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おそらく最後の両国

マセキの最後の両国ネタ見せが終わった。

毎月、両国お江戸亭で行われていた、マセキのネタ見せ。

オリーブゴールド、ジャンピングイエロー、フライングピンクのマセキのネタ見せ。

たった、数ヶ月で、もどかしい思い出、苦い思い出、甘い思い出、楽しい思い出、悔しい思い出最高の思い出が出来た最高の街、両国。

学生時代が終わっても現在進行形で青春を感じられているのは、いろんな思いを背負って本気で両国に通っていたからだと思う。

はじめてのオーディション

僕は、今年の3月から両国のマセキネタ見せを受け始めた。
受け始めたきっかけは、芸人を始めて間もない頃、相方の水質が先輩のニッキューナナさんに「マセキ受けてみれば?」と言われたことだった。

なのでニッキューナナさんには本当に感謝している。もしかすると僕らは何の行動もせず、ボヤッとした目標に向かってネタを書いては、誰かに見てもらえないまま今年を終えていたのかもしれないから。

受け始めた時はまだ桜の咲き始めで春の匂いに包まれていて、あったかい日差しと程よい風が身体を包み込んでいた。

前日のLINEでJR両国駅西口で待ち合わせををしようとなり、僕は緊張からかその日はたまたま早く着き両国駅西口で待っていた。2.3分遅れて石原が到着し、駅前の喫煙所でタバコを吸っていた。
「石原、緊張するなぁー」「そーですね、どんな感じなんですかね?オーディションって」「想像つかないよなー」と期待と不安が入り混じりながら水質と到着を待っていた。集合時間から5分、10分がすぎ、水質からLINEが来た「大江戸線の両国駅にいるので西口向かいます」その数分後「どこいますか??私は着きました」と送ってきて、(遅れてるのはお前だろ!)とは思ったが、水質らしい文言過ぎて僕は少し緊張がほぐれた。

初めての道は長く感じるもので徒歩5分程のところにある会場が徒歩15分くらいに感じた。
ただ、目に入るもの全てが新鮮で、横綱横丁や、芥川龍之介生育の地や、ちゃんこ鍋ややらが建ち並び、今からオーディションだというのに何故か心はワクワクしていた。

オーディション会場の近くに行くと、約100人くらいの人がいた。会場の裏に少し大きめの両国公園というものがあり、子どもたち30人くらいが園内を走り回り元気な声がこだまする中で50人くらいの10〜20代の青年たちは1人、ないしは2人、3人で一塊になり小さな声でネタの練習をしていた。

こんなカオスな公園は後にも先にも両国では見れないのだろう。

ちらほら見たことのある顔も居たが、ここにきてる全員がこのオーディションに向けて本気で作ったネタをぶつけに来ていて、気安く話しかけられる訳もなく、それを見て昂揚している自分を俯瞰して見た時、オーディションというものの怖さ、難しさなどを少しながら悟ったように感じた。

集合の時間5分前になると、公園にいた皆が荷物をまとめ両国亭に向かい始める。自分らもネタ練習を終わらせ向かうと既に約40組ほどが並んでいた。

その時僕は、この中でオーディションに受かるのが何組で、その内何組が所属になるんだろうと考えてしまい、マセキという事務所のブランドとハードルの高さに少し怯んだ記憶がある。

前の人から順に、検温をし、オーディション用紙を渡されていた。
何人かは検温に引っかかり帰っている組もいた。そんな人を見るだけで徐々に体温が上がっているような気になってしまいそうで並んでいる時はいつも食べたいアイスを想像する癖がついていった。

無事検温が終わり、オーディション用紙を渡された。書く内容はそれぞれの芸名、どんな芸人になりたいか、自分のPRポイント、憧れの芸人など書く欄があった。

初めてで、何を書けばいいのか全くわからず動揺していると、石原が「ちゃちゃっと書いちゃいましょう!!」といい、水質も「とにかく枠を埋めるまで書いちゃえばいいですよね!」と意外とポジディブでまたここでも2人に救われていたように思う。

オーディション用紙を書くのも一つの戦いだった。

書いている時、周りを見たわたすと、記入ボードを持ってきている人や、工事中のフェンスや公園の石塀を下敷きにしている人がいた。

記入ボードを持ってる人のマセキオーディション慣れてる感がすごく、その次のオーディションまでには購入をすると決意した。

いい感じで埋まったオーディション用紙を持ち、受付に持っていった。

受付に持って行くと女性のスタッフさんがオーディション用紙を受け取ってくれた。
ただ受付のスタッフさんはオーラが凄く、
もう既にこの人がマセキに入って大丈夫な人なのかを見られている感じがした。

今になってみればそんなわけもなく、なんならそのスタッフさんはよく笑う人だったので、自分の置かれている立場、環境、だけで人の思い込みは印象を180度も変えるんだと思った。

徐々に出番の時間が近づき、お江戸両国亭の楽屋に入る。楽屋に入っても特に誰とも話さず3人でネタの練習をした。

出番が2.3番前になり、舞台への細通路に進む。

そこがまぁ狭い。
狭すぎる。
狭すぎてネタが飛びそうになるくらい狭い。

舞台で前の人らがネタをしてる音が全て聞こえてきて、口から心臓が飛び出そうになる。
飛び出そうになることでまたネタも飛びそうになる。

ネタ見せは構成作家の深町さんとチーフマネージャーの嘉山さんの2人だけが見ているのでほぼ笑い声も聞こえず、さらにネタが飛びそうになる。

もうネタ飛び役満が一向聴している状態で自分達の番を迎えた。

スタッフの方が
「えー、次嬉しい朝さん」
と呼ぶ声がしたネタ飛び役満がテンパイになった。

はじめてのオーディションは
【路上ミュージシャン】のネタをやった。

路上ミュージシャンがなかなか歌わず、ギターを使ってパントマイムばかりをするネタで、歌声を聴くために沢山投げ銭をするネタだった。

とにかく印象に残って欲しいと思い3人とも大声でネタをやったのを覚えている。

正直緊張し過ぎてネタを飛ばしたかどうかも覚えていたなかった。

幸い、ネタは飛ばしておらず、ぎりぎりネタ飛び役満は上がらずに済んだが、全く感触がわからないままお江戸亭を後にし、両国駅へとぼとぼ帰った。作家さんからダメ出しとかもらえるのかな??とか思っていたが、本当にただネタを見せるだけで終わり、後日合格者だけに電話が入るとのことだった。

「どーだったんだろ?ダメだったかなー」
「いやーわからないっすねー」
「なんかドッと疲れましたぁ〜」

くらいしか会話を交わさず気づくと駅前に着いていた。

そんなはじめての両国オーディションはとてももどかしい思い出だった。

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