変わらない教室(ダスト・エッセイ)
2023年4月に開校した関東学院大学横浜・関内キャンパスは、地上17階建で、オフィス街のこのまちでも存在感を放つ。エレベーターとエスカレーターで移動し、ガラス張りの教室へ入り、ホワイトボードを前に席につく。
春から夏まで社会人向けに開講中の詩の教室は、この14階で行われている。受講生は僕を含めて十数人、25歳の僕以外は、先生も含め、もう一括りに「おじいちゃんおばあちゃん」と呼ばせてもらう。僕も乱暴に「青年!」と呼ばれているので、文句はなかろう。
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最年長の「広美さん」は、育ったまち、ここ関内について書く。僕は今、このまちで働いている。戦後すぐの伊勢佐木町、技術発展を経て変わりゆく大通公園や港とその周りの施設、知らないこのまちを、「広美さん」が教えてくれる。
「私がこうやって書き残さないとね。もう知ってる人たちもいなくなっちゃうから…。」
僕は、自分が80歳になったときに、僕がこのまちや地元大船について書き残そうとすることを考えた。「広美さん」がみてきた成長期の関内と、僕がみていく関内の変化は、どう違うのだろう。僕が書き残したいと思う関内は、今ここにあるのか。書き残そうという発想は、AIの時代にあるのか。そして、変わった何かを「書き残さないとね」と思うには若すぎる、未だ「青年」であることが、どうしても悔しい。
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「広美さん」の言葉を、彼女の右後ろでききながら、こんな途方もないことに想いを馳せていると、彼女の左横からコソコソと話声がきこえてくる。今日も、お嬢様の「阿沙子さん」が後ろを振り向いて、北海道出身のエロ親父「治美くん」に話しかける。
多分その瞬間、「おじいちゃんおばあちゃん」と「青年」は、同じことを思っている。
「やれやれ。またあの二人喋ってるよ。仲良いなあ。もう付き合えばいいのに。」
数十年前から今日まで、全国各地の教室で、この記憶は作られている。
♪恋のムードの灯がともる♪
(2023年7月13日投稿)