【マンガ感想文】人類の半数がちいこになった
つい今の瞬間まで隣にいた人が突然「ちいこ」と呼ばれる謎の生き物になる世界の話。
「ちいこ」はかわいい。かわいいの大渋滞。
それは世の中の犯罪率までも低下させてしまうくらいにかわいい。
人間は得体の知れないものに恐怖を抱いてしまうものだが「ちいこ」はその圧倒的かわいさで無双する。
愛くるしい姿と、明確な言葉を発しない、感情のままそこにいるイノセントさがそれを一層補強している。
元は人間である「ちいこ」は、いつのまにか人々に無条件で愛でられる対象になっていく。
フリーター、田舎暮らしの老女、カップル、ひきこもりの子を持つ親、ギャル、ホームレス、「ちいこ」に夢中なこども…
いつ誰にでも、どんな人にでも突然訪れる「ちいこ」との関わり。
だって人類の半数がもう「ちいこ」なのだから。
そんなかわいいが全開の「ちいこ」。
だが、なぜ「ちいこ」化するのか。そもそも「ちいこ」とは何なのか。なにもわからない。
読み進めるほどに「ちいこ」のかわいさの向こうに透けて見える現実に戦慄を覚えはじめ、そしてこれはゾンビ物と根っこは同じではないかと思えてくるのだ。
ゾンビは見た目が概ねアレで、しかも襲ってくるから問答無用で倒すべき対象となる。
それが親友であれ恋人であれ親であれ子であれ。
自分の大切な人がゾンビになっても、その醜悪な見た目に、罪悪感と思慕やとまどいなどなどを全てひっくるめて、殺られる前に殺りにいく存在として、覚悟をもって対峙しなければならない絶望。
翻って「ちいこ」は無害。そしてなによりかわいい。
圧倒的にかわいいから、まず倒すとかという選択肢が出てこないし、なんならずーっと一緒にいられる。
だからこそ生まれる大きな葛藤。姿形は変わってしまった、でも何よりもだれよりも大切なあなた。でもあなたではないあなた。言葉も思いも通じない「かわいいあなた」との現実を受け入れて呑み込んで、この先もずっと一緒に生きていくという絶望。
「ちいこ」の世界はゾンビに勝るとも劣らない絶望感ひしめくディストピアを描いた物語なのだ。
まとめ:
かわいいは正義、とはよく言ったもんだと思う。
これは地獄を描いたメルヒェンだ。