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「プリデスティネーション」卵が先か?鶏が先か?

ふんわり情報

2015年公開、マイケル・スピエリッグ&ピーター・スピエリッグ監督、主演イーサン・ホーク&サラ・スヌーク

1970年のとある酒場に現れた青年がバーテンダーに自分の身の上話を始める。その壮絶な半生に同情したバーテンダーが自分は時空警察のエージェントであることを明かし、青年が過去に戻り人生を変えるチャンスを与える。青年とともにバーテンダーの真の目的である爆弾魔を止めることはできるのか…

考察

以下、ネタバレしまくりなのでまだ映画を見ていない人はここから先は読まないでください…!

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今作はSF作家ロバート・A・ハインラインの短編小説『輪廻の蛇』が原作となっている。

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この映画に登場する「ジェーン」、「ジョン」、「バーテンダー」、「爆弾魔」は全て同一人物であり、自分の尾を噛む蛇のように永遠にループしている一人の人生である。

映画ではタイムマシンがあるせいで時系列がバラバラになっているため、時系列順に並べると理解しやすくなる。

時系列

1945年9月

生後間もないジェーンが孤児院の入り口に置かれる。

1963年4月 

バーテンダーがジャンプ(タイムトラベル)で連れてきたジョンとジェーンが出会い恋に落ちる。

1963年6月

バーテンダーが迎えに来たため、ジェーンの前からジョンが姿を消す。ロバートソンのいる時空警察の本部、1985年にジャンプする。

1964年3月

ジェーンが女児を出産。しかし出産を機に子宮と卵巣を失い、両性具有だったジェーンは性転換手術を受け女性から男性となり名前もジェーンからジョンへ。自分の名前を残すため生まれた子どもにジェーンと名付ける。新生児室にいたジェーンをバーテンダーが誘拐し、1945年の孤児院へ連れて行く。

1970年3月

未来から来たジョンが爆弾の解除に失敗し顔に大火傷を負う(映画の冒頭シーン)。違法なジャンプをしてその場に居合わせたバーテンダーにより変界装置(タイムマシン)を渡されたジョンは1992年へジャンプする。もともとバーテンダーも爆弾魔を阻止するために来ていたがそれは叶わず。

1970年11月

バーテンダーとジョンがポップ酒場で出会う。ジョンがバーテンダーと会うのはこの時が初めて。ジョンの身の上話を聞いたバーテンダーがジョンを1963年4月に連れて行く。

1975年1月

ジョンという後継者を見つけたバーテンダーは時空警察を引退し、余生を送る「終点」としてこの時代のNYに来る。が、もう使えなくなるはずの変界装置がエラーでまだ使える状態にある。

1975年3月

爆弾魔がいるコインランドリーに赴いたバーテンダーが、爆弾魔は未来の自分であると知るも、射殺する。

1985年

ジョンが正式な時空警察の一員となる。それに伴いバーテンダーは引退し、「終点」の1975年にジャンプする。その直前にロバートソンから爆弾魔の手がかりを渡される。

1992年2月

1970年3月に顔に大火傷を負ったジョンが治療を受ける。顔と声が大きく変わり、この時ジョンからバーテンダーになる。バーテンダーの時空警察としての最後の仕事、自分の後任者となるジョンをスカウトするため1970年11月のポップ酒場へ。

時期不明

100の犯罪を阻止し、時空警察として経験を積んだジョンが1970年3月の爆弾を解除するためにジャンプする。

ロバートソンって何者?

この映画はジェーン、ジョン、バーテンダー、爆弾魔と名前や顔は異なるものの実は1人の人間が登場人物のほぼ全てを担っているのだが、そこで疑問に思うのが「ロバートソンって何者?」と言うことだ。

ロバートソンももしかするとジョン=バーテンダーと同一人物?なぜ、もう引退するバーテンダーに爆弾魔の資料を渡したのだろう?バーテンダーが送られる「終点」はNYで爆破騒ぎが起こる直前だし、更に「爆破の日が近いのにNYで隠居する気か?」なんて煽るようなことも言っている。これ、芸人が「押すなよ!絶対押すなよ!」って言うのととても似ているのでは…

それに最初の酒場のシーンでジョンは爆弾魔のことを「救世主かも」と言い、100%の悪とは受け止めていないという描写がある。
そして引退するシーンで爆弾魔の話題になりバーテンダーが「奴の信奉者か?テロリストだぞ」と言うのに対しロバートソンは「そう簡単じゃない 残念だがな」とある意味容認していると取れるような発言をしている。

1964年3月にバーテンダーが新生児室からジェーンを誘拐する際にはロバートソンもその場に訪れ、

バーテンダー「どうもロバートソンさん 久しぶりだ」

ロバートソン「ああ 君からすればな」

バーテンダー「まだジャンプを?」

ロバートソン「特別な時だけだ」

という会話をしている。この時バーテンダーは爆弾魔の時限装置の破片をロバートソンに手渡している。それをきっかけに爆弾魔の手がかり資料も作成され、バーテンダーの引退の日にそれが渡されたのでは?だとするとこの場面が「特別な時」になると知ったバーテンダーはロバートソンとなった後年、ここにジャンプしてくるのでは…

