだろうが。
そう、店内は店主のだらしない本質が如実に現れているのか、雑然とし過ぎてどこに何があるのかも判らない始末だ。それをきちんと分類して分別して配置して整理整頓して、ついでに埃だらけの店内を掃除するのが俺の目下の仕事だ。
連中の牛耳る机の上には、用途のわからない我楽多同然の鉄屑が幾つも転がり、それを大雑把に端に寄せて饅頭だの餃子だのが乗った皿や湯呑を雑然と置いているものだから、もうなにがなんだか全部が全部しっちゃかめっちゃかになっているのだ。
そこに頭を突っ伏されてみろ、殺意のひとつも湧いて然るべきなのだ。
「そもそもだな、人面花は喋れるんだから、本人に聞けばいいんじゃないか?」
「さすが大将! おい、ルオ、シャオ! 1本2本と数えてくれって答えたら、今日の飯の払いはお前らだからな!」
「おいおい、人面花は人間様より偉いのか? 所詮花だぞ、お前は花の意見なんぞに耳を傾けるのか? 尊厳は何処へやった? 酒家に忘れたのか?」
知らねえよ、どうでもいいからさっさと聞けよ。
呆れながら嘆息していると、バオフゥが人面花を1本だかひとりだか1発だか1撃だか、とにかくひとつ取り出して、店主の目の前にあった花瓶に突っ込み、そこに水を注いでしまう。
おい、馬鹿。そこに洟紙が入ってるの見ただろ。
「おい、花! お前の数え方はなんだ!?」
「……1フラウァー……2フラウァー……」
「ぬがあああ!」
バオフゥが人面花を力任せに握り潰して、引っこ抜いて床に叩きつける。
ぬがあああじゃないんだよ、花に怒るんじゃねえよ。あと塵を増やすな、頭おかしいのか。
やれやれと呆れた顔をしながら無残に潰された人面花を拾って、塵取りの中に放り込んで埃や他の塵と綯い交ぜにする。掃除はさっぱり終わりが見えない。ついでに客の姿もまったく見えない。
俺はこんなところで働いてて本当に良かったのだろうか。
なんて考えながら、丁寧に箒で床に溜まった埃を履いて飛ばしたのだった。
(続く)
є(・◇・。)эє(・◇・。)эє(・◇・。)эє(・◇・。)э
第1話「人面瘡」の余話です。
この作品は過去作のセルフリメイク的な要素もあるので、過去作の登場人物の大中小の3人組(ルオ、バオフゥ、シャオ)も出てきました。多分本編には絡まないと思います。戦闘シーンとか書くのめんどくさいので。
本編との落差に風邪ひきそうですが、最近とっても健康体なので風邪は引きません!