教育実習中の思い出
舞台を見に行った。
映画や舞台を観る習慣があまりない私にとって、2時間も3時間も身動きできず椅子に座りっぱなしというのは、なかなかに疲れるものだ。
終演後、固まったように動かない足を駅まで引きずって、小腹が空いたしなんか食べたいなと考える。
ふと、駅前で見覚えのあるロゴが目に入った。
フランス国旗カラーのパン屋さん。
まあまあ混んでいたので、リュックで席を確保してから、パンを物色する。チョコが練り込まれたパンを1つ選んで、レジでホットコーヒーを注文した。
パンとコーヒーを受け取り席に戻って、軽く温めてもらったパンにかぶりつく。
演劇に集中し切ってクラクラした脳に、チョコレートの甘さがじーんと染み渡る。
まだアツアツのホットコーヒーを飲んで、ああこの味、と思う。
大学3年生の時、教育実習先で行った学校の最寄り駅前にも、このパン屋さんがあった。
遅刻するのが怖くて、私は毎朝早めに家を出て、このパン屋さんで時間をつぶしてから学校に行った。
注文していたのは、1番安価なモーニングセット。
塩バターパンと選べるドリンクに、バナナかゆで卵かヨーグルトかが1つ選べて、確か350円くらいだったと思う。
ドリンクは毎回ホットコーヒーを選んだ。
普通にコーヒーが好きなのもあるし、ささやかな眠気覚ましになればいいなと思っていたのもあるし、何よりそのコーヒーが美味しかったからだった。
最初に飲んだ時、こんなに安価で、パン屋さんのコーヒーなのに美味しい、と驚いた。
私が当時アルバイトをしていたチェーンのカフェのコーヒーよりも、安くてずっと美味しかった。
レジ横のキッチンには、理科の実験で使うような丸い透明な器具がいくつかあって、それでコーヒーを沸かしているようだった。
(サイフォン式、という名前知ったのは、実習か終わった後のこと。)
ちなみに、バナナかゆで卵かヨーグルトか、では、毎回バナナを選んだ。
そしてその場では食べずにリュックにしまっていて、実習中の1人になれるタイミング(放課後の職員会議中とか)でこそこそ食べていた。
そんなことを思い出しながら、まだ熱いコーヒーを火傷しないように飲んだ。