いやでもなぁ。バーテンダー→ロバートソン→爆弾魔になったのだとしても、一度引退した時空警察にどうやってロバートソンとして戻るんだろう?この映画における重要人物なのに、謎が多すぎる…

ついでにこのシーンでは

ロバートソン「局が厳格な基準を定めたのには理由がある 我々を守るためだ しかしその煩わしい締めつけがなければ成果が増しうるのも事実 部外の捜査官さ」

という台詞もある。この台詞に乗せてジェーンと楽しげに話すジョンの映像が流れるが、彼は近いうちにバーテンダーに迎えに来られて正式な時空警察の一員となるため、「部外の捜査官」という言葉にはそぐわない。だとするとやはり、もう引退を控えたバーテンダーに部外の捜査官としての働きを期待していると推測できる。

度重なるジャンプは精神病や認知症のリスクが高まるということが劇中の台詞で何度か登場する。そして冒頭の顔面大火傷を治療し、包帯を外すシーンでそのリスクを説く医者が見ているカルテ?に「精神病初期段階」との記述がある。つまりジョンがバーテンダーになった時点で既に精神に異常をきたし始めていたということ。おそらく引退後のバーテンダーは、ロバートソンにそそのかされたことも手伝ってエラーのためまだ使える変界装置でジャンプを繰り返し、精神病がどんどん進行し最終的にはあの爆弾魔になってしまうのだろうな。

コインランドリーで爆弾魔も事件を未然に防ぐために先に爆破してやった!と言っていたし、彼の中には彼なりの正義が残ってはいたものの、そのための手段がおかしくなってしまっていた…やはり認知の歪みのせいなんだろうなぁ…。

一番最後のシーンでまだ動く変界装置を目の前に、両手で頭を抱えてこちらを睨むバーテンダーは「お前がひどく恋しい」と言う。自分が爆弾魔となれば、恋しいジョンがそれを阻止しに来てくれることを知っているから爆弾魔への道をたどることになったのだろうか。悲しい…。

疑問点

普通、両性具有の場合どちらかの性器は非常に未成熟であり、この映画のように性転換手術を受けたとしてもその前後で妊娠と射精の両方ができる可能性はあるのか?という点や、そもそも時空を超えたとしても自分相手にセックスできるのか?という点を差し置いたとしても、一番引っかかるのはジェーンが性転換手術を受けてジョンへと変化した時、男になった自分の顔を見て「自分が恋に落ち、懇ろになり、そして自分を捨てた、我が子の父親である男」と同じ顔だと気付かなかったのだろうか?ということ。

捨てられてからまだ1年くらいしか経ってないはずなので全く気付かないなんてことあるか?と思うけど、まぁ、失恋・妊娠・出産・子どもの誘拐・自分の性転換手術・ホルモン投与など怒涛だったのでショックも大きく忘れちゃったってことなのかなぁ、そこだけがどうもすっきりとは腑に落ちない。

ちなみにポップ酒場で自分の半生を話したジョンが「妙だよな この顔を見ると人生を壊した男を思い出す」と言うシーンがあるんだけど…いやまぁ人生を壊した男そのものだからねぇ…気付かないのかなぁ…

感想

多少の謎や腑に落ちない点はあるものの、この脚本には本当にやられた!登場人物が多くないからこそさらに際立つ。バーテンダーが新生児室からジェーンを誘拐したあたりから「え?…え?」と混乱し始め、そこからはもうずっと「えええええええええ!」の連続だった。

見終えてすぐ時系列を整理し、再度再生。他の映画でも「見終えた後に全部わかってる状態で冒頭部分を見返す」という行為をよくするのだけど、「あ~なるほどね~」と思ったら止めるんですいつもは。

しかしこの映画は本当に伏線だらけ!なんて無駄のない台詞ばっかりなんだ、すごいなぁ…と思っていたら結局そのまままた最後まで見ちゃいました😂️短めでよかった…笑

大火傷の治療を受けて包帯を外し、ジョンからバーテンダーへと顔が変わってから初めて鏡を見た時に

「まるで別人だ お袋でも気付かないな」

と言うんですよ…実際その後ポップ酒場でジョンと出会うんだけど、もちろんジョンは目の前にいるバーテンダーが未来の自分だなんて思わないわけです。ジョンはバーテンダーの父であり母であるからね!過去でもあるけど!

とまぁこんな感じで2回目に見たら「なるほどそういうことだったんだ」ポイントが多数、というか多すぎるのでもう挙げません😂️

1回見てよっぽど合わないなとか面白くなかったなと思った人はしょうがないけど、そうじゃなければ2回見るのをオススメします。実際バーテンダーも2周目以降の人生を歩んでいるわけだしね。是非一緒にバーテンダーを追体験しましょう。

まとめ

ジェーンが両性具有者であるということと火傷により顔だけでなく声も変わってしまったということがこの脚本を成立させるための大きなポイントだったな。とにかく、私には大ハマリする映画でした。なんと2日で3回も見たし、きっとこの先もまた見ると思います!イーサン・ホークももちろんだけど、ジェーンとジョンを演じ分けたサラ・スヌークの演技が素晴らしかった!2020年に見た映画の中で1位です!

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