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秋に煌めく宝石物語。

さくらももこ先生のエッセイを紹介するシリーズ。
今回は「ももこの宝石物語」を見て行こう。

聞くだけでもキラキラワクワクのタイトルである。
でも、さくらももこと宝石・・?

ちょっと接点が掴みにくいなとも思った。
さくら先生といえば、宝石というより
珠玉のズッコケエピソードだから・・。

たまたま宝石について詳しくなりたいなーと
思って眺めていた一冊の本が、さくら先生の人生を
大きく変えたのかもしれない。



「パライバ・トルマリンの巻」


ブラジルのパライバ州でしか採れない、
青と緑が混ざったような美しい宝石。
産出量も少なく、もしかしたら幻の石になってしまいそう。
(2002年時点)

そんな宝石に、さくら先生は引き込まれたのだ。


その青は、さくら先生が一番好きな色。
海の青とも空の青とも言えないが、
どこかで見た事があるような。

1989年にデビューした新顔。
しかしその産出量は少なく、入手困難ゆえに
値段も高い。

とても欲しいのに、
そんなもの、どこで買えばいいんだろう。

「この本を書いてる人が、店をやってりゃいいのに・・」

そう思って読み進めて行ったら、
本当にこの本を書いた人の店が載っていた。

やった。
夜中に張り切り、友人の木村さん(レギュラーの新潮社の人)に
電話をかけて一緒に宝石店に行く約束をした。


さくら先生が手に取った本「宝石の常識」の著者、
岡本憲将さんは店で待っていた。

娘さん4人がさくら先生の大ファンであり、
いつも家ではさくら先生の話ばかりしているという。
一体どんな話をしているというのだ・・

パライバ・トルマリンを見たいと言ったら、
岡本さんはコレクションのパライバを揃えて見せてくれた。

写真と全然違う!
本物は、思わず目を回して倒れそうになるほどに
美しかった。

「パライバ・トルマリンは地球の色なんです」

海とも空とも言えぬこの青は、地球の青だったんだ。

「さくらさんが前に出したエッセイの本の中で
『私の一番好きな青色は、空の青とも海の青とも違う』って
書いてあるのを見て、うちの家族の間では、
さくらさんは絶対にパライバが好きだねって、
言ってたんですよ」

これから好きになろうとしている物を
岡本さん一家は以前から予言していたのだ。

予言通りにそれを好きになり、
偶然にして岡本さんの店に来るなんて、
縁は異なもの味なものだと恐れ入った。


その日は岡本さんに選んでもらった
綺麗な色の小さいパライバ・トルマリンを買い
指輪を作ってもらう事にした。
心配だった値段も、多分うんと安くしてもらったのだろうが
全く安心価格だった。

しばらくしたある日、知人が家に遊びに来て
息子と何かを話していた。

「オレが一番好きな色はね、何て言うのかな。
海の青でもなく空の色ともちょっと違う、
えーとね、青に少しだけ緑が入っているようなかんじの色
なんだ」と
言っていたので心の底からビックリした。

一番好きな色の話なんてした事無かったのに。
細かい所まで一緒だ。

思わず息子を抱きしめて、
「ママも同じ色が一番好きだよ」と言って、
それが地球の色である事を教えた。

息子は少し照れながら「オレと同じ色が好きなんて、
マネすんなよ」と言って笑った。

パライバの如く美しいエピソードだよなぁ・・と
少し感動したのも束の間、ここはさくら先生。
綺麗に終わる訳が無い(失礼)



