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ポスティングと胎内回帰願望

人様の家の敷地内に堂々と入れる仕事はポスティングぐらいだろう。しかも1日に何百件も。
玄関だけで生活の雰囲気が千差万別、生きている者達がたくさん居ることを再確認できる。

立派な邸宅でもポストは埃にまみれていたり、ボロの古いお宅でも小さな鉢植えが丁寧に並んで小綺麗であったり、集合住宅では入りきらないチラシがそのままのポストや、ビニ傘が10本以上ある玄関、ごみ屋敷寸前の扉の隣は、扉ごと洗ったように綺麗なお宅など…扉からの性格も面白い。
あるアパートではむせかえるバニラ臭の玄関を通りすぎて道路に出ると、向かい側の一軒家のポストは小鳥の家か迷うDIYであった。こういう事が出来る余裕は羨ましい。

「飲食以外のチラシいれるな!」やら「不動産チラシはお断り」はては「とかげが侵入するのでポストはしっかり閉めてください」などのメッセージも見る。強めのものには「入れたら着払いで郵送します」とか。一行でこんなにもコミュニケーションをとらせてもらい、とにかく歩く量も多くなるので、頭を使い体も使い、お金にならなくとも学びが多い仕事です。

何かを煮炊きしている懐かしい匂い、鳩がなく声、木蓮が咲き始めて、ジャスミンも香る。故郷にジャスミンはなかったように思うけれど、生家に帰りたくなる。老いた親がまだ若い状態で、私もまだ学生で、今なら期待に応えられる。戻れないから不可能で、何も生み出さない妄想をして家路に着く。
時間は有限だ。
明らかに有限だ。今日が1番若いのだ。

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