ベンチで日常からハレを見つけよう
日本人の伝統的な価値観に「ハレの日」がある。古来より重んじられる祭日や結婚式などの特別な日を表していて、柳田國男が見出した。
「正月」は、ハレの日の中でも「代表的なハレの日」と言っても良いだろう。お節などの食事から初詣などの行いまで、色々なことが日常とは違う。そして気持ちの高まりも違う。
ただ冷静に考えたら、正月の1日も、また別の月の1日も、同じ24時間で構成された1日なのに不思議なものだ。
ちなみに、特別なこともない「日常の日」を「ケの日」という。「ハレの日」「ケの日」と名前を付けることで日常と非日常を使い分け、生活全体のバランスを取っているのだ。
非日常みたいな特別な日が多ければ生活が豊かになりそうな気もするが、そうはならないのが人間。非日常が続いてしまうと、非日常が日常になってしまうことは、コロナ禍を経て体感的に知っている。
それならば逆に、ありふれた日常から非日常を見出すことは出来ないだろうか。
その方法を解き明かすヒントが、2025年の正月から全国拡大ロードショーになる『アット・ザ・ベンチ』である。
川沿いに佇む一つの「ベンチ」を舞台に、5つのショートドラマが繰り広げられるオムニバス作品である。
久々に会う幼馴染、倦怠期のカップル、家出した姉を探しに来た妹、役所の職員と映画監督。それぞれ登場する人物たちの説明は少なく、彼らの生活の一場面がこの「ベンチ」によって切り抜かれている。他人の日常を垣間見るような作品だ。
しかし観ていると、彼らの日常に特別感を見出すことが出来る。何気ない会話がきっかけとなって、ここから変わるんだろうなと感じられる。
つまり、分かりやすい「特別なこと」がなくても、日常から特別を見出す「感性」があれば、ケの日からハレの部分を見出せのだ。それは分かりやすくハレの日/ケの日と分断された生活よりも、豊かな生活になりうる。
昨年にカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『PERFECT DAYS』も「日常生活に垣間見える特別感」という意味では、似たような作品かもしれない。しかしこの映画は「ルーティンのある日常こそ美的である。」という考えが強く、その点で実生活として真似しにくい。
この正月は『アット・ザ・ベンチ』を観て、他人の日常を参考に「日常から非日常を見出す」ことを考えてみてはいかがだろうか。
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