推しが消えた日。


推しが、消えた。

それは突然のことだった。

妹が中学時代の同級生と呑みに行って、
母からは仕事帰りに買い物に寄るから帰りちょっぴり遅れると連絡が来て、
父はいつもよりちょっと贅沢をして買ったお高めのお肉を焼いて、

私はそれを大好きな玉ねぎと一緒に食べた。

食べ終わって、ログインし忘れていたゲームにログインして、Xを眺めていた。

見間違いだと思った。

何となく、嫌な予感がした。
胸がざわざわした。

スクロールして更新した時に一瞬見えた、推しのフルネーム。

一気に夕ご飯を吐き戻しそうなくらいの吐き気に襲われた。

少し震える手で、メールを開いた。

まさかね、本当なら、メールくるもんね。

受信ボックスを開いて一発目。

嫌な予感がより強くなった。
個人名と、お知らせ。


お知らせを開いて、全文読んだ。



絶望した。



いやいや、年の瀬だよ?
まさか、ね?


だって私、今日貴方が出ていた、イキスギさんについてったの録画、見てたんだよ?

母と、妹と、可愛いねって、笑ったんだよ?

ゲキカラドウ2懐かしいなーって、当時のインスタとか見直したんだよ?

てか最近やっと新衣装のメンカラアクスタ届いてさ、この前小島担と佐野担にお披露目したんだよ?

小島担なんて、貴方のビジュが最高すぎたから写真買うって言って、カートに入れてくれたんだよ?


頭がぐるぐるして、吐き気がした。
だんだん視界もぐるぐるし始めて、1回スマホを置いて必死で呼吸をした。

その時、グループLINEの通知が入った。


小島担からだった。


小島担【どういうこと?】
小島担【誰か説明してくれ頼む】


荒い息の中、必死で文字を打ち込んだ。

私【どうしよう】
私【息ができない】


小島担【呼吸して、とりあえず息吸って吐こう】

向井担【え】
向井担【何、コンプライアンス違反て何】
向井担【息して】


何もできない私に代わって、向井康二担の友人が情報を纏めてくれた。


そして少しして、ファンクラブ内に動画が上がった。


その動画には、5人しかいなかった。


動揺しているのか、何を言っているのか分かりにくい、泣きそうになっているリーダー小島健と、

あくまで冷静で、でも色々な感情が混ざっているような顔をしている正門良規と、

明らかに顔色が悪くて、少し怒りを感じた(あくまで主観)末澤誠也と、

真っ直ぐ、ただ前だけを見つめる草間リチャード敬太と、

こちらもまた顔色が悪くて、泣き出してもおかしくなさそうな佐野晶哉。

そこに私の大好きな人は居なかった。

そこで、私は痛いくらいに実感した。



もう、彼は、居ない。



不思議と涙は出なかった。
1周まわったんだと思う。

母が帰ってきて、「Aぇが5人になっちゃった、大晴、いなくなっちゃった」と伝えた。

母は信じられない、と震える声を漏らして、私の頬に触れた。

不思議とまだ涙は出なかった。

母はすぐFC動画を見た。

「こじけんの隣、そうだよな、」
「すえさんは、どうなるんだ、?」
「正門、こんな時までしっかりしなくていいよ、」
「リチャ、応援するからな、番組も見るから、」
「佐野、こんなに頑張ってるのに、なぁ、」

独り言を零しながら、母はご飯も食べずに動画を見ていた。

それを私は遠目に見て、今度はふつふつと怒りが湧いてきてしまった。


なんてことしてくれたんだ、

もう少しだったんじゃないのか、

ここまで頑張ってきたじゃないか、

メンバーにこんな顔させてんじゃねえよ、


悔しくなった。呆れた。行き場のない怒りが脳を支配した。
学ばなかったのか、お前は、と。

母はそんな私の頬にもう一度触れて、

「信じられないな、」

と言った。

このままではいけない、と本能が感じた。
一旦スマホを閉じよう、そう思った時、Xのお役立ちアカウントが、あべくんのブログの更新を知らせた。


皮肉なものだ。
こんな時にも支えとなるのは推しなのか。


あべくんのブログを開いて、あべくんのお写真を見た。


その瞬間、涙が出てきた。

止まらなかった。

母は私をとめたりせずに、ただご飯を食べていた。

そこから数十分泣き続けた。

信じたくなかった、信じられなかった。

こんな、こんなことがあってたまるか。

発表からすぐブログもプロフィールも消えて、
何事もなかったかのように、

まるで最初からAぇ!groupは5人だったかのように。

無慈悲にも完成されすぎていた。

こんな、数時間でこうなっちゃうんだ、
今まで積み上げてきたものが崩れるのはあっという間だった。

Xを見れば、他担や他グル担の人が彼のことを憶測で叩きまくっている。
詳細なんて発表されてもないのに。

人殺しだなんてポストも見かけた。

こんなことになるなら、正直理由を教えて欲しいとまで思った。
どんな残酷なことでもいいから。

それで彼のことを嫌いになれるなら、それでいいとまで思った。

でも嫌いになるなんて簡単にできるわけがない。

嫌いになるには、私は彼に幸せを貰いすぎてしまっているんだ。




ねえ大晴、今どこにいますか?

元気でいますか?

あったかくしていますか?

貴方の大切な人と過ごせていますか?

ひとりでいませんか?

もし、もしね、私の、いち福本担の気持ちが届くとしたら、貴方に1つだけ伝えたいことがあります。


私に、たくさん幸せを くれてありがとうございました。
貴方は確かに、私のスーパーアイドルでした。
今までの時間は私の宝物です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?