「ヒスイの巻」


飛ばしたが、さくら先生は母に
ヒスイを買ってあげようとしたが
母は「エメラルドが欲しい」と言ったので
仕方なくそれを買ったのだ。

しかし母はヒスイの事も気になっている様子。

人は、手に入った物の事は忘れ、
手に入らなかった物の事ばかり気になるものだ。

だからといって、ヒスイまで買ってやる気はしない。

この前エメラルドを買ってあげたのだから、
長期間(少なくとも二年間位)はお姉ちゃんでなく
妹のももこの方に感謝しながら文句を言わずに
生きてもらいたいものだ。

母の態度次第では、今度はヒスイを
買ってあげてもいい。

・・・なんか、天上人の会話って感じ。
それほどにさくら先生と母は宝石に魅入られていたのだろう。
宝石の魔力とは恐ろしい。


「あたしゃヒスイが欲しいから、
今度ももこと一緒にベルエトワール(岡本さんの店)に行くよ」

そんな事言ったって、もう買ってやらないよ。

「自分で買うよ。
あんたにばっかり買ってもらわなくてもいいんだから」

あんまり買ってもらうと、娘に恩を着せられるかもしれない事を
母は見破っているような気がした。親子・・

母は自分の宝石箱を持ってきて、
若い頃買ったというヒスイを見せてくれた。

岡本さんが書いた本を見ていたら、
同じような色のヒスイがランクの低いものだったという。
だからもう少し良いのが欲しい、と。

岡本さんは「琅玕(ろうかん)」という
質の高いヒスイを見せてくれた。

トロリとした銀杏のようなツヤと
透明度のある緑色のヒスイに対して使われる呼び名だ。
産地は上質のヒスイを産出するビルマ。

「・・・コレ、いくらですか」

答えは、装像より随分安かった。
母は迷う事無く財布の口を開けた。

さくら先生も慌てて、
同じようなものが無いかと尋ねた。

こういうものは滅多にあるもんじゃない。
お母さんはラッキーだった。
またこういうのがあった時に買って下さい、と言われた。

前は形見にエメラルドが欲しいと言ったけど、
やっぱりそのヒスイを頂戴。

読んでいると会話がお金持ち過ぎて
疲れてくる部分は正直ある。

お母さん、調子に乗るなって
ちょくちょく言ってたのにな・・。

お金ってやっぱり人を変えてしまうんだなぁ。
良くも悪くも。



「スタールビーの巻」


光を当てると星が出るルビーがある。
それがスタールビー。

先日完結した「推しの子」にも
ルビーというキャラがいるそうだが、
由来はこの宝石だろうか。
おめめの煌めきが似ている。

カボションカットという、
丸っこいカットにしないと出てこない。
出てこない事も多い。

星が出てなくたってルビーはルビーで
綺麗なのだ。そこに星が出るんだから
ありがたいったらない。

そんなありがたいスタールビーを
うっかり紛失する話。

スターサファイアもあるよ。


「アクアマリンの信じられない思い出の巻」


この本、一つ一つの話の扉が
宝石の写真なのだが、みんな美しい。

とりわけ、この扉に使われたアクアマリンは
素晴らしい。奇跡の一品。

それはさくら先生所有のアクアマリンの指輪。
巡り合うまでの奇跡オブ奇跡の話。

そんな上手い話が・・あったよ、ここに。



「コルコンダ・トルマリンの巻」


ゴンザレスじゃなくて、コルコンダ。

岡本さんがパライバ・トルマリンを
いっぱい仕入れた際に、コルコンダ・トルマリンという
宝石もちょっと仕入れてきたという。

緑に少し青を混ぜて透明にして
重みと渋みを足したような。
何とも言えない妖しさと気品がある。

パライバとはまた雰囲気が違う。
見せてもらったでも小さい石でもそれなりに大きさがあり
値段もパライバよりぐんと安い(現地価格)


母へのクリスマスプレゼントにどうかと思った。

本当は、パライバ・トルマリンをプレゼントしようと
考えていた。しかし、

「あたしゃパライバ・トルマリンなんて、
いくらキレイだからって小さくて高いんだから
欲しくないねっ。もっと安くて大きくて
キレイな石の方がよっぽどいいよ

パライバに対して暴言を吐きつつも、
いつもさくら先生のパライバを見ては
羨ましがっていたのだ。

安くて適当な大きさのパライバがあれば
買ってあげようと思っていたが
そんなものは無かった。

それにひきかえ、このコルコンダ・トルマリン。
母の希望通りではないか。

・・自分だって欲しいけど、ぐっとこらえて
指輪を作ってもらった。

「一度あげた宝石は、たとえ親でも取り戻せないですから、
さくらさんがどうしても欲しかったら、御自分のに
した方がいいですよ」



「宝石が好きなら読んでみても良いかも」


・・本当にもう、現実なのに日常というものと
大きくかけ離れた会話ってのは、聞いてて疲れてしまう。

さくら先生の文章力だから読めているのである。

ちょこちょこ、金持ちの余裕がちらついて
鼻に付く部分もあるけれど、宝石にちょっとだけ
詳しくなれる。写真も美しい。総合的に見れば楽しい本。

宝石が好きな人におススメ。
「宝石の常識」と併せて読むも良いだろう。

我が家には岡本さんが書いた
「失敗しない宝石選び」という本がある。

宝石の写真をいっぱい見たいし
詳しい解説を読みたいよという方は
こちらもおススメ出来る。
産地別の色の違いとか、ランク別に並べた図とか。

この本にもパライバ・トルマリンは載っている。
これは確かに、引き込まれる美しさ。
素人でも魔力をひしひしと感じる。



「サファイアに憧れて」


私もいつか、
誕生石の指輪を作って常に身に着けたいと
思っている。そう考え始めたきっかけがこの本。

サファイアは高価な石。
スターの出るサファイアはもっと高いだろう。
コーンフラワーブルーだったら更に。

いつか、いつか手に入れて見せる。
私を高めてくれる魔力を持った宝石を。


今はただ、スキルを磨いて邁進するのみ。

無力と孤独の虚しさを乗り越え続けた先は。


世界は、それまで私を生かしてくれるだろうか。
それでも生きてやる。最期まで。

「ここまで読んでくれてありがとう!
唯一無二の君が大好きだよ!
スタンプページに飛ぶから是非見てって!」


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