アラフォーのおっさんがVaporWaveに惹かれた理由
音楽ジャンルとしてのVaporWaveにはどうも食指が動かなかったんです。話題になりはじめた頃にはすでにアラフォーと呼ばれる世代になっていたし、もう新しい音楽を追いかけて夢中になる体力は残っていなかったんですよね。いまや音楽の方のVaporWaveはとても息の長い流行となってしまっていて、SeaPunkやWitchHouseを飲み込むだけでは飽き足らず、後発のはずのFutureFunkまで取り込もうとしているのです。いやあ、ハマらないで良かったよほんと。
↑↑元ネタ分かるから耳が追いつこうとするけどわからないやつ
しかし、それでもぼくが強く惹きつけられてしまったのは「VaporWave的」とされるアートワークの数々。80~90年代を過ごした私たちにはなじみの深いアレの画像と無意味な日本語がコラージュされたそれらはわけもわからずカッコ良く見えてしまったのです。ニンテンドー64、SCEI、Windows、エヴァンゲリオンにセーラームーン、Microsoft WORDのワードアートとあのイルカ、NIKE、adidas、256色表示の美少女ゲーム、そしてインターネットミームがグチャグチャに組み合わさったそれは、自分では恥かしくて振り返りたくない過去を突き付けられているようだったし、「あの華やかだった時代を続けられなくてごめんね」という若い世代へ向けた申し訳ない気持ちも混じりつつですが、とにかく滅茶苦茶カッコ良く見えたのです。
なにもかも唐突過ぎて最高
ぼくが惹かれたののにはいろいろ理由があるんですが、まずは
・80~90年代ノスタルジー
振り返ってみればバブルが既に弾けていたとはいえ、まだまだ景気が良く、みんなゲームやアニメに夢中になっていた、遊びに関しちゃ大変に豊かだった時代。ハイテクスニーカーを自慢し、世界に数本しかないビンテージジーンズをそこらの高校生が裾を引きずりながら腰履きし、スト2とバーチャファイターに100円玉をつぎ込んでいたあの時代の記号がたっぷり詰め込まれたそれはどれも大変に懐かしく映るのですよ、母上様。
なんだか分からないけど全部分かる、知ってるやつ
・グリッチアート
いまだに恐怖系映像でアナログテレビの砂嵐が流れるのはなぜか! 家族が寝静まった深夜にスイッチを入れたブラウン管の記憶がまだ染み付いているからなのかな~? とにかく「機器の故障」という喪失の恐怖と隣り合わせの気持ち良さをともなう不可解なビジュアルには妙にときめかされたものだ。思い返せば僕たちはメーカー想定外の操作が引き起こすバグ、またはファミカセ半挿しという禁呪によって知らず知らずのうちにグリッチに親しんでいたんですよね。『テニス』を引っこ抜いてから『スーパーマリオ』を入れるとわけのわかんない面が遊べるとかいうあれもありましたよね。いやあ「禁断の秘技」とはよく言ったものです。
こういうの。慌てて抜いてフーフーするやつ。
・抽象的で意味のない日本語
なんとなく読めるけど実際の意味は想像したものだとは限らない。漢字文化圏やロシア語圏を旅する事で味わうあの異世界感が好きーっ!vaporwaveではしばしば法則性やお約束を無視した日本語が私たちの前に現れてくるわけですが、それがとてもスリリングで楽しいのです。
みんな持ってたトップTシャツ
・ゆめかわいい、病みかわいい、ファンシーとの親和性
ピンクに彩られた愛すべきゆめかわいいファンシー、そして絶望的なブルー。幻想的で美しいvaporwaveのビジュアルにはしばしば「SAD BOYS」はじめ憂鬱な少年少女たちの意匠がそこかしこに点在しているのです。
当時はこんな19歳専門学生と付き合いたかったなあ
・ファッションへの侵食
謎のブランド・今夜1秒などによって為される90年代カルチャーとINTERNET MEMESの消化と昇華。生まれる前から懐かしい21世紀生まれの女子たちにとってそれはkawaiiものとしていま支持を受けているわけです。
思い返してみればぼくらの90年代は日本語Tシャツが「アリ」になった時代でもありましたよね。
20代の頃だったら絶対着倒していた事が容易に想像できる。
こういうところと、「蒸気語」とも呼ばれるグリッチ構文。これはライターという仕事柄というのもあるのですが、予期しない日本語は本当に面白いと思うのです。ああ、ちなみに仕事といえば、ぼくは10代の若者と話す機会も比較的多いのですが……10代の彼、彼女たちにとって90年代カルチャーとレトロテックは憧れの対象だというのですよね。いわく、「かわいい」と。それってなんだか面白いですよね。「えっ、こんなのでいいの?今もっと良いのあるでしょ」って恐縮しちゃうんですが。
VaporWaveAV女優、小泉ひなたちゃん(SODStar)を見つけてしまったこともこのハマり道の一因。
ゆめかわいい、病みカワイイ、ファンシーと通じる現実味のないピンクとパープルに彩られ、ノスタルジーとアイロニーに充ちたVaporWave Art。90年代の豊かだった時期と、3.11によって暗転してしまった私たちの平成文化を若い世代がイキイキと再構築していることに複雑な気持ちを抱きながらも惹きつけられてしまうのですよ。あの時代を能天気に楽しんだボンクラの身の上には、平成がいよいよ終わるというこのタイミングもあって、なんだかとても特別な意味を以ってブッ刺さるのです。
以上、おっさんがVaporWaveを好きになる理由でした。
『ドキドキ文芸部』みたいなちょい前ネタもぶっ込まれるので油断ならない
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