幸子は何故乳を出したのか|映画【黒い家】
この人間には心がない
第4回日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介氏による同名小説を映画化した「黒い家」
人間の狂気が垣間見れる邦画パニックホラーの金字塔。
本当に怖いのは、幽霊ではなく人間だということを味わえた。
【あらすじ】保険会社に勤める若槻慎二は保険金の説明に訪れた女性の家でその女性の息子の首吊り死体に遭遇する。警察は自殺と判断し、それに基づいて保険金も支払われることになった。しかし、両親の態度に不審なものを感じた若槻は自殺に疑問を感じひとり調査を開始する。そして、夫婦の保険金をめぐる異常な行動が次第に明らかになっていく……。
大竹しのぶが演じる妻幸子のサイコパスっぷりは、見た人にトラウマを植え付けること間違いない。
特に最後の若槻(内野聖陽)を殺害に来るシーン。
目をひん剥いて、怒りの笑みを浮かべ、完全にイかれてる幸子の顔が今も脳裏に焼き付いている。
そして、もう一つ脳裏に焼き付いているシーンがある。
幸子が若槻をマウントポジションで捉え、今確実に殺せるその時に、
「乳しゃぶれーー!」の雄叫びと共に自らの乳房を露わにし、
意識朦朧とする若槻の頭を掴み、無理矢理しゃぶらせるシーンだ。
!???
なぜ?
狂気というか、もはやギャグにすら見えた。
なぜ幸子は突然、乳を出したのか。その理由を推察する。
※ちなみに撮影で使われた乳は大竹しのぶではないそう。
監督の遊び心?
映画の後半は息つく間も無く、幸子の狂気を目にするため、観客の緊張は続く。
どんなにスプラッター映画慣れしている人であっても、さすがにこれでは疲れてしまう。
そう思った監督が遊び心で、幸子の乳を見せた。
狂気の中で乳を見せることで、観客にちょっと一息つかせようとしたのかもしれない。
とはいえ、これはあくまで映画の作り方的な話になってしまうので、
ストーリーの展開として、何故あそこで乳を出したのかを推察したい。
性欲が爆発した
殺人に対して性的快楽を覚える犯罪者がいる。
またそうでなくとも、殺害の直前に弱った相手に対して、自分が好きなように出来ると分かれば
性的欲求が出る人もいるだろう。
幸子も瀕死状態の若槻に対して、性欲が爆発したのかもしれない。
しかし人間の心を無くしている幸子が、急に人間らしい行動をとるだろうか。
ただの犯罪者であれば一応納得はいくが、幸子はサイコパスである。
普通の犯罪者が考える思考ではない。
親にも同じことをされた
若槻を追い詰めるシーン。
幸子はこれまでの狂気的な行為、なぜ保険金殺人を繰り返しているのか、その理由を口にする。
「親と同じことをして何が悪いのー!」
幸子も子どもの頃、親に保険金をかけられて殺されそうになった過去があったのだ。
その歪んだ家庭環境がサイコパス幸子を作り上げたのだが、
裏を返すと、幸子の行動は親を真似ているだけとも取れる。
つまり幸子が乳を出したのは、
幸子の母親も殺す相手に対して、乳をしゃぶらせていたからではないだろうか。
親の背見て子は育つ、親の乳見て幸子は育った
虐待をされて育った子どもは、自分の子どもにも同じことをするという。
それだけ親の影響力は子どもに対して絶大だ。
親の影響を受けて保険金殺人を繰り返した幸子が、親の影響で乳を出したとしても不思議ではない。
親の虐待といえば、
『きみはいい子』という映画も印象深かった。
【あらすじ】まじめだが優柔不断で、肝心なところで一歩を踏み出すことができない新米の小学校教師・岡野。近所のママ友たちとの表面的な付き合いの陰で自分の娘に手をあげ、自身も親に暴力を振るわれていた過去をもつ雅美。最近感じはじめた認知症の兆しにおびえる独居老人・あきこ。とあるひとつの街に暮らし、悩みや問題を抱えて生きるおとなと子どもたち。彼らが、人と人とのつながりに光を見いだし、小さな一歩を踏み出していく。
-Amazonプライムビデオ 『きみはいい子』より
劇中、我が子を抱きしめ、優しい言葉をかける母親がこんなことを言っている。
「私があの子に優しくすれば、あの子も他人に優しくしてくれるの。子どもを可愛がれば、世界が幸せになるわけ」
子どもの幸子に必要だったのは、
保険金をかける親ではなく、優しい言葉をかける親だったのかもしれない。
幸子の乳を推察することは、幸子の生い立ちを想像することに繋がり、しいては親子の関係を考えるきっかけになった。
本当に怖いのは人間だが、
本当は優しいのも人間であってほしいと願うばかりだ。