目を澄ませて、東京に住ませて
東京に住んで10年になる。
東京の隅から隅まで住んだわけでもないけれど、23区の西側しか住んでいないけれど、東京は住みやすい。
車がなくて生活できる。電車や自転車、なんなら徒歩だって、色々なところに行ける。話題の展覧会だって、SNSでバズっているネオ居酒屋だって、思いついた日に行くことが出来る。
これだけ色々なコトやモノが集まっている街なんて、世界広しといえどもなかなかない。僕は東京に住み続けたい。
そんな話を東京から離れた友人にすると「今はまだ若くて健康で、障害もないから東京が良いんだよ」と言われた。そうなのだろうか。
目を澄ませて、東京の街を見てみる。たしかに溌剌として健康的で、若い人たちは多い。だけど見れば見るほど、色々な人たちがいる。
彼ら全員が東京に住んではいないだろうが、様々な人たちが居る東京は、SDGsの11番「住み続けられるまちづくりを」の実現がしやすいだろう。
実際「世界で最も住みやすい都市ベスト25」2022年版で、東京は6位らしい。
それでも全員が住み続けられる街にはまだ遠い。そのことを映画『ケイコ 目を澄ませて』から感じた。
ケイコは耳が聴こえないため、トレーナーの動きをじっと見つめてボクシングを覚える。その様子が「目を澄ませて」なのである。
音が静かで映像に集中しやすいため、観ている側も思わず「目を澄ませて」しまう工夫がされている。
劇中でケイコは、聴こえないせいで危ない目に合ったり、怒鳴られても無視してしまったりと、苦労している様子が散見された。
その中でも特に印象的だったのが、コロナ渦でマスクをしているせいで、同僚や警察官とコミュニケーションが取れない場面が多いことだ。「マスク必須」が聴覚障害の方にとって、こんなに不便なのかと驚いた。
マスクで顔の半分が覆われているため、唇の動きが見えないのはもちろん、表情も分からないため、相手が怒っているのか、困っているのか、分からない。新しい生活様式に慣れてきたと思っていたが、まだまだ困っている人は多い、想像力が足りなかったと痛感した。
彼女が東京を住み続けたいと思っているかどうかは、劇中で語られることはない。
知らない人に怒鳴られたり、マスクをした警官に絡まれたりして、東京が嫌いになったかもしれない。母親に「いつまでボクシングを続けるの?」と言われ、さらには通っているジムが閉鎖になり、ケイコは悩みまくっているから、もしかしたら東京を離れたいと思っているかもしれない。
それでも東京の下町で、熱中できることがあって、障害があっても精一杯生き抜こうとしている彼女みたいな人にこそ、住み続けたいと思われる東京を目指したい。
そのために、好きで東京に住んでいる僕にできることを「目を澄ませて」見つけていこうと思う。
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