俺の渋谷はどこだ?
田舎の出身である。文化も何もない田舎だ。
その何も無さがふり切っていて、その土地の自然や風光明媚さが観光の目玉になるというようなほどの良質な田舎でもない。
中途半端な田舎だった。
駅のそばに少々の賑わいがある。本屋が2件、古本屋が1件、プラモ屋1件、中くらいのショッピングモールが1つ映画館は0、ライブハウスも0、ジャズ喫茶の類も0、そんな土地だった。
大きな都市から1時間も離れれば日本のどこにでも有るような、特徴の無い凡々としたツマナラい土地。
そんな土地にも、いやそんな土地だからこそ影響がおおきかった「イカ天」ブーム。(アマチュアバンドが勝ち抜機合戦をする「いかすバンド天国」という深夜番組が89~90にあったのです)
感化されやすく、好きな物に深くハマるクチ、かつへそ曲がりな自分の性格はすでにこの頃には完成されており、イカ天系からすぐに当時のインディーズ系やポジティブパンクへ
(略してポジパン。ヴィジュアル系の始祖です)
(全然関係ないけどポジティブ・パンクという自己矛盾的なネーミングを最初に付けた奴の言語感覚は凄いと思う。V型単気筒エンジンに匹敵する自己矛盾感を内包してる)
ポジパン、とにかく髪を立ててた。ダイエースプレーで。(オゾン層破壊が叫ばれ始めた頃だね)
ポジパン、とにかく楽器を下げてた。楽器のボディーが膝にぶつかって歩きにくいんじゃね?位に。
当時自分は中学生。バリバリにその価値観の影響を受けていた。
「人間は "立てた髪のテッペン"と"下げた楽器の底" の距離の差が大きいほど偉い」とすら思っていた。
チョッパーベースを弾くためにヘソよりも高くベースを抱えているのをみて吐き気を催したこともある。
黒の服着て髪を孔雀のように立て、ラバーソールはいて「人の不幸17人分ぐらい背負ってます」ってな顔して、斜め下をみてアー写をとる、なんてことを心底カッコいいとおもってたあの頃…そうです、完全に中2病(重度)に罹患していました。
そんな「半端田舎で全力ポジパン中2病」を抱えて生きていたヤングまんぼ、そこに価値観を一変する情報が差し込まれた。
ポジパン系雑誌(確かFool's Mateだったかと)にオリジナル・ラブの記事が。
見開きの半分、モノクロ1ページだけだった。 ハットをかぶった田島貴男がソフトフォーカスの写真。
恐らく1st「Love,Love&Love」発売時期だったと思う。
ポジパン的感性が腐臭を放っていた中、達人にやり込められるオセロの盤面のように急速に何かが刷新されていった
「ソウル?ジャズ?何ぞそれ?カーティス・メイフィールド?渋谷系?何それうまいの?」
その後程なくして「Love,Love&Love」を手に入れた。
2枚のCDケースを格納している透明プラケースにオプアートのような縞々がついていたように記憶している。
「なんだ?この世界は!」価値観が全部ヒックリ返された。
当時はまだ深夜帯にガンガン流されていた洋モクのCMの煌びやかな世界、それを体現している。
完全に一日で寝返った。まったく新しいワクワクを与えてくれるものは「渋谷系」というらしい。
すぐにピチカート・ファイブに行き着き、雑誌STUDIO VOICEを抱えて帰る行動を取り出した。
ヌーヴェル・ヴァーグとかポップアートとかバナナチップス・ラブとかDJとか小箱とか…履修しないといけないものがたくさん見え出した。
自分にとって渋谷系はフリッパーズでも宝島でも渋谷HMVのあのコーナーでもない。
オリジナル・ラブのファーストにぶん殴られた衝撃なのだ。
地元の馴染みの路地の曲がり角で、出会いがしらに突然暴漢にぶん殴られたような出会い。
その後何年かし、家をでて上京し(浪人のため)始めて渋谷の地に降り立った。
山手線の渋谷駅でおりたちハチ公口の改札にむかう。改札だ。(もうこの時点で少し緊張)
改札を出た。
緊張しすぎたのか目の前が真っ白だ。立ち止まり呼吸を落ち着ける。
視界が少しづつ回復してくる。
目の前を人がよこぎる。赤い…服、チェックの柄。
髪が長い人のようだ。女性か?
視界が元に戻ってきた
赤い、チェックのネルシャツ、だらしない体型、不潔な長髪、パンパンのリュック、銀縁のメガネ、
…まごうことなき"ザ・オタク"である。当時の基本系だった宅八郎系の。
「えっ!?、えっ!?ちょ…えっ!?」 声も出ていたと思う。
渋谷にオタクがいる。理解が追いつかない自分がいた。
後になって考えてみると自分はどうも渋谷に過剰なる幻想を持っていたようである。
「渋谷にいる人はみんなピンストライプのスーツやモッズのスーツを着ている」
「渋谷にいる人はみんなミュージシャンがDJである」
「渋谷にいる人の彼女はみんな金髪碧眼の美女である」
「休日には廃材にパステルのペンキぶっかけたような現代アートをみて一日を過ごす」
大方こんなイメージを持っていたようである。)
完全なる誤解!完全なる幻想!
「Love,Love & Love」の世界観とSTUDIO VOICEを刻んで煮詰めて発酵させた
オリジナルの豊かで幸せな幻想。
オリジナル・ラブの1st「Love,Love & Love」の発売が1991。
先だって30周年でアナログが切られた。 もう30年経つのかよ…
いまだに俺は「俺の渋谷」にたどり着いてない。
俺の渋谷はどこだっ!!!