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J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 14

前回のつづきです。
vol. 13はこちらhttps://note.com/male_childcare/n/neb924417d6b6

「そう、三店方式だ。ここからが今夜の話の核心になる。なぜ、パチスロ業界を国際金融部が担当しているか、分かるか?」
「海外資本の会社が多い業界ですよね。以前は日本のパチスロが某国への資金供与の源泉だ、なんて週刊誌等で叩かれたこともありましたね」
 佐伯は手酌でお猪口に日本酒を注ぐ。
「過去の話だと思うか?」
 いつもは穏やかな佐伯が、いつになく真剣な眼差しで尋ねた。
 遠くからプロ野球実況の賑やかなテレビの声が漏れ聞こえてくる。おそらくホームランでも打ったのだろう。
「さすがに今のご時世、日本からテロ資金供与が行われているなんて、それはないでしょう。都市伝説じゃないんですから。海外送金の際のマネロン対策の厳しさは我々が一番知っているじゃないですか」
 
 マネロン(マネー・ローンダリング)とは、詐欺や脱税など犯罪で得た収益について、出所や本当の所有者を分からないようにして捜査機関による摘発を逃れようとする行為のことである。他人名義や架空企業の銀行口座を使って転々と送金を繰り返したり、株などの購入を装ったりするのが代表的な手口だ。放置すると組織犯罪やテロなどの資金源となるため、対策が国際的な課題になっている。
 2008年、マネロン対策を審査する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」が調査報告を公表した。日本は、NPO(民間非営利団体)がテロ組織などに悪用されるのを防ぐ法整備に関する評価が4段階中、最低評価であった。事実、NPOを通して某国への資金供与が行われており、パチスロは大きな資金源の一つとなっていた。そのニュースは当時、週刊誌やワイドショー等でセンセーショナルに伝えられた。
 この事件を契機に、金融庁はマネロン対策に取り組んだものの、2021年のFATF調査において再度日本は不合格とされた。特に、大手銀行以外の金融機関の取り組みが不十分とされ、金融庁は対策強化を促している。
 
「規制を厳しくすれば、必ず抜け穴が作られる。というより、抜け穴がありきで作られた規制と言っても過言ではない」佐伯は声のボリュームを落とし、囁くように言う。「これから話す内容は、絶対に他言無用だからな」
 一体、どんな話になるのだろうか。藤岡は日本酒の追加を注文した。

「パチスロ業界の利益率はどれくらいか、想像できるか?」
「固定費はある程度かかると思いますが、基本的には利益率は高そうなイメージですね。飲食業界で粗利率が60~70%、営業利益が5~8%と言われていますよね。それよりは高いんじゃないですか?」
 佐伯はふっと鼻で笑って答える「日本全体のパチスロの売上が14兆6,000億円と言っただろ。そのうち、粗利は2兆3,500億円、つまり、16%程度ってことだ」
「えっ、そんなに低いんですか?販管費引いたら営業利益なんて全然残らないじゃないですか!」
「そう、利益はどこへ消えた?って思うよな。どこに消えたと思う?」
 藤岡は少し思案し、答える「三店方式ですね」
「その通り。三店方式ならパチンコ店の特殊景品の仕入れ値を上げるだけで、利益をパチンコ店から景品問屋に移すことが可能だ。そして、景品問屋を法人税の安いシンガポールに設立しておくことで、法人税の高い日本ではほとんど利益を出さず、税金を安く済ませることができる」
 藤岡は思わず飲んでいた日本酒を吹きこぼしてしまった。「それって、まさにマネロンじゃないですか!」思わず声が大きくなる。
「まあ、落ち着け」佐伯は声のボリュームを落とすように手のひらを上下させる。「この三店方式は日本では合法なんだよ。分かるか?警察庁も金融庁も国税も、誰もこのスキームを認知していない」
「いや、さすがに海外を経由させるのは、まずくないですか?うちの国際金融部はそんなやばい取引に応じているんですか…」
「特殊景品を輸入するのに、何の問題があるんだ?」
「問題…ないですかね…」
 しかし、どこかが腑に落ちない。藤岡は三店方式の仕組みを今一度考えてみた。いや、やっぱりおかしい。
「三店方式だと、特殊景品が三者間で行ったり来たりするわけですよね?特殊景品を輸入するだけでなく輸出もしているってことですよね。さすがに関税や運送費考えると、逆に効率悪くないですか?」
「おっ、よくそこに気づいたな。鋭い指摘だ」
「まさか、帳簿上だけのカラ輸出ですか」
「いや、さすがにそんな危ない橋を渡るほど、うちの国際金融部は馬鹿じゃない」
「じゃあ、何か別の抜け道があるんですか?」
「特殊景品を景品問屋に輸出せず、そのまま市場に流せるようなスキームにすれば良い」
「そのまま市場に、ですか」
「お前、特殊景品にどんな物が使われているか、知ってるか?」
「いえ、パチスロは未経験なもので…」
 佐伯はため息をついて、くいっと日本酒を飲む。
「以前はボールペンや文鎮、ライターの石なんて物が使われていたが、こういう特殊景品は一般の市場では全く価値がない。金融庁がマネロン対策を強化した2008年辺りから、あるものが特殊景品として使用されるようになった。一般市場でも価値のある物だ。分かるか?」
 
 
つづく

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(参考資料)

※実際の人物・団体などとは関係ありません。

【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
メールアドレス:mba2022.office@gmail.com

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