J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 18
冷めきったコーヒーを台所の流しに捨てた。コーヒーの香りが辺りに充満する。黒い液体が排水口に流れていくのを眺めながら、平良は自分のすべきことを考えていた。
上司が出てきて謝罪をするのかと思いきや、まさか全力で隠蔽してくるとは。
協賛金の受け取りということだけなら、J信金を介さなくても方法はいくらでもあるが…。
「問題はそこじゃない…」と平良は呟いた。
「金額は関係ありませんよ」岩野が吐き捨てた言葉が脳裏を過る。
その通りだよ、岩野。これは金額の問題じゃない。
今回の件は、信用金庫の旧態依然とした顧客を小馬鹿にした対応の典型例に過ぎないのかもしれない。中小企業や個人事業主は泣き寝入りする以外にない。これまではそれで済んでいたのだろう。これまでは…。
それにしても、と平良は思った。
同意がない、ましてや拒否していたにも関わらず、「同意あり」として返金処理が行われたという事実は普通の会社員である平良にはなかなか理解しがたかった。これらの行為は明らかな財産権の侵害であり違法である。このような違法行為が当たり前のように行われているのだろうか?そんなこと、令和の時代にありえるのか?
J信金の態度から察するに、今回のような隠蔽は決して珍しいものではないのかもしれない。黒岸の慇懃無礼な態度が思い出される。顧客本人を目の前にして、動揺の一つもなく、部下を庇うなんて、そうそうできることではない。初めてのケースではないのだろう。
この手の話はガバナンスが厳しい大手金融機関ではありえないが、地方の信用金庫では話は珍しくない。「信用」金庫という名を掲げているが、信用なんてあったものじゃない。大道廃れて仁義あり。そもそも信用がないから、「信用」金庫と謳う必要があるのである。
「…とはいえ、ガバナンスが効いていない金融機関なんて存在するはずがないよな」平良はキーボードを叩いた。
もし、リスク統括部が独立した部署として営業店へのガバナンスを効かせているのであれば、リスク統括部に相談すれば、何かしら解決の糸口が見えるかもしれない。
平良はスマホを手に取り、リスク統括部へ電話を掛けた。概要を説明すると、担当者へ内線が回された。
今回の事件の経緯を、端的に客観的事実のみを伝えると、「事実関係を確認して、こちらから再度ご連絡いたします」という機械的な回答があり、通話は終了した。
その日の夕方、平良のスマホにJ信金からの着信があった。
「あー、平良さんですか?」受話器からは野太い声が聞こえてきた。
電話をかけてきたのは黒岸であった。
「リスク統括部に何やら相談されたみたいですが、今朝も説明した通り、こちらは返金の同意を確認しておりますので」
事件の当事者である黒岸が出てくるとは予想外であった。本来であれば、調査人として第三者を立てるのが通例である。ここで黒岸が出てくるということは、リスク統括部は独立したリスク管理体制を取っていないということなのだろう。リスク統括部が木偶の組織だということを一瞬で理解した平良は、深くため息をついた。
「ですから、私は同意しておりません」
「いやー、水掛け論ですなー」
「黒岸さん、あなたね、こんな馬鹿げた対応をしていて、人間として恥ずかしくないんですか?」
黒岸が電話越しに一瞬押し黙った。
「…恥ずかしい?意味が分かりかねますね」
「そのまんまの意味ですよ」平良は言った。
しばらく無言が続いたあと、黒岸が口を開いた。
「とにかく、今朝の説明の通りですので、今回の件はそれでよろしいですね?」
「いいわけないだろ!」黒岸の言葉を遮り、平良は一喝した。
黒岸は電話口で押し黙る。
平良は言葉を続けた。「あなた方の返金処理は違法であり、速やかな原状回復を要求する。ご理解いただけましたか?」
「いや、だから、既に返金処理は済んでいますので…」
「そちらの事情は関係ない」
「対応いたしかねます!」黒岸の口調にも怒気が混じる。
「では、あなた方はどう対応するおつもりですか?」
「ですから、これ以上の対応は致しかねると申し上げているでしょう!」
お互いの怒りが電話越しにぶつかり、ピリピリとした空気が無言のうちに漂う。
「なるほど、やはりあなたとこれ以上話しても時間の無駄ですね。必ず然るべき対応をしていただきますから、そのつもりで」平良は言った。
しばらく返事を待っていたが、黒岸から何も返答がないことを確認して、平良は通話を切った。
つづく
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※実際の人物・団体などとは関係ありません。
【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
メールアドレス:mba2022.office@gmail.com
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