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憧れ、の威力

「やる気ないならやめれば?」

子供にこのひと言、投げかけてしまった経験ってないですか?

うちは兄ろばのピアノですでに経験済み(やる気ないですと言って10年続けたヤマハを中1でやめました)でしたが、実は今ミニバスで頑張っているチビろばちゃんにも、かつて幾度となく言ってしまっていたんですよね。

もちろん、そんなこと言いたくありません。言われる方だって決していい気のしない言葉なのは明白です。

でも。

言いたくなっちゃうとき、ありませんか?

試合に負けて泣くから「悔しいんなら練習するしかないよ」と声をかければ自主練すると心に誓う。バスケノートに書いたりもする。

「毎日ドリブルのハンドリング練習をする」

お、頑張れよ〜と見守っていると、ほんの数日後には学校から帰ってきてもなかなか始めない。おやつ食べたり、おしゃべりしながらゆっくり宿題している姿を見てイライラ…。

「ドリブルやらないの?」
「やるよ」

…ああ、言ってしまった。自分からやるまで何も言わずに待ってようと思っていたのに。何度そう後悔したことでしょう。

練習日以外にも体育館を個人で予約して自主練。3月に移籍してきたチビろばは前からチームにいる子たちに体力的にも技術的にもついて行けない場面が多く、一緒の練習だけでは追いつけないからと、わたしたちも協力しているのです。

でも、ちょっと集中力が切れてくると時間を気にし出す。「まだ終わんないのかな」って顔をしている様子を見てまたイライラ…。

「やめる?やる気ないなら帰ろう?」
…ああ、また言ってしまった。

本当はそこまでバスケが好きなわけじゃないのかも?自分から自主練したことなんてただの一度もないし。ただわたしたちを喜ばせたくて頑張っているだけかも…。パパろばにそんな愚痴を言ってはため息をついていました。

それが!!

ここ1カ月のチビろばのものすごい変化に、パパろばと心底驚いているんです。たったこれだけのことで、人ってこんなに変われるものなのだろうか。

自主練のために体育館を予約すると喜ぶし、時間など気にせずあっという間に2時間が過ぎてしまう。自主練に限らずチーム練習中でも集中力が以前とは比べ物にならない。傍から見ても彼女の変化は明らかでした。

それら全てが実は、ひとりの女性のためなのでした。

彼女が所属するスポーツ少年団の指導者は4人いて、3人は男性、一人は女性です。その女性の監督がもとプロ選手で、当たり前ですがめちゃくちゃ上手なんですね。40代も後半にさしかかる年齢だと聞いていますが、練習中のゲームにも自ら参加して、汗一つかかず涼しい顔でギョッとするプレイを見せてくれます。

どうやらチビろばは、その女性監督に憧れているようなのです。

監督が混じってゲームがはじまると、周りで見ている保護者達(経験者多数)も思わず見とれてしまいます。目にもとまらぬ速さで近づいてパスをカットし、どこに目がついてるんだ?というようなノールックパスをズバッと出し、ディープスリーのシュートをこともなげに決める。まあ、小学生相手に本来の半分も力を出していないのでしょうが、大人が見ていても文句なしにカッコいい。キャラクター的にもクールな感じで、ちょっと近寄りがたいタイプなんです。

発言もなかなかにストレートで相当こわがられている存在でもあります。もちろん多大なリスペクトを込めてではあるのですが、監督が練習にやってくると体育館の空気が一瞬キーンと張りつめたように感じるくらい、選手たちの間に緊張が走るのがわかります。

移籍してきて2~3か月は名前も呼んでもらえないような感じだったのが、いちど試合中にチビろばちゃんに
「F子、いいよ!」
と声をかけてくれたのです。

点を決めたことよりも、ディフェンスがいても積極的にドライブに突っ込んでシュートに行った彼女の姿勢を褒めてくれたようなのですが、その一言が彼女を変えてしまいました。

「監督に褒められたい」

その想いだけなのでしょう。練習中も、これまでは大人相手に逃げ腰だったゲームでも必死に全力でくらいつくようになり、しょっちゅう声をかけてもらえるようになったのです。

それで気をよくしたチビろばちゃんは、わからないことがあればバスケノートに書いて監督に質問し、それに丁寧に答えてくれる監督がまた嬉しくて、練習でも積極的に挑戦する。何か指摘されればそれを直そうと必死に練習して、その姿勢が伝わってまた褒められて。

良いループの典型のような形です。

ついに「早く練習にならないかな。待ち遠しい」
という言葉が彼女の口から出ました。もう、耳を疑いましたね。

3月に移籍して以来週5回、毎日往復一時間の遠い体育館で3時間、以前とは比べ物にならないキツイ練習に身体がついていかず、一時は内臓疲労で体調を崩していたちびろば。

朝眠たそうにリュックや水筒を用意しながら思わず「今日も練習かあ…」とつぶやいているところをみて、こんなんじゃ気持ちも続かないかも、と心配になっていた時もあったのです。


それが、どうでしょうか。

毎日練習が終わるたびに「今日は監督に○○を褒められた。でも、判断を早くするよう注意された。明日はもっと早くパスだせるよう注意しなきゃ」

過去に何度も「一日一個でいいから自分で目標を立てて、それだけ頑張ってみなよ。」などとアドバイスしてきてしました。

周りからいくら言われても、自分の中から湧き上がる何かがなければ努力することってできないものなんですね。逆に言えば、自らの内に芽生えた欲求のためならいくらでも頑張れる、ということです。

彼女を今支えているのは「監督に認められたい」その気持ちなのでしょう。
パパろばと、もう自分たちは何にも言う必要がないよね、と毎晩のように話しています。

「憧れ」の威力を、思い知った出来事でした。

秋季大会予選まであと2か月。がんばれ、チビろば!

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