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鳥は嗅ぐもの
犬と暮らしていた頃、よく犬を嗅いでいた。
頭、鼻、背中、肉球、それぞれ少しずつ臭いと強さが異なり、特に肉球を嗅ぐ時は少し嫌がられたりなどもしたが、それでも嗅ぎたいのが、かいぬしの性である。
きみちゃんと暮らしている現在、私は当然のように毎日きみちゃんを嗅いでいるが、これは私だけのおへんたい行為ではない。鳥飼いは大概、愛鳥を嗅ぐものだ。
愛鳥だけではない、ふれあいが許される施設の鳥さんなども、隙あらば嗅ぐ。そして愛鳥との違いを楽しむのだ。
「インコ臭」という。嗅いだことのない人間には、この臭いの正体など見当もつかぬ。どんな臭いかと聞かれても、説明のしようがないのだ。
「コーンスナックのにおい」「濡れ雑巾のにおい」等と表現する人もいるが、私の場合はきみちゃんの臭いを何に例えたものか、いまだに答えが出ずに困っている。
インコ臭の源泉は、腰羽の下に隠されている「尾脂線」から分泌される油分にある。だからいちばん臭うのは尾脂線周辺なのかと言うとそうではなく、また、常にもふもふのおちりでもなく、きみちゃんの場合、いちはん臭うのは、首の後ろの辺りである。
首の後ろの辺りは、ミルフィーユ状に少し羽が開いていることが多く、鼻を突っ込むと、強烈なインコ臭を脳天いっぱいに吸い込むことが出来る。
えも言われぬ芳香であるが、一般的な言葉でいうと「臭い」のだ。しかしこの臭さが中毒性が高く、鳥飼いはひとたび嗅いだが最後、このインコ臭の魅力から逃れることは出来ない。
人がなぜこの臭いに囚われるのかは分かっていないが、毎日この豊潤なインコ臭を堪能出来るのは、ひとえにかいぬしだけの特権と言えるので、いつまでも健康なインコ臭を放ってくれるよう、今日も嗅ぎつつ、きみちゃんのお世話に余念がない。