良き解説者をモトム
大学4年生の時に、ニューヨークまでNBAを見に行った。
社会人になる前に「世界経済の中心を見に行こう」とニューヨークを選んだのだが、全員がバスケ経験者だったこともあり、せっかくなら本場のバスケを見ようということになった。
4泊5日のニューヨーク旅行の中で、予定らしい予定はNBAを見るくらいで、あとはノープラン。ニューヨークまでNBAを見に行った旅行といっても差支えないだろう。
実際、生で見るNBAを楽しみにしていた。ニューヨークを本拠地にしているのはニューヨーク・ニックスというチームで、当時はカーメロ・アンソニーという有名選手もいた。普段からNBAを見ていた訳ではなくても楽しみだった。
しかし結論から言えば、思っていたより楽しくはなかった。
生で見る臨場感や迫力はもちろんあったし、レベルの高い試合に興奮したことは、した。だけど、そこまで楽しくはなかった。興味が持てなかったのだ。
スポーツを見るのが嫌いな訳ではない。
大学生当時は、ルームシェアをしていた同居人か無類のスポーツ好きで、一緒に観ることもあったし、最近よく行く飲食店はテレビで野球や格闘技を流しているのをよく観ている。
しかし、ただ試合を見ているだけで、そこまで興味が持てない。わざわざニューヨークでNBAを見てもそうなのだから、もはやスポーツ観戦に向いてないのかもしれない。
それでもどうしたらスポーツ完全に興味が持てるかを考えると、「解説」があれば良いかもしれない。
解説といっても、スポーツのルールや試合の流れ、戦術などを教えてほしいのではない。この試合になるまで、それぞれのチームや選手たちに、どういう背景があったからを教えてほしいのだ。
例えば、「この選手とこの選手は同じ高校の先輩・後輩で、今はライバルチーム」だとか、「この選手はずっと控え選手だったのにチームに残り続けて、監督が変わってようやく目がでた」「今日の試合負けたら監督解任がかかってる」とか、ただ試合を観ているだけでは分からないような背景知識を聞きながら観ると、俄然興味が湧いてくる。
興味がないことでも、背景知識を知ることで興味が湧いてくることはよくある。東京オリンピックの直前に、選手の生い立ちを追った特番がたくさん組まれていたのも、たぶんそうだ。
知らないスポーツであっても、出場する選手がどんな環境で育って、いかにして日本代表になったかを知ることで、その選手を応援したくなるように仕向けているのだろう。
同じことはスポーツ以外のことであっても言える。例えば日本史に全然興味がなかった自分が「幕末」に興味を持ったのは、司馬遼太郎という優れた解説者のおかげだった。
司馬遼太郎は小説を書くときに、些末な事件や人物であっても、徹底的に調べ上げる。そのため小説の中で、何度となく話が脱線して「豆知識」が入ってくるのだが、それによって話しが立体的に見えてくる。
例えば、坂本龍馬が新婚旅行で九州に行ったときに立ち寄ったとされる旅館に実際に行ってみて、どんな場所にあるのか、そこが当時どんな風であったかを、実際に訪れた雰囲気から推測している。だから文字で読んでいるだけでも、リアルな情景が浮かんでくるのだ。
そんな脱線ばかりしているから、司馬遼太郎の小説は長い。長い活字を読むのが苦手な人は、現在公開中の『燃えよ剣』を見てほしい。2時間半の時間の中で、司馬遼太郎のエッセンスがぎゅっと凝縮されている。
さて話しが逸れた。ようはNBAが楽しめなかったのも、#スポーツ観戦の思い出と言われて、この程度の話しか思い出せなかったのも、すべて良き解説者と共にスポーツ観戦をしたことがないからである。
いつか、スポーツ界の司馬遼太郎に会う日が来れば、スポーツ観戦にのめりこめるのかもしれない。
編集:鈴木乃彩子
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