J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 6
2月21日、経済産業省からの後援が正式に認可されたという連絡が入った。経産省が実績のない、初開催のイベントに対して後援を認可するというのは異例のことである。また、大会当日には、経産省通商政策局の方に審査員として入っていただけることとなった。まさに僥倖といえる出来事である。
このような無理を通せたのは、多くの方々の協力の賜物であり、それはイベントへの期待の現れでもある。
——協力していただいた方々の期待は裏切れない。
平良にとって喜ばしい反面、同時に大きなプレッシャーであった。
無理を通してくれる官公庁がある一方、道理が通らない金融機関がある。それを思い知らされる事件が起きる。
2月23日、三菱UFJ銀行ウランバートル事務所からMBA交流クラブに対する協賛金$1,000の送金が行われた。企業としての厳しいコンプライアンスが求められる中、法人格を持たず実績もないMBA交流クラブに対して協賛金を払うということが、MUFGにとって高いハードルであったことは容易に想像がつく。
この協賛金は、対応していただいた方の強い推薦によって得られた信用であり、胸が熱くなる、温かいお金であった。
この日の昼過ぎ、J信用金庫営業の藤岡に電話がかかってきた。
国際金融部の岩野からである。
「この前と同じ口座にまたモンゴルから送金が来てますよ」岩野は藤岡を責めるような口調で、「口座への入金は止めていますので、前回と同様に組戻しの申請を行ってください」と言った。
―—事前に伝えられていた送金が来てしまったか、面倒なことになったな。
藤岡は心の中でつぶやいたが、何食わぬ声で、「今回はどこからの送金ですか?」と言った。
「えっと、MUFGのウランバートル支店からです。前回は協賛金か何かって言ってましたね。こんな怪しい海外送金、通せるわけがない。全くもって迷惑千万甚だしい」岩野は吐き捨てる。
「MUFGって、メガバンクの三菱UFJ銀行ですよね?それでも、やっぱり入金は難しいですよね?」藤岡はなるべく平穏な口調で聞いてみた。
「そういう問題じゃないんですよ!」岩野は高圧的な口調で言った。
「でも、送金元が信用ある企業であれば、断る理由はありませんよね?」藤岡は言った。
「だから、何度同じことを言わせるんですか?こんな海外送金を対応したところでうちに何のメリットがあるんですか?」岩野はいかにも人を馬鹿にしたような口調で言った。
藤岡は言葉に詰まる。
「支店の人間には分からないと思いますが、少額送金であろうと、海外送金の対応をするためにはラショナーレ(根拠)を用意しなきゃいけないんですよ。ラショナーレを。この案件にそのエフォート(労力)を割く価値があるんですか?」
藤岡が何かを言う前に、「言い訳は結構ですので、すみやかに組戻しの申請をして下さい。分かりましたね?」と岩野は一方的に告げ、電話を切った。
藤岡はしばらくデスクにうつむき、こみ上げてくる怒りと戦っていた。別に正義感で仕事をしているわけじゃないが、本部の連中の一方的で高圧的な態度には反吐が出そうであった。しかし、ここで本部に逆らっても一つもメリットはない。長い物には巻かれる、それが信金で生き残るために必要な働き方である。
息を整え、気持ちを落ち着けた後で、平良に電話をかけた。
「私、J信用金庫の藤岡ですが・・・」
「藤岡さん、お世話になっております。MUFGさんからの入金ありましたか?」
首を長くして待っていた平良は、待ってましたとばかりに明るい声を出した。
藤岡は申し訳なさそうに、「はい、三菱UFJ銀行さんからの送金はあったのですが…、やはり本部で口座への入金は止められてしまいました」と言った。
「そうですか。それで、何があれば入金していただけるんですか?」
「いえ、何があれば入金できるというわけでも…本部の判断となりますので…」
「必要なものを仰ってください。こちらでご用意いたしますので」
「ですから…何が必要というのも、難しい状況でして…」
「海外送金に必要な書類ですよね。MUFGさんと協力してご用意しますので、問題ない書類が揃えられると思います。何が必要か仰ってください」
「いえ…、何が…というと…」
電話越しに藤岡の焦燥が伝わってくる。
「以前にもお伝えした通り、審査には時間が掛かると思います。お金はすぐに必要なんですよね。前回と同様に別のルートで受け取られた方が良いのではないですか?」藤岡は必死に取り繕う。
「いいえ、今回の送金に別ルートはありません」と平良は言った。
大手のメガバンクだけに迂回ルートは許容されないのではないか、と平良は考えていた。何より、ここまでやっていただいた先方に対して、これ以上無理な要求で迷惑を掛けたくなかった。
「審査には、一年くらいかかるかもしれませんよ?」藤岡は言った。
「構いません、逆にどれだけの時間がかかるのか興味があるので何年でも待ちます」
「お待ちいただいたところで、受け取れる保証はありませんよ?」
「構いません。私は最善を尽くすのみです。もしこのような海外送金の受け取りが不可であるのなら、いち社会人として知っておきたいですし」
前回と同様、J信金の「海外送金の対応をしたくない」というあからさまな態度に平良はいら立ちを覚えていた。
「そもそも…」平良は言った「メガバンクのMUFGさんが厳しい審査を通して、この海外送金を行っているんですよ?それに対してJ信用金庫さんがマネー・ローンダリングやテロ資金供与を疑って入金させない、なんてことがあるんですか?前回の送金では送金元の組織がよく分からないからダメだって話でしたよね?今回はMUFGさんがよく分からない組織だというおつもりですか?」
「いえ…そういうわけでは…」
「では、何が理由なんですか?」平良は語気を強めた。
「…分かりました。本部の方に持ち帰らせていただきます」
「今回の送金、受け取れるまで、最後までいきますから」
平良はきっぱりと伝えた。
「最後まで、ですか?」
藤岡は驚いた様子で言った。
「最後まで、です」
平良は強い覚悟でそう伝えた。協賛企業の温かいお金に対して、他人が冷や水を浴びせているようでそれが許せなかった。このお金をJ信金がマネー・ローンダリングやテロ資金供与だと断定するようなら、徹底的に戦ってやろうじゃないか。平良はそう心に決めていた。
つづく
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(参考資料)
※実際の人物・団体などとは関係ありません。
【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
メールアドレス:mba2022.office@gmail.com
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