「けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ」
その日の朝、トシは不整脈が止まらず医者を呼ぶが、明日までは持たないだろうと告げられる。
「わたくし」は、最愛の妹の命が、もうあとわずかだと知っている。
「みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ」
「うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる」
みぞれが降るからには、空は雲で覆われている。それなのに、「へん」な「あかる」さがあたりを包む。おまけにその色は「うすあかく」、それが雲の「陰惨」さをいや増す。
とても不気味で不吉な外の様子。それは、愛する妹の死がいよいよ迫っていることを表すようで、「わたくし」は不安でやるせなくなる。
妹が死ぬという「陰惨」なことが、すぐにでも行われようとしている。また、その「陰惨」な亡骸(なきがら)が、「陰惨」な雲に吸い取られようとしている。
空からは水分を多く含んだみぞれが「びちよびちよ」降ってくる。「わたくし」の心にも、悲しみのあめゆきが降っている。