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Photo by
ushiwoi
母が切り抜いて集める「正しい価値観」
実家の母は自分が気になった新聞記事を切り抜いてスクラップしている。
そしてそれをノートに貼り貯めたものを私と子どもたちに手渡す。
それは十年近く続いていて、もう20冊以上ある。
たまに実家に行くとそのスクラップノートを渡される。
むすめが中学3年の時、私に黙っているように口止めして彼女に小遣いを渡していた実母が信用できなくなり、私は実家を訪ねる回数を減らしていた。
「直接話す機会がないから時間が空いたときに読んでくれればいい。いつか役に立つときが来るだろうから」と言う。
このことに、「もしかしたら母の価値観はからっぽなんじゃないか」と思ったのは数年前。
自分の価値観をもってないから自分が共感したと世間一般の価値観(新聞の切り抜き)を集めているのかもしれないと。
これが世間で正しいと言われていることなんだ、私の思いはこの有識者と同じく正しいんだ、と、母は自分の正しさを私たちに伝えたくて仕方ない。
価値観を共有し、自分を理解して共感して欲しいんだと思う。
うちは賃貸で私は本が好きだから、本棚はぎっしりつまっている。
スペースがない、ノートがたまっていると伝えたら、ちょっと悲しそうに捨ててくれていいと言った。
スクラップノートが母のように思えて捨てるのが辛い。
気持ちと思いがぎっしり詰まったものを捨てるのを私に委ねないでほしい。
私がそれを捨てられないのは、そこに母の愛情があると思いたいからかもしれない。
独りよがりの切り抜きではあっても、そこには母の私たちへの思いがつまっている。
私たちは愛されているのだ。
それが苦しくてたまらない。