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アマビエの横顔
今般のコロナ禍により、それまでほとんど無名であった「アマビエ」なる妖怪が、思いもかけぬ脚光を浴びることとなった。
テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第5期(2007年4月1日〜2009年3月29日)を見た方はご存知であろう。当時は全く何の妖怪なのか知らずに見ていたが、どうやらアマビエ、災いを予言するものらしい。
ただしここで重要なのは、既に多くの人々が指摘している通り、災いを予言はするが、決してアマビエ自身が災いを払う、とは言ってはいない点にある。
にもかかわらず、時既に遅し、アマビエがこの忌々しい疫病を追い払ってくれるのだと言い、多くの人々がこぞってアマビエを描いており、いくつかの商品が早くも流通販路に乗っている。
誰もアマビエが本当の解決策だなどと信じてはいない。しかしこの謎めいた古文書から飛び出した妖怪がすっかり市民権を得るまで、さして時間はかからなかった。なんと不思議な国なのだ、日本とは。
などと言いながら、私もついに、流行り物に乗ってしまった。
描くとは言っても、数多の絵師様たちが思い思いに個性あふれるアマビエを生み出した後であるし、もとより絵で勝負出来る腕などないので、なるべく真面目にふざけるしかない。
かくして私は、カカポをモチーフとした、大変やる気のないアマビエ「カポビエ」を爆誕させた。
(図中の表記が「ちりビエ」となっているのは、「おちりを見せるアマビエ」というコンセプトがあった為)
カカポをご存知ない方も多いかもしれない。緑色の大きなオウムで、ニュージーランドの固有種であるが、絶滅危惧種の為、現在、ニュージーランド政府により手厚く保護されている。(2020年時点で213羽)
そんなカカポ、実は2019年から大繁殖期に入っていたのだが、アスペルギルス症という真菌による感染症が流行してしまい、何羽もの雛や親鳥たちが犠牲になってしまった。カカポたちは人類より少し先に、目に見えぬ敵と戦っていたのだ。
数カ月後、保護団体やボランティアスタッフたち、世界中からの寄付金によりなんとか持ち直し、たくさんの雛たちが巣立って行った。そして今年、1歳のお誕生日を迎えた若鳥達が、続々と新しい名前を貰ったそうな。
カカポという存在そのものが奇跡のようなものだ。そんなカカポをモチーフにアマビエ描くとか、ちょっとシャレてないすか?ねぇねぇ、ちょっとよくないすか?
祈りを捧げても、ウイルスはいなくなりはしない。しかし今を生きる我々が、日々、些細な楽しみを見つけたり分かち合ったりすることは、決して無意味なことではない。
人々の祈りを、今日もアマビエはその不思議な横顔で、静かに受け止めるのだろう。
カカポリカバリー(英語)
https://www.doc.govt.nz/our-work/kakapo-recovery/